「人格欠損。彼らはもう終わった人間。」有吉佐和子がベストセラー『恍惚の人』でこう表現してから35年。「痴呆」は「認知症」と名称が変わり、今、「本人」が思いを語り、本人自ら「私らしい生き方」を模索する時代へと、転換期を迎えている。
京都府長岡京市の井上公恵さん(58)は、アルツハイマー病と診断されて8年が経つ。夫の正さんが、自宅での介護を続けてきた。症状が進み、言葉によるコミュニケーションは出来なくなったが、まだ感情は残っている。終末期を迎えつつある中、どうすれば公恵さんが”笑顔”をたもちながら人生を全うできるか、模索する日々が続いている。
大分市の足立昭一さん(58)は初期のアルツハイマー病と診断されて1年。今年3月、サラリーマン生活に終止符をうった。しかし、仕事一筋だった自分の人生をふりかえり、「もう一度だけ、仕事をしたい」と、妻の由美子さんと、”生き甲斐”を求め、再就職の道を探り続けている。
認知症の症状は確実に進行し、「希望の山」と「絶望の谷」の間を行き来しながら、「私らしさ」を追い求めている井上さん、足立さん夫妻。番組は、二組の夫婦の日々に密着、「認知症になっても私らしく生きたい」と願う本人たちの日々の格闘、彼らを支える妻や夫の切なる思いを描く。
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