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「原作の世界に入れました」『みをつくし料理帖』髙田郁先生インタビュー

pic_edrec_170502_2.jpgシリーズ累計330万部を超える大ヒットとなった『みをつくし料理帖』。
時代小説のセオリーを外したといわれたこの物語が、どうやって生まれたのか。
そして、ドラマはきちんと『みをつくし料理帖』の世界観を守っているのか―。
原作ファンが気にしているであろうアレコレを、スタジオ見学に訪れた髙田郁先生からお伺いしました!


原作の世界に入れましたか?

編集部:
今日はスタジオまでお越しいただき、ありがとうございます。ドラマの撮影現場、いかがでしたか。

髙田郁先生(以下、髙田):
感動しました。特に、化け物稲荷を見ることができて、嬉しかったです。神狐さんも撫でさせていただきました。

編集部:
神狐さん、本当に昔からあるような出来映えでしたね。

髙田:
澪が神狐に手を合せるシーンを作ろうと思ったら、私は一行そのように書けばいいのですが、ドラマだとセットを用意して、演技して、全てを作り上げないといけないですよね。しかも、時代考証を踏まえて。皆さんのお仕事ぶり、感無量です。

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編集部:
先生が思い描いていた、『みをつくし料理帖』の世界に入ることができましたか?

髙田:
はい、入れました。自分が紙に綴った世界が立体になるって、なかなか経験できないことだと思います。それから、細かいところもちゃんと再現されていて、嬉しかったですね。

編集部:
細かいところ?

髙田:
木のテーブル、割り箸の入った筒、イスに腰掛けて食べる…そういう時代劇もありますよね。今回のドラマでは、きちんと床几で食事をしていましたね。
(※床几=背もたれのないベンチのようなもの)

編集部:
確かに、当時は床几やお座敷に膳を置いて食事するのが一般的だったわけですから、『みをつくし料理帖』の描写のほうが現実なのですね。先生も、原作ファンの皆さんも、床几に腰かけての食事シーンをイメージされてきたわけですから、そこはきちんと作られていた、と。

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髙田:
はい。それから、燗徳利も後世に登場したもので、当時は一般的に『ちろり』が使われていたわけです。ドラマではそれも再現されていて、ありがたいです。

編集部:
先生の作品は、食事風景の描写がとても精緻だと思うのですが、その風景自体に情緒がある、というお考えですか。

髙田:
私は現代人で、その時代を生きてきたわけではありません。だからこそ、読者のみなさんと一緒に、その時代を生きてみたいという思いがあるのです。物語そのものはフィクションですが、神は細部に宿ると言いますし、その時代にしかない雰囲気や空気を、できるだけ再現したいと思っています。撮影現場では、私が思い描いていた世界がそのままビジュアルになっていたので、すごいと感じました。


つる家の由来と、売れる時代小説の条件

編集部:
『つる家』のシーンを見学されていた際に、お父さまの遺影をお持ちでしたよね。何か、ご家族が関係されているのですか?

髙田:
少し話が遠回りになるのですが、出版の世界では『売れる時代小説の条件』というのが三つあるらしいんですね。

編集部:
売れる条件?

髙田:
まず、江戸市中が舞台であること。そして、捕り物などのミステリー要素があること。最後に、剣豪が出てきてチャンバラをすること。こう言われていたのです。でも、私はこの三つとも、書きたくなくて…。

編集部:
たしかに、よくみる組み合わせですね。

髙田:
なかでも一番苦手だと思ったのが、剣豪もの。刀で命をやりとりする話を書きたくなかったんです。そこで、刀ではなく包丁を持たせた。江戸市中が舞台というのも、大坂の女の子が江戸に来て…という話にして、大坂の話も盛り込めるようにした。

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編集部:
そうして『みをつくし料理帖』の世界ができたんですね。

髙田:
これじゃあ断られるだろうな、と思いながら編集者に相談したら、この内容で行きましょう、と言ってくれたんです。

編集部:
見る目がある編集者さんだったのですね。

髙田:
だけど、自分からセオリーを外しているので、失敗はできません。責任重大だし、誰かにすがりたい。そう思って浮かんだのが、亡き父だったんです。

編集部:
もしかして、種市というのは…。

髙田:
はい。亡父から名前をもらったキャラクターが種市だったんです。そしてうちの父が、単身赴任中によく通っていたお店の名前が『つるや』と言いました。平仮名表記だったものを作品では『おつるの家』という意味で『つる家』としています。

編集部:
お店の名前も、お父さまに関係していたのですね。

髙田:
これは私の考え方なのですが、自分にまつわる人を作品に登場させることで、その人に作品を守ってもらえるように思うんです。実際に、ずっと守られています。

編集部:
登場人物にモデルはいますか、という質問をよく受けられると思うのですが、種市に関しては、明確にモデルがいた?

