カレ、夫、男友達 | NHKドラマ10

番組のみどころ・江國香織さんからのメッセージ

 犬山家の三姉妹、次女の治子(真木よう子)は中東取材に出かける恋人の熊木(徳井義実)を見送る。淋しさが募る頃、元カレの八木(平岳大)と偶然出会う。長女の麻子(木村多江)は夫・邦一(ユースケ・サンタマリア)と共依存の関係に縛られているが家族に打ち明けられずにいた。三女の育子(夏帆)は、恋愛という感情を理解できずに悩んでいた・・・。
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原作者のことば…江國香織

 『思いわずらうことなく愉しく生きよ』は、健全さとは何か、をめぐる物語です。

 たとえば家族の仲がいいこと、自分に正直でいようとすること、大切な相手を守ろうとすること。それらは健全と見做されがちなことです。妻が夫に献身的であることも、独身の女性が自由に恋愛を謳歌することも、注意深い少女がそれを避けようとすることも。

 そういう三姉妹と母親の向うには、勿論男たちがいます。父親だったり夫だったり恋人だったりするその男たちにとっての、健全さとは何か。これは、彼らの父性≠めぐる物語でもあったことに、私はドラマの台本を読んで気づきました。

 小説が映像化されるとき、私はいつも、「じゃんじゃん変えて下さい」と言います。それは、私が普段、言葉にだけ許された方法で小説を書いているつもりだからで、映像化される場合、映像にだけ許された方法に変えて下さらない限り、その小説のスピリットが映像に移行しないと思うからです。

 今回、役者さんたちの顔ぶれを拝見し、台本を読ませていただいて、この小説のスピリット――健全さというものの持つ、大いなる不健全さ――が、もしかしてテレビから流れちゃうかもしれないと、期待しています。

脚本家のことば…浅野妙子

 治子という女が好きだ。脇目もふらずひとすじに惚れ抜いてくれる恋人がいるにもかかわらず、元カレに誘われてフラフラと浮気する。理由は、「肉体」が抗えなかったから。事実を知った恋人に責められると、謝るより先に、メールを見られたことに本気で逆ギレし、開き直る。こんな治子が、私にはとても可愛く、魅力的に思える。その飾り気の無い素直さ正直さに、同じ女として何故か共感すら覚えてしまう。

 治子はものすごくピュアだ。自分自身の心理や行動を、他人の目や世間の常識で測ってブレーキをかけるような姑息さがまったく無い。ピュアというなら、ホームレスの男性に処女を捧げてしまう育子も、DVの夫との間に愛を信じようとする麻子もそうだ。小説中、三姉妹は、額をつきあわせて言う。――私たちはたぶんのびやかすぎるのよ――

 このドラマを見て、治子、麻子、育子のそれぞれに共感し、思い入れを持ってくれる視聴者がいると嬉しい。そしてこの世界が、こんな女性たちののびやかさを許してくれる世界であってくれたらと思う。とはいえ、私は希望を持っている。これからは、女に寛大になれない男など厳しい恋愛市場で生き延びていかれまい。

 女たちよ、より強くあれ。男たちよ、寛大であれ。

制作者のことば…黒沢淳(テレパック)

 私は以前、今も師と仰ぐ方から「ドラマを創るには、作品が完成するまでの間、出演者やスタッフをすべて、妻もしくは恋人と思い、親友と思い、家族と思って愛情を注がなければいけない」と教えられました。毎回それは心がけているのですが、今回のドラマでは本当に自然に、しかもかなり強い磁力でそうなっていました。向こうは迷惑かもしれませんが、治子が、麻子が、育子が、洋子が、愛おしくてたまらないのです。いまでも。そして男優陣も、愛に純粋な邦一、熊木、修司らは、私の生きる指針ともなりました。俳優の魅力、スタッフの才能と情熱、愛ある演出、そして何よりも、江國香織さん、浅野妙子さんの、ぬくもり溢れる、かつシャープに現代を切り取った秀逸な原作・脚本が起こした奇跡。この魔法の玉手箱を、全国の皆さまにお届けしたいと思います。「幸せの物差しは自分自身だよね」と、皆さまの中に、ほのかな力が湧いてきてくだされば幸いです!

企画意図…銭谷雅義(NHKソフト開発センター)

 家族のドラマを作りたいと思っていました。テレビのホームドラマで育った世代として、現代の視聴者に満足してもらえる新しいホームドラマを作って見たい。そんなとき、江國香織さんの原作を拝読し、これこそ現代のホームドラマだと思いました。

 高度経済成長時代以前、家庭は帰るべき温かい場所でした。やがて社会のモラルの象徴として反抗の対象になり、次第に家族の絆はボロボロに傷ついていきました。

 ところが犬山家の三姉妹はどうでしょうか?治子も、麻子も、育子も自分自身の価値観に従って自由に生きている。でも、自由に生きるにはそれなりの代償があり、傷つくこともある。しかし、それぞれ大人として個人の意志を大事にしながら、お互いを思い合う家族の存在が、三姉妹を救います。

 "家族の絆"に新しい光が当てられている今の時代に見ていただきたいホームドラマです。