潮は満ちて来る、
大海のまんなか、
深々として四方から集まる波に取りまかれて、
まるく、朧ろげに、
ゆられる暁。
暁の色は空の雲、
嬰児の頬に、
柔らかに上って来る、
空にはどよもす幾万の海鳥の羽音
波の下には数知れぬ魚類のため息。
翼ある船はふかき
水平線のかなたより現れて来る、
匂やかな嬰児の心は
仄かなる四月の水の上に
新月の如く生命の船を解き放つ。
遙かな海の岸には
聖天使出現の喇叭を吹く雄鶏
生まれいづる喜びの声、
霧は破れはてもなき海の上に
船は鮮やかに緑色の姿を現す。
満ち満ちて盛り上がる潮の頂点、
嬰児の情熱は漲り溢れ、
胸の奥より沸き出で来る
形なき言葉が消えては現われ、
渦巻きつつ流れ、泡立つ、海と風との対話。
翼ある船は嬰児の生命を乗せ
ゆるやかにすさまじい力を以て進んで来る。
生きとし生けるものの世界へ、
猛然として押しよせる形無き言葉。
恐ろしい到来の勢力。
船は涯てもない大洋の上に漂う、
不断に生長する船、
無限の世界を生み出す船、
嬰児の言葉は緑色の船
未来目かげてまっしぐらに帆走らす。