2012年4月15日(日) 夜10時
2012年4月22日(日) 午前0時50分 再放送
≪ギャラクシー賞 4月度 月間賞≫

失われた言葉をさがして
辺見庸 ある死刑囚との対話

作家・辺見庸(67)の故郷、宮城県石巻は、去年3月11日の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた。辺見は、夏ごろから文章を書くことができなくなった。辺見は言う、「言葉は3.11を表現できなかった。われわれの言語表現のやすっぽさが暴かれた」と。

そんな辺見が、一冊の本を出すために奔走していた。本の著者は、死刑囚・大道寺将司(63)。1974年、東京丸の内で爆弾テロ事件を起こし、8人の死者と300人以上にのぼる負傷者を出した。1987年に死刑が確定。逮捕以来37年間獄中にいる。
辺見が出版したいのは、大道寺が東京拘置所でつくる俳句を集めた句集である。

咳(しわぶ)くや慚愧(ざんき)に震(ふる)ふまくらがり

大道寺の句は、拘置所という絶対的な閉域で、多くの人びとを傷つけあやめた自分自身とひたすら向き合うことで生み出される。その句を辺見は「大道寺の体内と記憶から絞り出された、自発的な供述調書」だという。

東京拘置所に通い、大道寺との面会を続ける辺見は、透明なアクリル板をはさんで向き合う男に言ったことがある。「獄中にいるあなたと、獄外にいるわれわれと、どちらがすさんでいるか、わかったものじゃない」と。
辺見は、外の世界から切り離された大道寺という存在を通して、3.11後のいま失われてしまっている「言葉」を探そうとしていた。

辺見と大道寺は4歳違い。同じ時代を生き、老い、どちらも病に冒されている。残された時間で二人はそれぞれどんな言葉を紡ぐのか。作家と死刑囚の対話を見つめる。

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