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「足尾から来た女」の舞台 足尾の産業遺跡を歩く

「足尾から来た女」の舞台
足尾の産業遺跡を歩く

総合テレビで1月18日(土)・25日(土)に放送される、土曜ドラマ「足尾から来た女」(主演・尾野真千子)。
足尾銅山の鉱毒事件を題材に、激動の時代を生きた女性を描く、重厚なヒューマンドラマです。
田中正造や足尾鉱毒事件については、学校で教わったという方も多いかと思います。
しかし足尾の産業遺産の多くは、崩壊・崩落などのおそれがあり、また鉱山保安法下の施設のため、非公開となっています。そのため、足尾がどんな場所なのか、足尾銅山が今どうなっているのかは、皆さんあまりご存じないのではないでしょうか。
というわけで、番組の舞台をより深く知っていただくため、関係各位に特別な許可をいただき、本山製錬所や旧足尾本山駅など、通常では見学できない足尾の産業遺跡を取材してきました。

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■猛烈な風に耐えて…本山製錬所跡
土曜ドラマ「足尾から来た女」のタイトルバックには、写真家の忠之(みなもとただゆき)カメラマンが特殊な技法で撮影した、足尾銅山の「今」の写真が使われることになっています。
今回は渞さんのロケに随行し、栃木県日光市足尾町にある、本山製錬所跡を訪問しました。


本山製錬所の一部。手前の建物は計器室、奥に見えるのは硫酸タンク。

本山製錬所は、銅(粗銅)を生産する工場で、約25年ほど前まで稼働していました。
足尾銅山から採掘された銅粗鉱(銅品位約1.5%)は、まず選鉱場という場所で処理され、銅精鉱(銅品位約21%)と呼ばれるものになります。そしてこの本山製錬所で、純度99%の粗銅に仕上げられるという流れです。
ここには溶鉱炉や鋳造機などの機械、施設の一部、硫酸タンクなどが残されています。
そして「製錬所は山間にある」と聞いていたので、ある程度覚悟はしていたのですが、とにもかくにも寒い!のです。煙害で周囲の山々が禿げ上がっているせいで、風が直接届くのかもしれません。


山肌が目につきます…。

「おはようございます!」
体中にカイロを貼り付け風に耐えていると、今回の案内役・古河機械金属株式会社の担当者さんが笑顔で登場しました。

取材班「おはようございます。さんのロケに随行して、製錬所跡の取材をさせていただきます!」
担当者さん「よろしくお願いします。保安上、危険な場所などに近づかないよう、私がご案内させていただきます」
取材班「ありがとうございます。ところで、まだ周りの山には木が無いのですね」
担当者さん「そうですね。冬場はどうしても落葉しますので、山に木が無いように見えます。ただ新緑の季節を迎えると、風景が変わってきます。明治29年から植樹を進めていまして、これまでに約120万本の木を植えてきました。まだまだ植えていきますので、春や夏の景色も、ぜひ見にきてください」

製錬所が稼働を終えて25年、そして閉山からは40年が経ちますが、自然はまだ、原状回復には至っていないように見えます。
少しずつ、少しずつ、前へと進んでいるのでしょう。ドラマは20世紀初頭が舞台ですが、単なる昔話ではなく、今に続いている、現在進行形のお話なのですね。

…というわけで、挨拶もそこそこに、さっそく撮影が始まります。
山間なので日が暮れるのが早く、モタモタしていると撮影に支障が出るのです。


製錬所跡の中心部でアングルを探す渞さん。


このあたり、本来は屋内であった部分ですが、
壁や天井などが取り壊され、露天になっています。

担当者さんの案内で、渞さんを製錬所の中心部へと案内します。
渞さんは田中ディレクターと相談しながら、ベストアングルを探します。そして安全上の問題がないか、担当者さんのアドバイスを都度受けていきます。近寄ると危険な場所、立ち入ってはいけない場所などが随所にあるため、どこに入れて、どこに入れないのか、細かな安全指導を受けながらの作業になるのです。
アングルが決まると、アシスタントさんが機材を運び込み、手際よく撮影が始まります。


撮影中の渞さんとアシスタントさん。
三脚に建てたノートパソコンで、仕上がりをシミュレートしながら進めていきます。

田中ディレクターと相談しながら、アングルや仕上がりなどを追い込んでいく渞さん。
撮影された写真を少し見せていただいたのですが、歴史の本や教科書などで見る、古い写真のような仕上がりで、かつ胸をグッと掴まれる、力強いものでした。

取材班「胸にくる写真ですね。写り方も普通の写真とは違いますね!」
渞さん「特殊な古いレンズを使って、撮ることさえ困難な時代の、高い技術力を必要とした『心』を再現したかったんです」

(渞さんが撮影したお写真は、記事の最後で少しだけ、放送に先駆けて紹介します。ご期待ください)


■製錬所跡の今とこれから
渞さんにはもっとあれこれお伺いしたかったのですが、時間の無い撮影です。お邪魔してはいけませんので、ふたたび製錬所の担当者さんにお話を伺います。


真ん中に立っているのが製錬所の担当者さん。
広さが伝わるでしょうか…?

