6月24日(土)放送
アンコール(第128回・2006年2月25日放送)「大森林の小さな家」 〜熊野・野尻さん一家の十年〜
写真左:熊野の大森林の中に、たった一軒で住み続ける7人家族のお父さん 野尻皇紀さん。山で飼っているニホンミツバチの蜂蜜を採っているところ。
写真右:熊野の大森林の中に、たった一軒で住み続ける7人家族(2000年に撮影)

 熊野の果てしない大森林の中に、たった一軒で住み続ける7人家族を、NHKでは9年前から映像で記録してきた。和歌山県熊野川町畝畑。かつて山で生計を立てていた50戸の集落がいまでは、野尻さん一家と1キロ離れたもう一軒だけになってしまった。野尻皇紀さん(54歳)、母金子さん(84歳)、妻マサコさん(36歳)と優紀ちゃん(12歳)、皇洋くん(11歳)、俊彦くん(10歳)、瑞紀ちゃん(8歳)の4人の子どもたち。これは森に住み続ける家族の10年間の記録である。

 1997年、末っ子の瑞紀ちゃんが生まれる時、皇紀さんが陣痛に苦しむ妻とともに、40キロもの山道を町の産院までひた走り、出産に立ち会ったシーンを私たちは撮影した。また養蜂の道具を長男皇洋くんが遊びで引っくり返してしまった時、父皇紀さんが愛情を込めて叱(しか)るシーンをはじめ、家族はカメラの前で生き生きとした表情を見せてくれた。

 2000年、一家の生活の糧であった森番の仕事が会社のリストラによって失われた時、家族が結束して森に残る場面を撮影した。

 2005年夏、小学6年生になった優紀ちゃんを筆頭に子どもたち4人が小学生として過ごす最後の夏休みを迎えた。中学校から畝畑を離れざるをえなかった野尻さんは、父親から小学6年までに森で生きるすべを叩き込まれた。山菜採り、アマゴ釣り、ニホンミツバチの山蜜(みつ)、そして狩猟。一見暗い森の奥には、さまざまな生き物が創る豊かな世界があった。その多様な森に合わせて、道具から自分で作り、暮らしていく楽しさ。父の跡を継いで29歳で森番として畝畑に帰った野尻さんの生き方の原点はこの時、つくられた。取材を始めたとき45歳だった野尻さんは54歳。リストラののち、野尻さんは自らの肉体ひとつで山仕事をして家族を養ってきた。しかし、この夏は体調がすぐれず仕事ができなかった。ここでの暮らしがいつまでも続かないことを予感する中、野尻さんは自分が父から教わったように、子どもたちにこの森で生きる知恵を伝えた。

 そして2006年冬、半年以上悩まされた持病に回復の兆しがみられ、野尻さんは仕事を再開した。

 深い森に住み続けるある家族のさまざまなドラマに満ちた10年の歳月を追い続けることで、現代の私たちが見失っているかもしれない家族のきずな、自然との暮らし、そして生きることの原点を見つめる長期取材の記録である。

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