「名残り雪」…脚本・鄭義信
「すみれの花咲く頃」のロケ地をどこにしようかと、長野や東北のあちこちを監督の落合さんと回ったのは、もう二年前のことになる。車でローカル線の駅をたどってみたり、山奥の廃村を訪ねたり……ずいぶん丹念に取材して回ったものだ。
風光明媚な場所はいくつかあった。それこそ絵に描いたような絶好のロケ地も。だけど、猪苗代のどちらかと言えば殺風景な風景が、僕はひどく気に入ってしまった。どこがどう気に入ったか具体的に言えないけれど、心の片隅を引っかくものがあったのだ。
それから、猪苗代の古い商店街を訪ねてみた。いずこの地方都市と同じく、猪苗代の商店街も閑古鳥が鳴いて、あちこちのシャッターに閉店の張り紙があった。郊外に大型スーパーができて、ますますさびれてしまったようだ。
景気だ、景気だ、とニュースが伝えるが、それはどうやら大都市(大企業)だけの話であるらしい。地方経済が冷えこむ一方で、都会では人手不足のために北海道にまで求人スカウトに出かけるそうだ。働く場所のない若者たちは当然都会に流出していくほかない。日本はどんどん格差が広がる社会になっていく。
腰が曲がった婆さんが、閑散とした商店街を乳母車を押していく。魚屋も八百屋も潰れてしまった。大型スーパーには車でしか行けない。彼女はどこで買い物をするのだろうか……。
猪苗代湖に向かう途中で車を止めてみる。季節は早春で、まだ雪の残る田んぼの向こうに猪苗代の町が見える。代猪苗代の町はどこか隙間風が吹いていくような印象がある。一方が雪をいただいた磐梯山が塞ぎ、一方が猪苗代湖に向かって開けているせいだろうか……。どろどろになった雪を蹴散らしながら、道をトラックが通り過ぎていく。そのどろどろの雪を見つめているうちに、「すみれの花咲く頃」の登場人物たちの孤独や希望、夢が突然に胸に迫ってきた。この町を出て行きたいと願う少女……残りたくても残れない少年たち……。
「すみれの花咲く頃」の原作は十五年前に描かれている。十五年前の少年少女たちの悩みは今も変わることなく、なおかつ深刻になっている。
僕は地方都市で生きる少年少女たちにエールを送りたいと思って、この「すみれの花咲く頃」を書き始めたのだ……。 |