10月17日(日)放送
再建は可能か 社長たちの正念場
 

写真・左:スレート屋根をふく池上鈑金工業の池上敬造社長(54)。職人としての腕とこだわり、事業家としての夢も持っているが、長引く不況のなかで仕事は減り、会社の経営は苦しい。

写真・右:精密機械工業が発達し『伊那バレー』と呼ばれた長野県伊那市周辺。しかし、一昨年のリーマンショック以降、低迷から抜け出せないでいる。

 

左写真:中小零細企業の生き残り作戦を支援する経営コンサルタント“三匹の侍”。真ん中が笹雄一郎社長(48)。

 

地域経済の収縮がすさまじい勢いで進んでいる。先の見えない不況と急激な高齢化による消費の先細りが地域の中小企業を直撃し、数年前に比べて売り上げが30〜40%も落ち込んでしまった企業が珍しくない。とりわけ建設業の不振は深刻で、下請けや孫請けの企業は資金繰りのために赤字受注を繰り返し、経営がますます悪化する負のスパイラルに陥っている。そうしたなか資金需要は低迷する一方で、中小企業を主な取引先とする金融機関の信用金庫では「預貸率」の全国平均が55%にまで落ち込んだ。これは集めた預金の半分しか融資できていないことを意味しており、中小企業の経営不振は地域の金融機関の存立基盤を揺るがせるまでに至っている。
経営不信に苦しむ取引先の中小企業をなんとか立て直さなければ金融機関自体の経営も危うくなりかねず、ひいては地域が立ちゆかなくなる…危機感を深めた信用金庫が中小企業の生き残り作戦に乗りだした。「アルプス中央信用金庫」(長野県伊那市)では取引先企業の経営改善を図るために専門的なノウハウを持つ経営コンサルタントを導入している。東京に本社を置く「VTCコンサルティング」…笹雄一郎社長を始めとするコンサルタントの多くが、自分自身も中小企業のかじ取りに苦労してきた元社長である。この会社の経営指導の特徴は、単に企業再建の手立てを指南するにとどまらず、場合によっては、企業としての適切な「引き際」を見極めることにある。
精密機械工業が盛んで「伊那バレー」とも呼ばれた伊那地域だが、経済の停滞は深刻である。笹社長らは信金の職員とともに企業をまわり個別の経営指導を繰り返す。売り上げが落ちた機械工場には、少ない売り上げでも生きられる経営体質への転換をともに模索し、公共事業の削減で収益構造が崩れた建設業者には民需へのシフトを提案する。笹社長によれば、経営指導にあたる中小企業の「3割が再生可能、4割は延命可能、残りの3割は即刻廃業すべき」だという。延命の可能性がある企業には、中小企業と「運命共同体」の関係にある信金が可能な限りの資金援助を行って、ぎりぎりまで支える… 右肩下がりの時代、地域は「縮小均衡」を図ることでしか生き延びる道はないとも言われる。過酷な現実のなかでぎりぎりの模索を続ける中小零細企業の社長たちと経営コンサルタント。彼らの「対話」の現場にカメラを入れることで、経済の収縮にのたうちまわる地域社会の現状を描き出していく。

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