11月26日(土)放送
心はどこにあるのか 〜脳科学者・川島隆太の挑戦〜

 認知症の患者の脳機能が、文章の音読、簡単な計算を毎日短時間続けることでよみがえるケースが全国で報告されている。脳科学者、川島隆太氏(東北大学未来科学技術共同研究センター教授、46歳)が全国の老人施設と協力して始めた取り組みの結果である。

 2001年から福岡の老人施設で始まった認知症の高齢者が音読や計算を続ける取り組み。ここで用いられたちほう症高齢者の生活の質を学習を通じて高める療法は著しい効果をあげ、川島氏と共に「脳機能低下予防プロジェクト」に取り組む自治体が全国に広がっている。その内容は、文章の音読、簡単な計算の繰り返しによって、脳機能、特に創造力をつかさどる前頭前野を活性化する。やがて、人格までに変化が現れ、介護職員とのコミュニケーションが復活するなど、脳と心がよみがえる例が報告されている。

 この方法論を開発する元となったのが、脳のどの部分にどの機能があるのかを調べる「ブレインマッピング」研究だ。人間の脳の働きをリアルタイムで観察する装置光トポグラフィーとfMRIを使って、どんな活動が脳のどの分野をどれくらい活性化するかを細かく調べたのだ。その結果、脳は、複雑な問題より簡単な計算、黙読より音読で、多くの部分、特に前頭前野が活性化することがわかった。川島さんは、この研究から「脳は鍛えることができる」という仮説をたてた。そして始めたのが「脳の健康プロジェクト」なのだ。子どもに対しても、尾道の小学校や長崎の中学校などで、音読や計算の実施が始まっている。その結果、脳機能だけでなく態度や性格までも変化があらわれる例が出ている。川島氏は、子どもの脳と心についての研究にも本腰を入れ始めた。

 番組では、さまざまな実験を入れながら、川島さんの現在の研究と取り組みからみえてくる、現代人の脳と心の問題にせまっていく。

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