5月20日(土)放送予定
ある地域医療の“挫折” 〜北海道せたな町〜
写真左=旧瀬棚町は、村上智彦医師(45)を中心に予防医療に力を入れてきた。
写真右=せたな町瀬棚区(旧瀬棚町)

 政府が推し進めてきた「平成の大合併」。北海道の南西部では、去年9月、北桧山町、瀬棚町、大成町の三つの町が合併、「せたな町」が誕生した。ところが、この合併にともなって思わぬ事態が起きている。それまで地域医療を支えてきた医師や看護師が次々に退職、町を去ることになったのである。

 旧瀬棚町は、村上智彦医師(45歳)を中心に予防医療に力を入れ、かつて日本一高かった老人医療費の引き下げに成功。小さな診療所だが、3人の医師と薬剤師、レントゲン技師、理学療法士など充実したスタッフをそろえて24時間診療を行い、役場とも連携しながら高齢者の在宅医療を進めてきた。地域医療の先進例として全国的に注目され、視察や研修医の派遣が相次いでいた。しかし、合併で誕生した「せたな町」は、こうした医療の打ち切りを表明、反発する医療現場の大量退職を招いた。もともと合併協議のなかで「医療」は最大の課題だった。合併を機に合理化を進めつつも、どうすれば充実した医療体制を維持できるのか。3町は、瀬棚町の先進的取り組みを新しい町全体で引き継いでいく方向で検討していた。

 ところが、北桧山町の町議だった高橋貞光氏が新町長に当選してから事態は混迷する。高橋町長は3町で人口が最も多い旧北桧山地区の病院を地域の中核病院として維持、その一方で、人口は旧北桧山町の半分ながら医師が同数いた旧瀬棚町の診療所を縮小、予防医療の予算も削減する意思を明らかにしたのである。これに対し、異議を申し立てたのが瀬棚診療所の村上医師だった。新時代の地域医療モデルの構築に情熱を燃やし、予防医療の充実を図ることが高齢者の医療費負担削減にもつながると活動を続けてきた。それだけに、「不本意な医療なら出来ない、地域医療は行政のバックアップは不可欠、こうした町長の下ではやれない」と、退職を決意した。町と医療現場の対立に、地域住民、とりわけ高齢者や幼い子どもを持つ母親のあいだでは、今、不安が高まっている。

 「平成の大合併」のスローガンは「サービスはより高く、負担はより低く」だった。しかし、現実には、地域間のさまざまな利害が錯そう、結果としてサービス低下につながることが少なくない。こうした中で、実際に、地域医療の“崩壊”に揺れている、せたな町の現状をリポートする。

 
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