もっと知りたい・災害救助犬

倒壊した建物に閉じ込められた人を、嗅覚で探し出す「災害救助犬」。
凜々しく働く犬たちの姿を、ニュース等でご覧になられた方も多いと思います。
そんな災害救助犬たちには、どんな能力があるのか、誰からどんな訓練を受けているのか…気になった方も多いのでは?
ということで、番組で災害救助犬の指導をお願いした災害救助犬訓練士の岡 武(おか たける)さんに、災害救助犬と、災害救助犬訓練士のアレコレについて聞いてみました!

―災害救助犬はどんな訓練をするのですか。

岡さん:まずは私たち、訓練士やハンドラーと呼ばれる人間との信頼関係を築くための訓練から始まります。子犬の頃から一緒に生活を始めて、信頼関係がある程度出来てきたら、ガレキや高い場所に登ったり、暗い場所に入っていったりという訓練を始めます。続いて、吠えて人の居場所を知らせることを教えていきます。訓練がうまく出来たら、犬たちが好きなボール遊びをしてあげたりします。

―訓練場はどんな様子なのですか?

岡さん:工事現場から頂いてきたガレキを積み上げたりして、訓練場を作っています。その中に土管を入れて、人間が入って、また上からガレキをかけて、犬が捜索を行う…という訓練をしています。ガレキの形状が同じだと、犬がパターンで覚えてしまいますので、定期的に形を変えたり、他の訓練施設にガレキを借りにいったりもしています。

―どれくらいの期間で一犬前(?)になるのですか。

岡さん:それぞれ能力の差もありますので一概には言えませんが、2年から3年くらいかけて、ゆっくり着実に、課題をひとつひとつクリア出来るよう育成していきます。

―結構時間がかかりますね。今、救助犬は何頭くらいいるのですか。

岡さん:訓練中の犬も含め、日本レスキュー協会には全部で10頭の災害救助犬がいます。実際に現場に行けるのは、その中でも4頭か5頭くらいなんですよ。

―訓練がうまく出来たら遊んであげるとのことですが、おやつをあげるのではないのですね。

岡さん:あげてはダメということはないのですが、災害現場に行くとご存じの通り、家屋が倒壊しており、冷蔵庫もあれば食べ物もあったりします。
そういったものではなく、閉じ込められた人に反応してほしいので、隠れている人を見つけたらボールやおもちゃで遊んでくれる、と覚えて欲しいのですね。

―実際の現場としては、たとえば昨年夏に広島で起こった土砂災害の現場にも行かれているのですね。

岡さん:広島の災害では、すぐに現地からの要請がありましたし、それから東日本大震災の現場にも救助犬を派遣しました。2011年の奈良や和歌山で発生した豪雨災害現場にも出動しています。海外では、私自身はインドネシアのスマトラ沖地震、パキスタンの大地震の現場に救助犬と一緒に派遣されました。

―急に知らない場所に連れて行かれても、犬たちは落ち着いて救助が出来るのですか。

岡さん:はい。信頼関係を築いている訓練士と一緒に行くことで、知らない場所や、危険な場所でも救助活動が出来るのです。

―個人的な話で恐縮ですが、岡さんが災害救助犬訓練士の道を選んだのはなぜですか。

岡さん:小さい頃から犬が好きだったのですが、大学生の頃にテレビで災害救助犬訓練士の仕事を見て、「こんなにいい仕事があるのか」と感銘を受けたんです。この道しかないと思って、訓練士を目指すことにしました。

―訓練士になるためには、試験などがあるのですか。

岡さん:国による訓練士の試験などはありませんので、それぞれの団体の基準で実施するのですが、私も日本レスキュー協会の先輩や理事長に教えてもらって、訓練を積んでいきました。

―仕事を初めて、すぐに災害現場に入られたということですが。

岡さん:三重県の山間部で豪雨が発生し、山が崩れていくつかの家が流され、行方不明者が出ているという現場でした。何となく想像はしていましたが、実際に現場を見るのとは大違いで、私自身は正直、犬のことをしっかりと見られる余裕は全くありませんでした。先輩たちは「いい動きをしていた」と言ってくれたのですが…。
今でこそ私も経験を積んで、犬の小さな反応を見逃さないことが出来るようになってきました。例えば尻尾を少し振ったり、一つの地点で集中的に臭いをかいだり、何度も戻ってきたり、そういった小さな動きを見逃さないよう今は心掛けています。

―犬ならではのサインや能力があるのですね。

岡さん:犬の動きを訓練士が判断するという、人間と犬との協同作業なんですね。訓練ではガレキに人を隠して、ワンワンと吠える練習をするのですが、実際の災害現場では、簡単にはいきません。だから、小さな反応を見逃さないことがとても大事になってきます。

―犬から訓練士として信頼されることも大事ですが、ご自身の育てた救助犬を信頼しないと、救助は成り立たないのですね。

岡さん:その通りです。自分が育てた犬を信頼して、実際に現場に入っていくことが大切です。

―いざ災害現場に行くと、消防や警察の方など見慣れない人がいて、ヘリコプターが飛んでいたりもするわけですよね。救助犬は混乱したりしないのでしょうか。

岡さん:はい。ですから災害救助犬を現場に投入する時は、現場の環境設定というものが必要になってきます。例えば救助する人たちの臭いが流れてこないよう、風上には立たないようにするとかですね。

―「二十歳と一匹」の撮影では、どのような指導をされましたか。

岡さん:撮影の前、脚本の段階から打ち合わせに参加させて頂いて、本当にありがたかったですね。二十歳の青年を演じる菅田将暉さんや、他のキャストの皆さんが私たちの協会に来られたので、犬の使い方や訓練の仕方をお伝えし、実際の災害現場でのやりとりや、救助犬と訓練士の距離感などを指導させて頂きました。

―距離感というのは?

岡さん:この「距離感」というのは、感覚ではなく、物理的なものです。犬と近くなりすぎると、救助犬の小さな反応を見逃すこともあるので、ある程度離れて、広い視野で犬の動きを見た方が分かりやすいのです。なので「この青年は訓練士を始めてまだ間もないので、もう少し犬に近づいた方が新人っぽいですよ」というアドバイスをしたりもしました。

―「二十歳と一匹」を見て、ご自身が新人だった頃のことを思い出したりもしましたか。

岡さん:そうですね。自分と重なって、ちょっと感動したシーンもありました。私が本当に現場で感じたような、辛かったことや、こうしていればよかったということが、とてもリンクしていました。私も放送を楽しみにしています。

―これからどのように救助犬の活動を広めていきたいと思いますか。

岡さん:救助犬に関する法整備なども進んでいないので、いろいろな団体があって、いろいろな基準があります。ですからスタンダードな、標準化された基準を設けて、日本の災害救助犬の仕組みをつくっていきたいと思っています。そして災害発生時には、スピーディーに現場に入ることが出来、一人でも多くの方を助けられるような活動を続けていきたいと思っています。

―ありがとうございました!
※この記事はNHK関西ラジオワイド「新春インタビュー」の内容から採録したものです。

二十歳と一匹 | NHK 阪神・淡路大震災20年 ドラマ
NHK 阪神・淡路大震災20年 ドラマ 二十歳と一匹