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“ミツバチげんちゃん”と考える環境問題

環境番組に取り組むNHKプロデューサー・堅達京子の、取材記や番組情報です。元エコチャンネル編集長“ミツバチげんちゃん”。

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2015年10月15日 (木)

祝!ノーベル賞 科学者たちの熱い志と"へえ〜"な研究

10月上旬はノーベル・ウイーク! ことしはノーベル医学生理学賞を大村智さんが受賞、そして翌日にはノーベル物理学賞に梶田隆章さんが輝きました! 日本人の連続受賞に街中が沸きましたよね。
大村さんの受賞理由は「寄生虫病に対する新しい治療法の発見」で”微生物“が研究のテーマ。梶田さんは、「ニュートリノに質量があることを示すニュートリノ振動の発見」で、研究の舞台は“スーパーカミオカンデ”という岐阜県飛騨市の地中奥深くにある施設です。いずれの研究も、ノーベル賞でスポットがあたらなければ、ふだんはなかなか目が向かない超専門的でアカデミックな世界ですよね。

大村智さん
大村智さん

梶田隆章さん
梶田隆章さん

でも、こうした地道な研究が“世界をよりよくすること” や “世界をよりよく知ること”につながっていると知り、科学者たちの熱い志と人間味あふれるお人柄に触れると、急に科学の世界が身近に感じられます。私も個人的には、まったくの“文系人間”で、高校時代の理科系の成績は悲惨なものでした。でも今は、気候変動などの取材で数多くの科学者の皆さんにお会いする機会が多く、図表や専門用語、英語と格闘しながら、新鮮な気持ちでお話を伺っています。研究者の方々、皆さん熱い!ですよ〜。

科学者たちの間でも、昔は専門家同士だけでわかりあえればいい、という空気もあったかもしれませんが、現在では、自分たちの研究がちゃんと一般市民に伝わっているのか、一般の市民が最先端の研究に期待していることは何なのか、お互いのコミュニケーションを深めていこう、という動きが進んでいます。
9月下旬には、国立環境研究所の研究者の皆さんから最新の研究成果を聞き、意見交換をする貴重な機会がありました。「地球温暖化研究プログラム」の研究メンバーの科学者たちです。中には、いつも番組にご出演いただいている江守正多さんらエコチャンでもおなじみの方もおられましたが、初めてお合いする方もたくさん。当日は、NPOや企業の立場の方々と一緒に、研究最前線を拝聴しました。

印象に残ったのは、いかに私たちが知らないところで、“へえ〜”っていう研究がさりげなく行われているかということ。ノーベル賞ではありませんが、世界に誇れる研究がゴロゴロしているのです。ひとつ例をあげれば、GOSAT(温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」)というJAXAが打ち上げた日本の衛星を使った大気の観測。宇宙から地球全体を見て、世界的にもこれまでデータがなかったところの大気データが詳細に分析できるプロジェクトです。CO2濃度だけでなく、地球温暖化の進行のカギを握るメタン濃度の広域分布も分かり、地道ですが大切な研究です。大気の観測では、こうした衛星に加えて、JALの協力で航空機を使って垂直方向の濃度分布も研究しているというのも驚きでした。

温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」

ただ、こうした研究の目的と成果が一般の人々にちゃんと伝わるためには、20枚ほどのスライドの連続チェンジだけで専門用語満載だとちょっとお手上げです。大切なのは、一目で直感できるビジュアル、わかりやすい言葉、研究者の情熱が伝わるストーリー性などなど。こうした科学者と市民をつなぐ専門のサイエンスコミュニケーターの役割も必要だという意見も出されました。NASAなど欧米の巨大な研究機関では、こうしたコミュニケーションの専門家がしっかり雇われているそうです。もちろん私たちメディアの責任も大きいですが、日々の研究のすべてをお伝えすることは難しいのが実情です。研究所自らの発信能力もこれからは大切だと強く感じました。

科学者と一般市民のコミュニケーション、という意味では、公開のシンポジウムも役立ちます。10月13日、「気候変動のリスクを知る」という催しが開かれました。文部科学省の研究費を使って行われている「気候変動リスク情報創生プログラム」の最新の成果を知ってもらおうという試みです。
今回の発表は、東京大学海洋大気研究所から、異常気象に温暖化がどれくらい寄与しているのかという「イベント・アトリビューション」の研究や「気候変動下での渇水リスク」についての研究。国立環境研究所の「このままだと世界平均気温は何度上がるのか」という研究や、気象庁気象研究所の「ダウンスケーリング」という研究。これは、温暖化で気候や生態系、高潮などの災害がどう変わるのかといった情報を地球全体のレベルからもっときめ細かく私たちに身近な地域に落とし込もう、という動きです。詳しくはお伝えできませんが、こちらも“へえ〜”と思う情報満載で、とても有意義なシンポジウムでした。
ひとつ、私の“へえ〜”をご紹介しましょう。
温暖化が進むと極端な気象が増えて干ばつや洪水のリスクが増えることは知っていましたが、ショッキングだったのは、渇水リスクが当たり前になっていく“未体験ゾーン”に突入する時期についての研究です。温暖化の進行によって、これまで経験したことのない記録的な干ばつや渇水が、日常的に襲いかかり、もはや過去の経験値レベルの時代に戻らないかもしれないというのです。図表の年代は、地域ごとに、そこに突入する時期を予測しています。

151015_004.png

とくにアメリカ西海岸では、その時期が2017年とされていて驚きました。たしかに、このところ西海岸では想像を絶する山火事や、数年にわたる干ばつが続いていますが、これが当たり前になってしまうとしたら、大変なことです。私たちが暮らす東アジアは2027年。うーん、こっちも予想より早いです。農業への影響や環境難民の発生も気がかりです。ちなみに世界平均でも2040年ころに“未体験ゾーン”に突入するかもしれません、とのこと。対応を準備するために残された時間は少なく、迅速な対策の立案と行動が求められています。

科学者たちの熱い志と渾身の研究成果が詰まった一枚の図表から、何を読み解き、どう伝え、世の中の役に立てていくのか。メディアの役割も問われています。まずは、こうした図表アレルギーから脱却して、ちゃんと科学者の皆さんの肉声を聞くことから始めたい。文系人間の一人として、ノーベル・ウイークにしみじみ思ったのでした。

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