1月17日(日)放送
なまえをかいた 〜吉田一子・84歳〜〜
 

老いて初めて読み書きを習おうと、壮絶な格闘を続けている人たちがいる。
大阪府富田林市立人権文化センターでは、週に2回、識字教室が開かれている。生徒の大半は60代から80代の女性たち。その最年長の吉田一子(かずこ)さん、84歳。仕事や家事に追われ、還暦を過ぎるまで全く読み書きができず、自分の名前さえ書くことができなかった。識字教室で、鉛筆の持ち方から習い始め、あいうえおの練習に励む。挫折を重ねながら、やがて日記や作文が書けるようになった。心の奥底にしまい込んできた感情、「悔しさ」や「悲しさ」があふれ出してきた。
そして70歳の時、「なまえをかいた」と題する作文を書き上げる。そこには、貧しくて学校に行けなかった少女時代の悲しい思い出や、自分で自分の名前が書けなかったために、銀行で年金が下ろせず悔しい思いをした体験談などが、切々とつづられている。「なまえをかいた」は、部落解放文学賞の識字部門で最優秀作品に輝いた。
吉田一子さんをモデルにした絵本「ひらがなにっき」(絵・長野ヒデ子)が、最近地元の有志たちの手によって出版され、話題となっている。これをきっかけに、吉田一子さんの元には、地元の小中学校などから数多くの講演依頼が舞い込むようになった。未来のある子どもたちに、自分の体験を自分の言葉で語り伝えることが、一子さんの今一番の生きがいになっている。
世界有数の教育先進国と言われる日本。その陰で、貧困や差別のため教育が受けられないまま、年を重ねてきた“非識字者”は少なくない。
番組では、吉田一子さんの日常を通して、文字を学ぶことの原点を見つめる。

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