作家のことば…脚本家 森脇京子
菊太郎が活躍する江戸時代は、それ程、遠い昔ではない。
私の曾祖母から、伯父が聞いたという、こんな実話がある。
私の実家の近くで、果たし合いがあった。
季節は夏。早朝から始まっていた。
二人は、刀を構えたまま、睨み合っている。
野良仕事をしていた農民たちは手を止め、不安げに遠くから見ていたが、二人は、いつまで経っても睨み合っている。
そのうち日は高くなり、二人は、ダラダラ汗を流しながら、直射する日差しを避け、ジリッジリッと円を描くようにゆっくり移動していく。そしてついに、太陽が山の端に沈み掛けた瞬間、一方がドウッと倒れた。農民たちは、とうとう斬ったのだと思った。ところが、間もなく、もう一人の侍もバタリと崩れ落ちた。結局、二人は一度も刃を交えることなく、息絶えたのだ。
炎天下、長時間に渡る極度の緊張に精も根も尽き果てたのだろう。人が人を斬るということは、これほどまでに、苛酷なことなのだ。"はんなり菊太郎"は、決してバッサバッサと人を斬り倒したりしない。市井の人々と共に"生きる"リアリティーを楽しむドラマである。刀を用いずとも、人が人の心を一刀両断に斬り捨てるような現代にこそ、この時代劇の意義があると思っている。
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