髙田:
名前だけではありますが。ただ、これ、母親には評判が悪いです(笑)

編集部:
えっ。種市って、ムチャクチャいい人だと思うのですが…。

髙田:
『うちのお父さんは吉原なんかに興味ない!』って。亡父は真面目な人だったので、その点はいまだに言われますね。

編集部:
それだけ、種市が活き活きとしている、ということかもしれませんね(笑)

髙田:
本当に、種市には作品を守ってもらいました。

編集部:
ところで、お父さまが通われていた『つるや』さんって、まだ現存されているのですか。

髙田:
これも、よくいただく質問です(笑)。昭和30年代、単身赴任をしていた父は仕事でクタクタになったあと、川崎の『つるや』さんで週に一度、一杯だけコップ酒を飲んで、毎回生き返るような思いをしていたそうなんです。父が末期がんに倒れて、家で介護をしていた時に、つるやの思い出をあんまりにも懐かしそうに話すので、カメラを持って、ひとりで川崎に向かいました。残念ながらお店は見つからず、住宅地図まで見て探したのですが、わかりませんでした。当時の川崎の地図が残っていればと思うんですが、あってもお店の名前までは入っていないのかな。父の勤務先があった場所から考えると、JR川崎駅の近くではないかと思うのですが…。


特別巻って本当に出るのですか?

編集部:
ドラマはこれから始まりますが、原作は完結していて、最終巻に『登場人物のこれからを描いた特別巻が出る』というお知らせがありましたよね。原作ファンとしては『本当に出るのか』と気になっているのですが…。

髙田:
来年(平成30年)に出す予定でいます。私が作家になって、来年で10年目なんです。そこで読者のみなさんにご恩返しというか、どうすれば最も喜んで頂けるのかを考えたら、やっぱり『みをつくし料理帖』の登場人物のその後をお知らせすることかな、と。

編集部:
それは嬉しいですね。原作のラストシーンから、どれくらい先のお話ですか?

髙田:
細かくは決めていないのですが、清右衛門と坂村堂、そして種市の珍道中を書こうと思っています。もちろん澪や小松原、あさひ太夫のその後も描いていく予定です。

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編集部:
ネタバレになるのであまりお話できないと思いますが、原作ファンとしては『だれそれは幸せになれるんだろうか』というのが心配で、先を読むのが怖いのです。そのあたりは大丈夫でしょうか(笑)

髙田:
大丈夫です。みんな、ちゃんと幸せになっています(笑)

編集部:
よかったです。原作を全て映像化するまで、ドラマも続けてほしいですね。

髙田:
はい!何とぞよろしくお願いします(深々と一礼)。ちなみに、原作の9巻に最終巻の予告が出ていますが、あれは『私はもう米寿を過ぎ、人生の最終列車に乗っています。みをつくしの結末を読むまで、死ぬに死ねない…』という読者の方から切実なお便りをいただいたので、あえて出したのです。最終巻は出てしまいましたが、これから特別巻も出ますし、ドラマにも続いてもらいたいので、どうか油断しないで、末永く長生きして頂きたいですね。

編集部:
作品自体が愛されているというか、色々な人が見守ってくれているんですね。

髙田:
私のサイン会にいらっしゃると、面白いと思いますよ。ミュージカルサイン会と呼ばれているくらい!

編集部:
えっ、歌うんですか?

髙田:
誕生日の人がいたら、みんなでハッピーバースデーを(笑)。ご病気と聞けば、その方面に御利益のある神社仏閣の方角にむかって病気平癒のお祈りをしたり。受験の方がいらしたら、合格の祈願をしたり。妊婦さんには安産祈願をしたり。皆さんとても律儀だから、後でご報告をくださって。こういうサイン会、なかなかないですよ。

編集部:
なかなかっていうか、初めて聞きました。

髙田:
サイン会に行けません、という人から、欠席届が届いたりもします。

編集部:
愛のある世界ですね。これは、責任重大です。みなさんの期待に応えられるよう、スタッフ一同頑張りたいと思います。

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髙田:
このあいだ、番組宣伝の映像を見た母が『幸せだねぇ』と言ってくれたんです。親孝行しましたよね、これ!(笑)

編集部:
ありがとうございます(笑)。さて最後に、ドラマで初めて『みをつくし料理帖』の世界に入ってこられる皆さまに、物語のみどころをお話しいただければ。 

髙田:
今って、すごく生きづらい時代じゃないですか。その中でも、先に光があると、生きてみようと思える。そんな希望のある作品になっているのではないかと思います。ぜひ、ご覧ください。

編集部:
努力と周囲の支えとで艱難辛苦を乗り越えていく澪の姿は、色々な人を勇気づけてくれると思います。ありがとうございました!

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