「紙の月」ドラマのみどころ

「ここではない、どこか。私ではない、誰か……」金で<愛>を買おうとした女は、何を得て、何を失ったのか?

梅澤梨花(原田知世) は夫・正文(光石研) と二人暮らし。子供ができなかったこともあり、わかば銀行でパートとして働き始める。
渉外係として顧客を回り、家事をいとわず手伝ううち、梨花は名護たま江(冨士眞奈美)などの独居老人たちから絶大な信頼を得ていく。
中でも梨花にご執心なのは地域の地主の平林孝三(ミッキー・カーチス)だ。
ある日、平林家に呼び出された梨花は、孝三に金を借りにきた孫の光太(満島真之介)と出会う。それから2年後。
梨花は顧客から預かった1億もの金を着服し、海外に逃亡していた。いったい梨花に何が起きたのか。高校時代の友人・岡崎木綿子(水野真紀)と中条亜紀(西田尚美)は、梨花が起こした事件をたどるなか、それぞれが抱える心の闇と向き合わざるを得なくなっていく。

紙の月

原作者のことば

『空恐ろしくも、うつくしいまやかし』 ...角田光代

この小説を書こうと思ったとき、恋愛をテーマにしようと思っていました。ごくふつうの恋愛ではなくて、いびつなかたちでしか成り立つことのできない恋愛を。ドラマを拝見し、私が書いたものよりももっと深い恋愛の物語になっているという印象を持ちました。原田知世さん演じるまじめな梨花の、透明な孤独感と空虚感に胸が痛み、人は、愛することも愛されることもなく生きてはいかれないのではないかと、考えさせられました。同時に、相手は光太ではなくてもよかったのではないか、空恐ろしいような気持ちにもなりました。梨花だけでなく、私たちの恋愛の相手もまた、だれでもいいのではないか。だとするならば、恋愛とはなんというまやかしだろう。そのまやかしを、私たちはなんと強く必要としているのだろう。そしてこの場合の「恋愛」を「お金」に置き換えても、まったく意味は変わらないと、あらためて気づきました。書いているときよりも、一段と深く考えざるを得ないドラマにしていただいたことに、この上ない幸福と感謝を感じています。

演出のことば

『聖なる堕天使、梨花』 ...黛りんたろう

「聖なるものに近づこうとすればするほど、道徳的には堕落してゆく」 これは古くから、ドラマの普遍的なテーマのひとつである。比較的裕福な家に育った主人公の梨花は、幼き頃から、困った人を助けることに、人生の究極の意味があると信じていた。梨花の理想はマザーテレサであり、あの清らかさに少しでも近づきたい、救済を求める者たちに「必要とされたい」、と念願して成長した。しかし現実の生活は梨花にストレスこそ与え、望むような「必要のされ方」は、やって来なかった。加えて、唯一女性として「必要とされる」証のひとつ、子作りも、高齢出産の刻限が近づき、焦燥は募るばかりだった。そんな折、目の前に現われた、借金を抱えた青年を救いたい、という気持ちになったのは、むしろ自然なことだった。しかし何事にも徹底して、中途半端をきらう梨花は、禁断の公金に手をつけてしまう。・・・「聖なる堕天使」とも言うべき梨花が犯すのは、いわば「清らかな罪」。「お金」という「現代の神」を巡る渦に、梨花を中心に、同世代三人の女性が奔弄される。ドラマは、現代に生きる「アラフォー女性」の内面をえぐり出すだけではなく、「聖なるもの」の存在から、遠くかけ離れてしまった現代人が等しく抱える「空虚感」 「欠乏感」を切実なまでに描き出し、それからの「復活」の方法を探るものである。

紙の月

制作のことば

『月に写る存在』 ...近藤晋

彼女は東南アジアの或る国境に立つ。銀行パートの平凡な主婦が、何故一億拐帯の果てこの地に…ドラマはその経緯を浮彫します。登場人物各自が「人が幸せに生きること」を希求する深い描出に囚われ、是非ドラマ化をと角田さんに願いました。
就職も不妊も良しとする夫との生活で、彼女はいつか自らの存在価値に不安を覚え、化粧品をつい顧客の預金流用で賄いすぐ返済して誰に迷惑もかけなかった所から、紙幣の持つ万能感の虜となり、又流用して映画青年の志を助ける…見守る親友二人も 買物依存症と貯金至上癖から新たな生活に向い始め、青年は彼女から自立するが、老顧客は彼女を信じて世の糾弾を防ごうとする…そして妻の孤愁に思い至った夫も…彼女は国境係員に身柄を委ねます。この役は原田さんで成立でした。
アイデンティティを求める人間模様の中から何か日本人の生き方について、特に女性視聴者に色々語らって頂けるなら幸せです。

制作のことば

『毒による救い』 ...海辺潔

原作の角田さんとは十代からの友人で、デビュー以来、その作品をほとんど読んでいます。角田さん自身には全く毒気がないのに、彼女から生まれる物語はフワフワ切ない毒に満ちていて、テレビのように"救い" が必要なメディアとは相性が悪いなぁ…と思っていました。今回の『紙の月』は特に痛くて苦しい毒にあふれています。でも、なぜだか私は救われた…。
男の私はどうしても夫の正文目線で物語を見てしまうのですが、彼の無神経や鈍感が我がことのように突き刺さり、血を流させます。
きっと、その痛みや血が、私にとっては救いになったのでしょう。だから、女性だけでなく男性にも観てもらいたい。できるなら夫婦で。
このドラマには、毒を浄化させる"何か" があると思います。

紙の月

ドラマ10『紙の月』

[放送]
2014年1月7日(火)スタート <連続5回>
 毎週火曜日・午後10時~10時48分放送 [総合]
 再放送:毎週月曜・午後4時5分 [総合]/毎週火曜・午前1時25分(月曜深夜)

[出演]
原田知世
水野真紀 西田尚美 ミッキー・カーチス 満島真之介 冨士眞奈美 光石研 ほか

[原作]
角田光代「紙の月」(角川春樹事務所)

[脚本]
篠﨑絵里子

[音楽]
住友紀人

[主題歌]
「子守唄」マイア・ヒラサワ

[演出]
黛りんたろう、一色隆司

[制作]
近藤晋(Shin企画)、谷口卓敬(NHK)、海辺潔(NHKエンタープライズ)

[プロデューサー]
大越大士(Shin企画)