福岡市内の閑静な住宅街の一画にある九州電力体育館。九州のスポーツの殿堂として数々の名勝負が繰り広げられたその地に、かつて旧日本軍の特攻作戦に参加した隊員を収容した施設があった。
振武寮。それは帰還してはならなかった隊員の精神を鍛え直す施設だったといわれる。しかし、公式の資料は皆無に近く、帰還した隊員が表に出ることもなかったため、全ぼうはほとんど知られていない。
筑豊・田川に住み民衆の立場からルポルタージュを発表してきた作家、林えいだい(72)は、特攻隊の編成参謀で、振武寮を作った少佐に面会し、それまで外に出されなかった名簿を入手した。そして、この寮に入れられていた帰還特攻兵を見つけ出して取材を重ね、寮内で何が行われていたか、その実態を明らかにしようとしてきた。肺を患い、体調不良に悩まされている林はこの夏、最後の関係者インタビューをして7年間の取材の成果を一冊の本にまとめようとしている。
「いつ死んでもおかしくない。でもこの振武寮だけはやりとげて、あの世に行きたい」。これまで歴史の表舞台に出てこなかった振武寮。その実態を、林えいだいの執念とともに描く。 |