5月13日(日)放送
灰谷健次郎×柳美里 〜”いのち”を知る旅〜

写真左:灰谷健次郎(右奥)と子どもたち
写真右:柳美里と息子

語り 樹木希林 / 朗読 内田也哉子 

「いのち」や「家族」をテーマに創作を続ける作家・柳美里が、昨年11月に亡くなった児童文学の旗手“灰谷健次郎”を巡る旅を始める……

柳はかつて、灰谷を厳しく批判していた。『兎の眼』『太陽の子』など、教師としての実体験に基づく灰谷の作品は、子どもの純粋さ・優しさを強く信じ、それを守るために大人はどうあるべきかを問うた。しかし、時代が移り、学級崩壊や少年犯罪、いじめなどが問題化。灰谷の考え方は“観念論的”と批判されるよ うになった。その急先鋒の一人が柳美里だった。

「子どもは王様であるという灰谷氏の特殊な感性は、滑稽(こっけい)かつ異様であり、とても容認出来ない」 面と向かって言葉をぶつけたこともある柳。しかし、訃報(ふほう)に接した時、意外な感情がこみあげたという。

「灰谷に、12歳のころの私の人生を伝えなかったこと、深く後悔した……」

実は12歳前後、柳は激しい“いじめ”にあい、死ぬことばかりを考えていたという。その頃、灰谷の小説と出会い、むさぼる様に読んだ。しかし、灰谷の小説に描かれている、どん底の子どもと大人が手をさしのべあう世界に柳は「激しく嫉妬」。灰谷とは反対に、さしのべる手がなく痛みに押しつぶされた体験を原稿にぶつけ、自らの文学世界を構築していった。

ところが7年前、子供が生まれ、「命」「生きることの意味」を伝えようと考え始めた頃から、再び灰谷が気になってきたという。柳美里は、灰谷の小説を再読し、灰谷を知る人の話を聞き考える、「思索の旅」を始めたいと考えている。

また、今回の取材で灰谷の執筆活動を理解する上で重要な資料がいくつか発見され、より深い人間像が明らかになろうとしている。

番組では、柳美里が、灰谷の作品の舞台となった神戸や、灰谷の素顔をよく知る遺族・親友を高知などに訪ねながら、12歳の「私」に再び会いに行く。その道筋で、今子どもが生きるために、大人に求められるものは何かを問う。

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