編集部イチオシ

NHKが本気を出して60年前のテレビを作ってみた!

NHKが本気を出して
60年前のテレビを作ってみた!

黒柳徹子さんの半生を描く「トットてれび」。ご覧いただいていますか?
番組には60年前の「テレビ番組」や「撮影機材」が登場するのですが、当時使用されていた実物は既に失われていたり、あったとしても博物館の中なので、撮影に使うことはできません。もろもろ、イチから作る必要があるのです。
そこでNHKの美術チームが総力を結集し、今の技術で当時のテレビ番組を再現することになったのですが...!

 


というわけで、土曜ドラマ「トットてれび」の美術を手がけた、NHKデザインセンター映像デザインの有本弘ディレクターに、セットや小道具、撮影について苦労話を聞いてきました!

■再現されたラジオのスタジオについて


※当時の機材を再現しました。

編集部「まずは、第1話で登場したラジオ収録のシーンですが...」

有本さん「実際のNHKのラジオスタジオでロケを行いましたが、副調整室に置いてある機材は、美術で制作したレプリカです。ありがたいことに、当時の写真が数多く残っており、参考にすることができました」


※当時の機材を再現しました。

編集部「60年前の機材も60年前は新品だったわけで、ボロボロでもおかしいし、新しくても変だし、大変なお仕事ですよね」

有本さん「それから、使い方の問題がありますね。今の卓と操作方法が違うので、当時のスタッフさんに取材をして、指導していただきました」


※1963年当時のNHKラジオ104スタジオ・副調整室。

編集部「逆に、当時の機材で撮影に使えるものはなかったのですか?」

有本さん「マイクは一部、本物を使っていますよ。当時のマイクがまだ現役で使われていたので、音声のスタッフさんから借用しました」

編集部「マイクって長持ちするんですね。言われてみれば、テレビでずっと同じマイクを見ているような...(笑)」

■とにかくでっかい「買い物ブギ」のセット


※再現されたセットの写真です。

編集部「序盤の目玉、買い物ブギのセットについても教えてください」

有本さん「こちらは完全に当時のまま、というわけではなく、当時の映像を基にして、 ドラマの内容に合わせて再構成しています。美術セットだけでなく、撮影スタッフや照明、音声機器、役者の控え場所など、隅々まで再現しています」

編集部「たしかに、どこからどこまでがセットなのか、ぜんぜんわかりませんね...」

有本さん「今回は、作られたセットの周りに配置したスタッフ役の出演者を実際のスタッフが撮影する、という収録のスタイルを取りました」


※再現されたセットの写真です。

編集部「もう何が何やらの世界ですが、見えている部分の周りに、さらにスタッフがいたんですね!」

有本さん「普通のドラマセットで普通に収録するよりも、手間がかかっています。とはいえ、当時の美術スタッフさん・技術スタッフさんも大変だったようです。基本的には生放送ですし、スタジオも今のものより全然狭かったのだとか」


※当時の撮影風景です。

編集部「狭いスタジオで生放送のドラマとかミュージカルみたいなことをやってたわけですから、すさまじい現場力があったんでしょうね」

■えっレプリカなの!?当時のテレビカメラ

編集部「そして一番気になるテレビカメラ。今のものと、形が全然違いますね...このカメラ、なんという機種ですか?」


※TK-30A。美術さんが制作したレプリカです。

有本さん「このカメラは、1953 年(昭和28 年)のテレビ放送開始に向けて、アメリカのRCA から輸入された『TK-30A 型』カメラを研究して開発されたものです。TV放送初期に使用された白黒カメラで、愛宕山にあるNHK 放送博物館に実物が残っていたので、今回のドラマの芝居用にレプリカとして3台を製作しました」


※TK-30A。放送博物館に所蔵されている本物。

編集部「これ、どっちがレプリカで、どっちが本物か、もうわからないですね...」

有本さん「他のカメラも作ったので、そちらも見ていただきたいですね。例えば、このカメラは白黒時代の後期に使用された『TKO-3 型』で、日本独自の設計により作られた、スタジオ標準型カメラの一号機です」


※TKO-3。美術さんが制作したレプリカです。

編集部「日本のテレビカメラのご先祖様なんですね。それにしても、レンズが何本もついているのはどうしてですか?」

有本さん「当時のテレビカメラには、ズームレンズがなかったのです。レンズはそれぞれ映る範囲が決まっていて、ガチャガチャと回して画角を切り替えていました」

編集部「一眼レフで単焦点レンズを交換するようなノリなんですね」

有本さん「それから、我々が制作したレプリカには、中に現代のビデオカメラが組み込まれています。張りぼてのカメラの内側に、小さな現代のカメラと液晶テレビを仕込んだ造りになっていて、実際に撮影することができるのです。そのため、本当に撮影しているかのような演技、動作を再現することができます」


