白洲次郎 オイリー・ボーイの劇用車紹介

白洲次郎のクルマたち

衣装デザイン 伊藤佐智子さんロングインタビュー

 番組で使用した衣装に関しまして、お褒めのメッセージやご質問を多数頂戴しております。そこで「衣装についてもっと知りたい」というご要望にお答えして、番組の衣装デザインを担当いただきました、伊藤佐智子さんにロングインタビューを行いました。

伊藤佐智子さんのプロフィール…

 ファッションクリエーター。一枚の布から始まる表現形式において常にそのコンセプチュアルワークに高い創造性を求め、自在な感性に依るオリジナリティ溢れたデザインを提供することを信条とする。

 舞台、映画の衣裳デザインはもとより、資生堂での商品開発から、井上陽水コンサートツアーにおけるセットデザイナーとして今年で10年目を迎えるなど、活動は多岐にわたる。

 舞台「人形の家」(08/デヴィット・ルボー演出、シアターコクーン)、「楽屋」(09/生瀬勝久演出、シアタートラム)、映画「白痴」(99/手塚眞監督)、「式日」(00/庵野秀明監督)、「オペレッタ狸御殿」(05/鈴木清順監督)、「春の雪」(05/行定勲監督)、「ヤーチャイカ」(08/谷川俊太郎 覚和歌子監督)などがある。

Q.「白洲次郎」の仕事を受けたきっかけ

A.きっかけは、「白洲次郎・白洲正子」彼らの話をビジュアル化するということにすごく興味がありましたね。とくに白洲正子さんに関しては、その著書から骨董を通じて彼女の審美眼みたいなものを知っていたので。青山二郎さん関係のことも、興味のある世界でした。

 白洲次郎さんに関しては「存在がカッコイイ」という印象です。たとえばダンディなイメージの人を5人挙げよと言われたら絶対に入れるでしょう。

 実際の次郎さんと正子さんをなぞるのではなくて、「伊勢谷次郎」「中谷正子」ということにしたい、と大友監督から言われていたので、それなら面白いなと思ったんですね。彼らの生き様から私なりに思うビジョンを、今の人たちに向けてビジュアル化するというのはすごく面白いことだと思います。それが参加したいなと思うきっかけでしたね。

Q.苦労した点

A.まず彼らの生活のレベル、彼らの育ってきた裕福さというのは一般的には馴染みの無いものなので、その部分をきっちり描かないといけないと思ったのがまず最初の難関ですね。海外のビンテージを取り寄せたり、新しく作ったものもあります。

 まあひとつの空気ですよね、クオリティの高い文化的な空気感を出そうと。衣装は最初に目に入るものだと思うんですね。だからその点にまず心をくばりましたね。

Q.全ての衣装が本物を用意できるわけでない、その時の工夫は

A.本物が必ずしもいいとは限らないわけですよね。彼の持ってるダンディさは、たとえば色で、中に赤いベストを着ることによって、、、当時の日本の男性だったら赤いベストをスーツの下に着たりしないのですが、イギリス人の場合は着ていたりするんです。ネクタイもオリジナルで何本か作ったのですが、彼のこだわりみたいなものを小物に至るまで表現する。それから組み合わせで表現する、スタイリングを重視しました。

Q.衣装デザインとしてのテーマなど

A.次郎の若いときは、私にとっては「キザ」。すごくキザな人で西洋かぶれでもある。スポーツカーに乗ってロビンと写っているイギリス時代の写真と、もう一枚は晩年のスキー場での写真ですけど、私はこの二枚の写真がすごく好きで。このテイスト、キザであったことが最終的にはすごく格好よさにつながっていって、今の人が見ても本当に遜色ない格好いい生き方、ファッションも含めて。正子もそうですけどいろんなことにこだわっていたという、その「こだわりが一つのアイテムだった」ってことだと思うんですよね。筋金入りのスノッブな人だし、スノッブってすごく格好いいことなんですよ。そういう世界を描けたらいいなと思いました。

 正子については、少年ぽさがあるんですよ。ずっと年取られてからも思いましたが、「少年ぽい少女らしさ」みたいなものがあって。そして非常にワガママであるという。だからワガママな女の子っていうものをひとつの女性像として作り上げたかった。

 ワガママってすごく大事なことだと思うんですよね。やっぱり彼女にもひとつひとつこだわりがありましたから、白洲正子さんのこだわりであったものを、私なりのこだわりに移し変えて、意図するところを汲みながら、現代にも通じるようにもっていきたいなと思いました。

 結局、白洲次郎という人を描くために、その背景になる人たちも同じくらい大事なんですね。そこにこだわらないと映像として厚みのあるものになっていかない。だから今回の大変だった点は、二人(次郎と正子)の衣装はもちろん大変でしたが、二人をクローズアップするに足る後ろの人たち、たとえばエキストラの人達の衣装も、同じ比重で大変だったんです。

 パンツの太さとか、生地の厚みとかがないとあの時代は描けないですよね。そういう点もひとつひとつ手を抜かず、(エキストラの)道を横切る人にも気を配ったということが、衣装部的には成功してるんじゃないかと思うのですが。(笑)

 映画以上に大変でしたね。時代のことがあったのと、彼らの「クラス」のことがあったので、そのことがすごく大変でした。

 白洲家も樺山家も同じように、その前の代から素晴しいじゃないですか。(次郎、正子の)お父様たちも留学してたっていうのはその時代、すごいことですよね。そういう「香り」が漂う画にするには、やっぱり細かいところにこだわるのは大事ですよね。

