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■原案小説のモデルとなった「ナイロンザイル切断事件」について
今回のドラマの原案である井上靖さんの小説「氷壁」は、実際に起こった事件をもとにして書かれています。
1955年(昭和30年)1月2日、厳冬期の前穂高岳東壁の頂上直下の岩場を登攀中にナイロンザイルが切断し、クライマーの若山五朗さんが墜落死しました。
当時、ナイロンザイルは、それまで使われていた麻ザイルに比べて軽量で扱いやすく、強度的にも優れている革命的な新素材ロープとして名高かったのですが、1954年12月29日から1955年1月3日までに同様のナイロンザイル切断事故が穂高岳山域で3件連続し、ナイロンザイルの「安全神話」が疑問視されるようになりました。
その後、若山さんの実兄・石岡繁雄さんが実験を行い、1トンの力で引っ張っても切れないナイロンザイルが鋭いエッジを持つ90度の岩角では容易に切断することを確認しました。ところが、登山用具の専門家である大学教授の指導で行われたザイルメーカーによる実験では、ナイロンザイルは麻ザイルに比べて数倍の強さを示しました。それは岩角に丸みがつけてあったためですが、その結果、「ナイロンザイルは本当に切れたのか」という大論争が起こりました。そして、若山さんと一緒に登攀していた石原国利さんが所属する山岳会が中心となり、ザイルメーカー、登山用具の専門家、その実験データをそのまま掲載しナイロンザイルの誤解をまねく性能を登山家たちに示した『山日記』の監修者・日本山岳会を相手に真実を求める闘いが始まりました。それは長期にわたり、大変困難を極めました。
1975年6月5日に登山用ザイルの安全基準が、PL法の精神を先取りした形で世界で初めて制定されました。執念ともいえる遺族たちの闘いが幕を閉じたのは、事件発生から実に約20年後のことでした。
今回、土曜ドラマ「氷壁」では、事故の原因を「ナイロンザイルの切断」から「カラビナの破損疑惑」に変更しました。しかし、井上靖さんの小説のモデルであり、実際に登山家たちの尊い命が失われてしまった「ナイロンザイル切断事件」は、忘れてはいけない重大な出来事であると言えるでしょう。 |