※TKO-3。いよいよわからなくなってきましたが放送博物館所蔵の本物。

編集部「放送博物館のアトラクションにしてほしいレベルですね!」

有本さん「これまでにもドラマの現場では、現存しない昔の機器などを製作することがありました。作ることよりも、それらしく使うことが難しいですね。本物の資料や操作方法などを、文献やビデオ、先人からのインタビューで知る努力が必要不可欠です」

編集部「作るのも、使うのも、大変なお仕事なのですね。なのに、カメラ一機種につき、何台か同じものを作ったと聞きましたが」

有本さん「撮影風景を撮影するわけですから、一台二台だけでは足りないのですね。貴重な現物をお借りすることもできませんし、借りてきたとしても動きませんから、結局のところ、イチから作る必要がありました」

■紅白歌合戦は歌舞伎町から放送された

編集部「続いて、紅白歌合戦のシーンについてお伺いします。当時の写真も、今回の撮影風景も、いつものNHKホールではないですよね?」


※番組で再現された当時の紅白歌合戦。


※1958年の第9回紅白歌合戦。

有本さん「実は、黒柳徹子さんが初めて司会をした『第9回紅白歌合戦』は、新宿コマ劇場から公開生放送されていたんです。新宿コマ劇場はNHK ホールよりとても広く、音が反響しすぎてしまい苦労したという話が残っています」

編集部「なんと、歌舞伎町から放送されていたんですね。セットも簡素で、今より全然シンプルですね」

有本さん「当時の紅白歌合戦は出演する歌手の人数も少なく、美術セットの場面転換もありませんでした。シンプルな番組構成だったようです。ちなみにドラマで使用した『優勝旗』は、現在の紅白歌合戦を制作しているNHK エンターテインメント番組部から借用した本物です」


※本物の優勝旗。いいんですかこれ?

編集部「えっ、これって当時使われていた、本物なんですか。所々で本物が入ってくるのはさすが、NHKのドラマですね。使っていいのか心配になっちゃうレベルです」

■美術さんが精魂込めた「夢であいましょう」

編集部「そして『夢であいましょう』のセットもスゴイですね。美術さんとしては、腕の見せどころだったのでは」


※金魚の舞う、当時のオープニング。


※再現されたオープニング。

有本さん「ありがたいことに『夢であいましょう』には、たくさんの映像資料が残っていました。それを基に、今回のドラマでは、コントや歌のセットなど、約10 場面を再現しています」


※当時の撮影風景。


※再現されたセットと黒柳徹子さん役の満島ひかりさん。

編集部「疑問なんですが、当時のテレビは白黒ですよね。なんでセットに色がついてるんでしょうか?」

有本さん「私たちも同じ疑問を持ったので、当時を知るディレクターや美術さん、技術さんに聞いてみたのです。ご指摘のように、当時の放送は白黒でしたが、美術セットには、カラー放送時代のように、色が付いていました」

編集部「その理由は...?」

有本さん「気分を盛り上げて、やる気を出してもらうために、セットには色をつけていました」

編集部「これはもう、現代の我々にはわからない世界ですね!」


※再現されたセット。

有本さん「当時のスタッフさんも、考えに考えて物を作ってきたわけですから、セットの色にしても、大きさにしても、何かしらの理由があるんです。だから、インタビューしたり、文献を調べたりして、当時の考え方や、仕事のやりかたを知る必要がありますね。目に見えたものを単純に再現しているだけでは、リアルにならないと思うんです」

編集部「そこまで理解して、はじめて60年前のテレビが甦るんですね」

有本さん「ドキュメンタリーではなくドラマですから、ドラマの美術として成り立たなくてはいけません。たとえば、撮影現場の裏側は、基本的に殺風景ですよね」

編集部「今もそうですね...!」

有本さん「ですので、現場にあったものを単純にリアルに再現するというわけでなく、ドラマの内容に合わせて、見せる美術を意識しています。創意工夫することで、当時を知る方にも、若い世代の方にも、同時に楽しんでいただける番組美術を目指しています」

 


現代の職人技と、60年前の職人技が融合した「トットてれび」。
新しくて懐かしい映像美が、これからも続々登場します。どうぞ、お楽しみに!


☆NHKドラマ 編集部イチオシ!☆【→記事一覧へ

ページトップへ