8月5日(土)放送
被爆者 心の傷は癒えず 〜原爆のトラウマ 1300人の調査から〜
写真:精神科医の中澤正夫さんは、今回、改めて東京・広島の被爆者を訪ねて面接し、被爆から61年たった今も被爆者の心が癒えないのはなぜなのか、その心を解明しようとする。

 原爆投下から61年目の夏が来る。原爆が被爆者の心に与えた影響は、これまで省みられることが少なかったが、最近ようやく医学的に明らかになりつつある。被爆者の心の深い傷は、今も、癒えることはない。

 広島放送局は、今年6月、東京都精神医学総合研究所などの監修を得て、広島、東京在住の被爆者に対し、心の傷や現在の精神状態に関するアンケート調査を行い、1300人から回答を頂いた。(総依頼数3000人)その結果、被爆者の30.7%が今もPTSD(心的外傷後ストレス障害)の可能性があるとわかった 。

 被爆者が訴える症状は、「光景やにおいのフラッシュバック」「被爆の記憶からの逃避」「不眠や光・音への過敏な反応」などさまざまだ。

 調査協力者の一人、精神科医の中澤正夫さんは、東京で被爆者外来をもつ代々木病院で、長年治療にあたってきた。PTSDは、通常は短期間で回復に向かうと考えられてきた。しかし、被爆から61年たった今も被爆者の心が癒えないのはなぜか?中澤さんは、多くの被爆者を面接した経験から、「放射線による今も迫る死の恐怖」と「被爆者に対する偏見・差別」が、今も心の傷が癒えない原因ではないかと考えている。今回実施されたアンケートをもとに、改めて東京・広島の被爆者を訪ねて面接し、その心を解明しようとした。

 こうした中、中澤さんとの面接をきっかけに、みずからの心の傷と向き合い、乗り越えようとする人々も現れた。自分が被爆した地点に60年を経て初めて立った人。心の奥底に隠し、話せなかった体験を息子に初めて語ろうとする人・・・。

 番組は、調査の分析と中澤医師の面接を軸に、被爆者が心の傷とどう闘い、どう乗り越えようとしているかを描く。
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