エコチャンネルのブログ

山岳・水中カメラマン日記

自然をこよなく愛するNHKカメラマンの取材記です。執筆メンバーは、NHKが誇る山岳班・潜水班の面々です。

記事一覧へ

2016年02月25日 (木)

斜里川本流の治山ダム 改良順調

NHK弘前カメラマン 柳澤啓

斜里川の魚道

知床半島に近い斜里岳や摩周湖からの伏流水を水源にもつ斜里川はオホーツク海に注ぐ長さ54.5kmの川です。斜里川にはサケ科の魚たちも多く生息していて、サケやサクラマス、カラフトマス、アメマスなどが川と海を行き来しながら世代交代を繰り返してきました。

去年12月、斜里川の本流に設置された幅94m、高さ3mあまりの大型の治山ダムに魚道が設置されました。治山ダムは、国有林を流れる川や下流の土砂災害を防ぐために造られてきましたが、川の生き物たちの行き来を長い間にわたって阻害する要因にもなっていました。
治山ダムに魚道が設置され、途絶えていた魚たちの移動ができるようになったのです。

魚道設置前の治山ダム魚道設置後の治山ダム

私がこの治山ダムを初めて見たのは2010年初冬のことでした。遊泳能力が高いサクラマスでも越えるのが難しいのではないかというのが最初に見た時の印象でした。

本格的に取材を開始した2012年、7月のサクラマスが遡上する季節にこのダムの前で観察を続けましたが、上ることができたサクラマスは皆無でした。サクラマスたちの苦労を目の当たりにしてきただけに、今回の治山ダム改良は感慨深いものがありました。

斜里川流域ではこれが2基目の改良になりますが、特に流量が多い斜里川本流の治山ダムの改良が成功したのは、技術的な指導を行った有識者、斜里川上流の調査や魚道設計を行ったコンサルタント、工事担当者、林野庁網走南部森林管理署の方々の連携がうまくいったからでした。

魚道の特徴

今回の改良では治山ダムに魚道をつける方法が採用されました。防災上の理由でダムの撤去ではなく、従来の治山ダムの機能を維持しながら一部を切り欠いて魚道を設置しました。この魚道には魚が利用しやすいような工夫が施されています。

◆迷わずに上流へ

治山ダムのすぐ上流には中州を挟んで本流と分流が流れていますが、流れの6~7割にあたる本流の流れを設置された魚道に流す構造になっています。治山ダムの下流端にあわせて魚道の入り口をつくることで、上ってきた魚たちは迷うことなく魚道の入り口を見つけて遡上することが出来ると同時に、泳いで下ることも自由になります。

魚道の入り口

もともとダムの下流端には深みがありました。魚道を流れ下ってきた水の勢いを弱めたり、上ってきた魚たちの休息場所にもなるのでこの深みを活かすことにしました。

◆小さな落差

左岸と右岸を結ぶ隔壁長さ33mの魚道の中には14段の落差が設けられ、流れの落差は25cmになっています。さらに右岸と左岸を結ぶ隔壁に5cmの傾きを設けることで、右岸側には厚みのある流れが、左岸側には緩やか流れが形成されます。魚たちは自分の泳ぐ力に応じて選んで上ることができるようになりました。

新年度の計画では、複数の魚道を設置

平成28年度、斜里川流域では複数の治山ダムの改修が計画されています。

◆簡易型魚道

その中で私が関心をもったのが、別の治山ダムに小規模な改良を施す簡易型魚道です。
去年12月に魚道が設置されて完成した大型の治山ダムの下流には落差が1mを越えるものが3基あります。2012年に私が観察したときは産卵期に入り、体質が変わってジャンプ力が衰えたサクラマスが越えられない様子を何度も目撃しました。あと10cm~20cmの高さが越えられずに落ちていく様子も撮影しました。

治山ダムを乗り越えられないサクラマス

新しい改良ではサクラマスが落差を泳いで上れるように、治山ダムの堰堤(えんてい)の上に構造物を設置して流れを集めます。流れ落ちる水の厚みを確保しようという発想です。さらに堰堤からの流れ下る水に泡が入らないようにするために水が流れる場所に石組みを施します。滝や堰堤から落ちる水が白く見えるのは空気がたくさん混ざっているからで、魚たちは泡の中を泳いで上ることはできません。
このタイプの魚道は全ての魚種に対応する恒久的なものではありませんが、小さな改良でも成果が出ることが期待されています。

新しい改良のイメージ図

新しい改良の設計図

小さな支流でも改良を検討中

小さな支流の治山ダム斜里川流域では大規模な増水の可能性が低い小さな支流にも治山ダムが設置されています。そのような支流の中に残された産卵に適した場所まで上れるように、コストをかけずに改修する案も出ています。そこでは現在の川の流れを活かしつつ、堰堤に沿うように魚道を設置する案も出されています。

堰堤に沿うように魚道を設置する案 イメージ図

堰堤に沿うように魚道を設置する案 設計図

治山ダムに並行して設置するこのような形状の魚道は、林野庁北海道森林管理局内では初めてのことです。

新年度に計画されているものは大きな費用をかけずに必要な効果を得ようとするのが特徴で、これまでにない試みが続きます。魚たちの生態に配慮した様々な形状の魚道が成功すれば、各地に波及する可能性があり、とても楽しみです。
斜里川流域では今後も複数の治山ダムの改良が検討されていて、斜里川上流の環境の改善が進みそうです。

<柳澤啓カメラマンの過去のブログ>
サクラマスがダムを越え、産卵した!!(2014年12月08日)
北海道 斜里川 治山ダム改修へ(2013年11月05日)
サクラマスを追って(2012年12月26日 )
滝に挑むサクラマス(2012年9月19日)
魚道を手づくりで取り戻す <後編>(2012年7月3日)
魚道を手づくりで取り戻す <前編>(2012年7月2日)
『サクラマスのぼる川 -簗川と大股川-』取材記(2012年3月27日)
いわて風土記 「 簗川 」 取材記(2012年02月20日)
-------------------------------------------------------
動く蜃気楼との出会い(2014年5月23日)

ブログ内検索

ページトップへ