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「原作者のことば」…原作・松本剛

 「すみれの花咲く頃」は1991年に私が初めて週刊連載した、全5話、100ページ弱の漫画です。

 2003年の夏頃に、ドラマ化したいというお話を頂き、驚くと共に大変嬉しく思いました。すべてお任せして、それから3年。ついにドラマが完成し、感慨に堪えません。

 ほとんど鄭義信さんのオリジナルと言っていいような素晴らしい脚本と、落合ディレクターの丁寧な演出、充実した俳優陣により、ドラマ版「すみれの花咲く頃」は奥行きのある、芯の強い物語になっています。

 多部未華子さんがヒロインの歯がゆさをとてもよく体現していて、本当に感動しました。彼女の表情に引き込まれるようにドラマの中にすっと入って行けました。

 また、子供たち(大人たちも)を見守るようにそびえる磐梯山のロケーションの美しさ、ひんやりと澄んだ空気の感触もとても印象的でした。

 このドラマに原作者として名前を連ねられることを光栄に思います。ドラマを作って下さったスタッフ・キャストの皆さん、ありがとうございました。




「名残り雪」…脚本・鄭義信

 「すみれの花咲く頃」のロケ地をどこにしようかと、長野や東北のあちこちを監督の落合さんと回ったのは、もう二年前のことになる。車でローカル線の駅をたどってみたり、山奥の廃村を訪ねたり……ずいぶん丹念に取材して回ったものだ。

 風光明媚な場所はいくつかあった。それこそ絵に描いたような絶好のロケ地も。だけど、猪苗代のどちらかと言えば殺風景な風景が、僕はひどく気に入ってしまった。どこがどう気に入ったか具体的に言えないけれど、心の片隅を引っかくものがあったのだ。

 それから、猪苗代の古い商店街を訪ねてみた。いずこの地方都市と同じく、猪苗代の商店街も閑古鳥が鳴いて、あちこちのシャッターに閉店の張り紙があった。郊外に大型スーパーができて、ますますさびれてしまったようだ。

 景気だ、景気だ、とニュースが伝えるが、それはどうやら大都市(大企業)だけの話であるらしい。地方経済が冷えこむ一方で、都会では人手不足のために北海道にまで求人スカウトに出かけるそうだ。働く場所のない若者たちは当然都会に流出していくほかない。日本はどんどん格差が広がる社会になっていく。

 腰が曲がった婆さんが、閑散とした商店街を乳母車を押していく。魚屋も八百屋も潰れてしまった。大型スーパーには車でしか行けない。彼女はどこで買い物をするのだろうか……。

 猪苗代湖に向かう途中で車を止めてみる。季節は早春で、まだ雪の残る田んぼの向こうに猪苗代の町が見える。代猪苗代の町はどこか隙間風が吹いていくような印象がある。一方が雪をいただいた磐梯山が塞ぎ、一方が猪苗代湖に向かって開けているせいだろうか……。どろどろになった雪を蹴散らしながら、道をトラックが通り過ぎていく。そのどろどろの雪を見つめているうちに、「すみれの花咲く頃」の登場人物たちの孤独や希望、夢が突然に胸に迫ってきた。この町を出て行きたいと願う少女……残りたくても残れない少年たち……。

 「すみれの花咲く頃」の原作は十五年前に描かれている。十五年前の少年少女たちの悩みは今も変わることなく、なおかつ深刻になっている。

 僕は地方都市で生きる少年少女たちにエールを送りたいと思って、この「すみれの花咲く頃」を書き始めたのだ……。




「演出ノート」…演出・落合将(NHKディレクター)

 このドラマは2001年につくった「僕はあした十八になる」というドラマの正統な続編です。ここではない何処かに自分の居場所を見つけた少年の話から5年、再び、ここではない何処かへ居場所を求める、今度は少女の話です。

 この作品に込めたメッセージはあまりにも沢山ありすぎて、放送前のこのページでは開示すべきものではないと思います。いずれ場があれば書かせていただきますが、ひとつだけ言えるとするなら、この作品は「夢を追うことのすばらしさ」や「家族愛」を描いたものではまったくない、ということです。描いたのは、一人の孤独な少女の中でまきおこる、グロテスクな自分との対峙であり、みすぼらしい現実とどう共存していくか、そのために何を断念していかねばならないか、ということで、引いては、それを描くことでたくさんの子供たちを現在がんじがらめにしているこの国の閉塞感をこれからどう突破していくかという「問いかけ」だけがある作品です。

 そしてそんな激しく複雑なメッセージを、実年齢である17歳の3月に発することが出来る女優は多部未華子しかいませんでした。彼女の持つ独自の存在感、俳優としての客観的でクールな人格、全てが主人公遠藤君子の「いま」として必要とされたものであり、さらにそれが確信に変わったのは、打ち上げの席での多部未華子の姿を見たときでした。ふっと偶然両隣が席をあけて一人になり、手持ち無沙汰になった彼女が、「自分では意識せずに」身にまとった孤独。もともとあまり自分からしゃべるほうではない物静かな彼女の、そのときの横顔から見え隠れしたはかなさと意思の強さ。それは出口のない今の時代に対峙すべき物語の語り部として絶対無二のたたずまいでした。

 17歳の3月という、子供から大人へのちょうど中間のような季節は、彼女と、そして共演した二人の少年にも二度と永遠にめぐってきません。僕はこの物語を通して、彼らのそのかけがえのない瞬間をあの小さな町で記録できたことを、本当に嬉しく思っています。




スタッフ一覧

音楽・ピアノ…野村陽子
編曲…吉川慶

制作統括…若泉久朗・鈴木圭
演出…落合将
美術…室岡康弘
技術…戸村義男
撮影…清水昇一郎
照明…寺田博
音声…上村悦也
映像技術…谷本将広
音響効果…山田正幸
編集…城島純一
美術進行…鴫原広起

ダンス指導…麻咲梨乃・栗坂直子
ダンスコーディネイト…松本真理
声楽指導…長谷川紀久恵
サンバダンス指導…高松美奈子
介護指導…針田進
福島ことば指導…河原田ヤスケ

撮影協力…
宝塚歌劇団・福島県猪苗代町・福島県磐梯町


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