 スカーフにしても、スカーフを被って首の下で結ぶのと、後ろで結ぶのとターバンにするのとはまた全然違う形に見えてくるんですよね。そういうスタイリング的なこと。その人のその時の状況に合わせた着こなし術みたいなことも見ていただきたいなと思っています。

Q.作品全体を通じてのテーマ

A.やっぱり、「こだわる」ってことですよね。例えば彼らはすごく優雅な暮らしをしていて、裕福であったけれどもそこに溺れる人間性ではなかったわけです。なぜそこに溺れる人間性ではなかったかというと、やっぱりひとつひとつのことにこだわってきたからだと思うんですよね。

 生活にもこだわったし、時代にもこだわったし、生きて行く時のいろんな問題に対してもこだわった。衣食住全てにこだわってきたわけじゃないですか。そういう「こだわり」を見せたいですね。その蓄積がひとつの人生を作り上げるんだということを感じてもらいたいですね。

 正子は最初(第1回)のときは、ちょっとかわいらしさもあるリッチな衣装にしているんですね。それは彼女がソーシャルバタフライと言われるような時間を過ごしている人だったけれども、常に「空洞感」というか、自分が何者であるかを考えていたわけですよね。

 本能的に「自分が何者であるか」ということを次郎も正子も若いときから思っていて、それは一般の人と同じように煩悩もありながら、煩悩と本能を使い分けて上手く人生を生き抜いてきたと思うんですよね。そのことが共感できるし、すごく学べるのだと思うんです。

 自分の本能とか自分のこだわりとか、そういうものを忘れないということが、今みんなに伝えたいことだと思います。

Q.伊藤さんの「こだわり」とは

A.私のこだわりというのは、錬金術的なこと?話がずれますけど、世の中でみんなが思っている価値の無いものを価値の有るものに、変えていくことが出来ればいいなと思います。価値のあるものと無いものの境界線というのが、一番興味のあることですね。どんなことでもいいですけど、境界線にすごく興味がありますね。

 彼らはそういう意味でも、いいものも知っていたけれど、いいものを知っていたからこそ、一番てっぺんと一番下のものの魅力をすごく分かっていたと思うんですね。すごく幅があったと思う。キャパシティが年齢と共にどんどん増していった人達っていう気がします。

Q.伊勢谷友介・中谷美紀の魅力

A.「姿の良さ」。これは格好いい人が演じないと、とくに白洲次郎に関しては。まず格好良くないと困る(笑)っていうのはありますね。その点で伊勢谷さんはいい。あとちょっと似ているところがあると思うんですね、白洲次郎に。なんとなく気質的に?それが意外と映像になったときに共感を呼べるんじゃないかと思います。

 二人とも何か「嘘つきではない」という感じがするんですよね。嘘はついても嘘つきじゃない、そういうのを感じますよね。

Q.大友監督の印象

A.大友さんはすごく面白かったです、楽しかったし。

 「決めない」っていうところが素晴らしいなと思いましたね。これぐらいの規模の仕事になると、ある程度きちんと決めた中で、いかに最初に決めたものを忠実にやっていくかみたいになりやすいんですけど。けろっとしたところがありますよね(笑)私も随分(シーンを)切られて、「この衣装無いの!?」とがっかりしたシーンはいくつもあります。

 やっぱり、ばっさり切ることって監督としてすごく大事なことだと思います。血も涙もある人に見えて、意外と無いかもなって(笑)思うのが感想ですね。そういう部分がクリエイターとして素晴らしいと思います。

Q.大友監督が、近衞文麿の死後自宅を訪れるシーンの正子の喪服を「着物」にしたがったが、伊藤さんの用意した洋装の喪服で撮影し、「正子には洋装が合う」という判断の正しさに驚いていたそうですね。

A.特別に「戦い合った」という感じは無いんですが、喪服はそうでしたね。でも喪服は絶対に洋装にしたかったです。「正子さんは絶対洋装であるはず!」っていう風に浮かんでくるんです。みんなそうですけど「見るとわかる」ってあるじゃないですか。「見せないと分からない」ということはありましたね。

Q.スタッフ全体が「現場で作り上げていく作品」と感じた?

A.事前に自分たちでも調べましたけど、例えば(父・文平が雇っていた)宮大工の資料とか、後ろの人たちの人生を調べて資料を頂いたじゃないですか。ああいうことが面白かったですね。あの下地があって、余計この作品にのめり込めました。

 この仕事って「耕す人」がいっぱいいたでしょ?いつもは一人で探さなきゃいけなかったり、衣装部として耕さなきゃいけないことも多いんですけど、今回はたくさんの人たちが耕してそれをみんなで交換した、それがあったので、やっていて面白かったですよね。

 大変でも、すごく面白いという気持ちで突っ走れたという感じですね。美術・衣装・助監督が良い意味で侵食し合いましたよね。

Q.伊藤さんのおすすめシーン

A.見どころは最初から最後まで全部(笑)「こだわり」を見てくださいという感じです。

Q.3話の衣装

A.3話は一番男性的な話になるわけでしょ。より政治ものになっていく中でどれくらいデリケートな部分、デリケートな世界観を出せるか。次郎が持っている細やかさがあって、細やかなんだけどせっかち、みたいな(笑)ああいうことが男社会の中で他の男性とはちょっと異質な感じで描いていけたらいいなと思います。そして、自分の立ち位置を見つけた、正子の着物姿にもフューチャーしようと思っています。

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