日本全国の自治体病院で医師の大量退職が相次ぎ、それに伴う診療科目の縮小、救急患者の受け入れ制限などが起こっている。いわゆる「医療崩壊」である。なかでも予想を超えた速度で崩れつつあるのが、私の身近なところで住民の命と健康を守ってきた「地域医療」である。
財政破綻(たん)した北海道夕張市で地域医療の再生に取り組む村上智彦医師(47)。地域医療を崩壊させたのは「病気でもないのに高齢者を病院に入れっぱなしにする社会的入院と安易な救急利用」だという。村上医師の医療再生への処方せんは、「なんでも病院頼み」の住民意識、自分の健康を医師に丸投げしようとする発想を変えることから始まった。
破綻した夕張市立総合病院の経営を引き継いで以来、村上医師は1年かけて社会的入院と安易な時間外受診を一掃してきた。そして、2年目の今年は、「病気を治すための病院」に留まらない試み、つまり「高齢化する地域で高齢者がより快適に暮らすための環境作り」に乗り出した。老人保健施設でのリハビリ(高齢者が自宅で生活するために必要)に加えて、自宅に戻ったあとの支援、つまり訪問診療や訪問看護、訪問口腔ケア、通所リハビリなどのメニューを組み合わせ、高齢者の暮らしを包括的に支えていこうとする試みだ。在宅福祉が立ち後れていた夕張で、医療と福祉のプロ集団「チーム・ムラカミ」のメンバーは診療所の建物から飛び出して地域のなかに入っていく時間が増えてきた。
しかし、その一方で、村上医師が夕張の医療再生のために設立した法人の経営は苦しい。患者が増えて医療面では軌道に乗りつつあるものの、病院の建物が老朽化しているため想定を遥かに上まわる光熱水道費が必要となるなど、このままでは経営を続けることができないところまで追いつめられてしまったのである。医療の質を落としたくない村上医師は病院の所有者でもある行政に一定の負担を求めたが、財政が破綻した夕張市には必要な支援をすることは難しい。よりよい医療を地域で実現するのに必要なコストを誰が負担すべきなのか、医療再生の行方を左右する議論が始まった…。
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