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このドラマについて

「いい加減な気持ち」
…桐野夏生(原作)

 長男と喧嘩してカプセルホテルに泊まった敏子が、「風呂婆さん」こと宮里しげ子に、「私が一番怖いのは歳を取ることです。歳を取るってどういうことですか」と尋ねる場面がある。宮里は、「老いという初めての経験を一人で迎えるのは怖いですよ」と言うのだが、「ま、人間なるようになるわよ」とはぐらかす。自分で書いたのに、この場面を読む度に笑ってしまう。ここは、敏子の最大の恐怖は「孤独と老い」であり、そのふたつに対処する方法なんてない、とする宮里の明快な結論があるのだが、本当にその通りだと思う自分がいるからだ。

 敏子は五十九歳で寡婦となったが、亡夫との思い出は悔いだらけ。災害でもないのだから前もって備えることなんかできないのに、さあこれから自分の老いを考えましょう、と突然言われても、戸惑うばかりだ。つまり、不意にやってきた不幸は、すべての答えを早く、しかも自分だけで考えろ、と最も難しい問いを敏子に投げかけることになったのだ。結論など簡単に出るはずはない。悟れるはずなんてない。結論がころころ変わったっていいじゃないか。思いっきり惑って、深刻な問題ははぐらかして生きていこう。『魂萌え!』を書いた背景には、そんな宮里的な「いい加減な気持ち」があったのである。「ま、人間なるようになるわよ」としか言えないことって、きっとたくさんあるのだ。



制作にあたって
…岩谷可奈子(制作統括・NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー)

 この原作に初めて接したとき、「なんてリアルなんだろう。」と思いました。世の中に「敏子さん」はゴマンといるに違いない。その「ゴマンといる敏子さんたち」にエールを送りたい。その願いをかなえることができました。

 高畑淳子さんは今回、TVドラマ初主演。あふれるパワーでスタッフや他の出演者の方々を盛り上げてくださいます。小柳さん、仁科さん、木野さんの3人娘(!)が加わると、全く違う四人四様の衣装で「この4人の友人関係が続いているのも変よね。」と笑いながら収録が進みます。

 しかしその微妙な違和感が、このドラマを制作する上でのテーマなのかもしれません。人間は思っていることを心の底に押し隠しながら生きています。長年連れ添ってきた夫婦の間にも、大人になった子供たちとの間にも、高校時代からつきあってきた同級生同士も、心に本音をためこみながら関係が続いていっているものなのではないでしょうか。言葉と本音のくい違い・・・このドラマの醍醐味です。見てくださる方々に伝わればと願っています。



演出にあたって
…吉川邦夫(NHKエンタープライズ エグゼクティブ・ディレクター)

 この物語のキーワードのひとつは「矛盾の魅力」。人間は矛盾に満ちていて、それに翻弄されもするけれど、だからこそスリリングで面白い。主人公は平凡で平和に生きてきたつもりでしたが、実はそうではありませんでした。物語の序盤で傷つき混乱していた彼女は、矛盾を受容することでどんどん魅力的になっていく。その魅力を膨らまそうと、一見オーソドックスに見えながら、どこか少し異物が混じるトーンを撮影にも美術にも織り込んでいます。音楽も会話の行間をあぶりだすようなスパニッシュ・ギターのオリジナル。そして最重要なのは、その矛盾を体現する主人公です。高畑淳子さんは凄まじい振れ幅のキャラクターを、演技力の豊かさ、深さで、繊細に大胆に演じてくださっています。魅力的な共演陣ともヒリヒリした場面が続き、クライマックスには高橋惠子さんとの10分以上に及ぶ「静かなる決闘」が待っています。

 次々と繰り広げられるスリルに満ちた演技合戦をどうぞお見逃しなく!



音楽:スパニッシュ・コネクション

 フラメンコギター(伊藤芳輝)、バイオリン(平松加奈)、インドの打楽器タブラ(吉見征樹)という異色の編成で2000年に結成されたグループ。

 フラメンコのエッセンスを中心にインドからアンダルシアへといたるジプシーの流れを
音楽で表現したオリジナル音楽を作曲、演奏している。

 現在までにCD6枚発表。



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