取材班「製錬所跡ということですが、屋根や壁はないのですね」
担当者さん「操業時は、今見えているところの端から端まで、全部建物だったんですよ。ただ操業停止から時間が経ち、さすがに老朽化が激しくなり、保安上も取り壊すほかありませんでした」
取材班「相当な大きさだったんですね。残しておいて欲しかった気もしますが…」
担当者さん「我々も残したいと思っていたのですが、事故があると人命に関わるため、解体せざるを得なかったのです。残念ですが…」


レードルと呼ばれる治具。
倒壊の危険性がないものは残されていました。

紙面の都合で簡単に書いていますが、思いのほか沢山の機械が残されており、また今でも生きているようで、とても迫力がありました。そんなこんなで製錬所中心部の撮影は終了し、次は「大煙」と呼ばれる煙突へと向かいます。
遠くから見ても「でかいなあ」と思っていたのですが、近づくとこれがまた大きい。もっと言うと、近づくごとに、大きさに圧倒されてしまう感じなのです。


これが「大煙」。
遠巻きに見ると、まぁまぁ大きな焼却炉のようですが…。


実際はこのサイズなのです。
右に小さく映っているのが渞さんとアシスタントさんです。

取材班「これは…さすがに大きいですね」
担当者さん「大正時代に出来たもので、高さは46.8mです。新しい製錬施設を導入する際に、排ガス用の煙突として作られたのですが、新しい施設の操業が安定せず、煙突もあまり使用されませんでした。そのおかげで保存状態もよく、今に残っているんです」
取材班「この煙突からだけでも、往時の製錬所のスケールが想像できますね…」

ドラマ「足尾から来た女」は、単なる個人の昔話ではなく、人と人、人と村、人と国、そして人と時代が絡んだ、壮大なスケールの物語です。
国を支えながらも、公害を生み出し続けた製錬所に立つ、熱を供給する巨大な塔。歴史のうねりを感じずにはいられない、存在感のあるモニュメントでした。


■旧足尾線・足尾本山駅跡へ
続いて、ロケ隊は足尾本山駅跡へと向かいます。
これは製錬所に隣接した貨物駅の跡で、周辺には鉱石を貯める貯鉱ビン、硫酸タンク、駅舎など、比較的多くの建築物が残されています。


左の三角屋根の建物が貯鉱ビン、線路の右にあるのが旧駅舎、
崖の上にあるのが硫酸タンクです。

しかしこの一帯は、保安上の理由から、立ち入ることができませんでした。
トタン板や木造の建物が強風にあおられ、ミシミシ、ガタガタという音が常に鳴っています。さすがにこれでは、いたしかたないですね。
「鉱山施設や廃墟をそのまま残して、産業遺産として見学コースにすればよかったのに…」と、素人目には思っていたのですが、やはり「残す」といっても、簡単にはいかないようです。

取材班「さすがにこの一帯は難しいと思いますが、製錬所を一般の方が見学する機会はないのですか?」
担当者さん「年1回ですが、一般の方に特別公開しています。また国指定史跡として、文化庁に申請しているところです。将来は産業遺産・環境保護の情報発信地になればと考えています。太陽光発電施設の設置も完了し、今後さらに場内の緑化が進めば、数年後には、このあたりの景色も変わってくると思います」

足尾と聞くと、「過去」「歴史」そして「公害」という単語が思い浮かぶのですが、緑化やメガソーラーの設置など、未来へと向けた試みも始まっているようです。
昔話ではなく、未来へと続く物語としても、「足尾から来た女」をご覧いただければと思います。ドラマも、さんの写真も、期待を裏切らない骨太の仕上がりになっています。


■タイトルバックに写真を使う「ねらい」
そして後日談になりますが、東京に戻った田中ディレクターに、タイトルバックについて話を聞く機会がありました。

取材班「足尾ロケ、お疲れ様でした。タイトルバックは、どういった構成になりますか」
田中ディレクター「日本の近代を牽引したかつての足尾銅山と、廃墟と化した今の足尾銅山。その100年前と現在の写真で、タイトルバックを構成します。過去の写真は、古河鉱業お抱えの写真技師、小野崎一徳さんが撮影したものです。そして現在の写真は、番組ポスターで斬新な尾野真千子像を撮ってくださった渞さんにお願いしました」
取材班「足尾では、田中さんと渞さんの二人三脚で撮影を進めていましたね」
田中ディレクター「まず、小野崎さんの写真を渞さんとしばし眺めます。それから渞さんがアングルを探ります。そういう撮影方法を採りました」
取材班「撮影中の渞さんは、すごい気迫でした。声を掛けづらいほど…」
田中ディレクター「さんは、始終ピンと張りつめていましたね。それを真横で見ていて、すぐに感じました。この撮影は、写真家二人の闘いでもあるのだな…と。一度だけ、さんが、小野崎さんの写真を見て言ったんです。『撮る方も、撮られる方も誇りに満ちている』と。そして、黙々と廃墟へとレンズを向けました」

取材班「タイトルバックの仕上がりが楽しみですね」
田中ディレクター「タイトルバックでは、予想通り、新旧二つの写真の間に物凄い緊張感が流れています。それは我々が欲しかったものでした。この緊張感が、今を生きる我々に何かを語ってくれています」

…最後に、渞カメラマン撮影の写真を、番組で使用しなかった未公開カットも含めて、少しだけ、放送に先駆けて公開します。
足尾の風景、足尾の人々、そして足尾の歴史に、思いを馳せてみては…。





 

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土曜ドラマ 「足尾から来た女」 (全2回)
総合 1月18日(土)・25日(土) 午後9時から
出演:尾野真千子、鈴木保奈美、北村有起哉、藤村志保、柄本明、松重豊 ほか
足尾から来た女」番組ホームページ


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