今年秋、山形ドキュメンタリー映画祭で最優秀賞を受賞した「ルート181〜パレスチナ・イスラエルの旅の断章〜」(270分・2003年)。イスラエル領に生まれ育った2人の映画監督がカメラを携え、ともにイスラエル・パレスチナの「境界線」をたどった旅のドキュメンタリーである。今秋、この映画を共同撮影・編集した2人の映画監督がそろって来日した。
パレスチナ人映画監督ミシェル・クレイフィとイスラエル人映画監督エイアル・シヴァンの二人。クレイフィはカンヌ国際映画祭批評家賞を受賞した作品「豊穣な記憶」(1980年)でパレスチナ人の生活を追い、シヴァンは「スペシャリスト:自覚なき殺戮者」(1999年)でナチスドイツ高官のアイヒマン裁判を描いた。その二人が出会って、総決算ともいえるドキュメンタリー「ルート181」を制作した。 「ルート181」とは、ふたりが名づけた1本の道。その由来は、国連決議181号で定められた分割線である。ふたりは、「181号」線上を車で走る。その過程で、出会う人々は、モロッコ出身のイスラエル人、ハンガリーからのユダヤ新移民、イスラエル国籍のパレスチナ人、中国人労働者たち―。かれらの肉声と暮らしから、「占領」という現実と、「占領者」として生きる人々の弁明を探ってゆく。 来日する2人は、日本の哲学者・思想家・作家・市民との対話を通して、パレスチナ問題が、日本に関わりのない「遠い場所」のことではなく、世界和平に向けた普遍性を持っていることを浮き上がらせた。番組の構成は、映画「ルート181」の主要シーン、ふたりの監督へのインタビューと日本の識者との対論、市民とのシンポジウムでの討論によって作られる。イスラエルのガザ撤退が行われ、世界の注目を浴びた2005年の中東和平問題。その概観と今後の見通しを、一編の映画をひもとき、「境界線」上の現実を探ることで考えてゆく。 |