第8回「妊婦たちの不安」をご覧くださったみなさん、ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。
夫婦としてのあり方を確かめ合った、紗也子さん(水川あさみさん)と広紀さん(柄本時生さん)。
元気な赤ちゃんが産まれるといいですね!
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さて、今夜のスタッフブログは、こんなお話を。
ドラマ内で、由比産婦人科を時折り訪れる、「業者のおじさん」。
アオイからケースを受け取って行くこの人はいったい、何者なのでしょうか。
原作コミックにも少しだけ登場する「おじさん」ですが、実際にやりとりをしていた沖田×華さんもアルバイトだったので、彼がどこに所属しているのかなど、詳しい事は知らなかったそうです。
ところが、私たちがドラマ化に向け初期取材を進めていた時、あるベテランの産婦人科の先生が、ヒントをくださいました。「この人は“えな社”の人じゃないかな」
えな社―― 正確には「胞衣(ほうい)取扱業者」と言います。
「胞衣」または「えな」とは、出産に伴って母体から出て来る胎盤(たいばん)や、胎児を包んでいた膜などのことです。
昔、まだ民家で出産することが多かった時代、胎盤を庭に埋める風習がありました(それは肥料のためとも、一種の信仰のためとも言われています)。しかし、それだと野良犬が掘り返したりして公衆衛生上の問題も出て来たため、戦後まもなく各地方自治体が条例を定め、胎盤などの胞衣は指定した業者が引き取って、焼却処理することになったそうです。
そしてこの「胞衣取扱業者」は、中絶や流産などの事情で産まれて来ることが出来なかった赤ちゃん(基本的に12週未満)のことも、引き取ることになりました。
今回私たちは、都内のある胞衣取扱業者さんを訪れ、取材を行いました。社長の穂積久美子さん、今も時々現場を回ってらっしゃる穂積敏克さんにお話を聞かせていただいたり、施設を見せていただいたり。その会社では、引き取った胎児に火葬と同様の処置をしたうえで、遺灰を、敷地内にしつらえた小さな神社で供養していました。先代の社長からも引き継ぐ形で、何十年とつづけて来たと言います。
こんなことがあったそうです。
ある日、会社にひとりの女性から電話がかかってきました。「私の兄が、そちらでお世話になっているのではないかと」。
その女性が言うには、先ごろ母親が亡くなったのだが、その間際に「実はお前には、産んであげることが出来なかった兄弟がいる」と打ち明けられた。大変驚いたが、ゆかりのあった産科医に問い合わせたところ、おそらくそちらが引き取ったのでは、と分かった――
社内で確認したところ、ずいぶん昔の件だったけれども、確かに“その子”を引き取っていたことが分かりました。それを聞いた女性は会社を訪れ、小さな神社の前に佇んで、長いこと手を合わせてらしたそうです。自分にもうひとり家族がいたことを、確かめるかのように。
このお話を聞いたとき、産婦人科医や看護師さんだけじゃない。命を見つめながら仕事をしている人たちがここにもいるのだなと、胸の奥がじんとなるのを感じました。
そんな取材を経て、私たちは「業者のおじさん」という登場人物のイメージを膨らませて行きました。
おじさん役は、舞台俳優の猪熊恒和さん。いつも職人のような佇まいで、粛々と演じてくださいました。
彼は今日もバイクでやって来て、アオイから小さな箱を受け取り、口数も少なく帰って行きます。ドラマで描かれているのはここまでですが、このあと彼は社に戻って、丁寧にしかるべき処置をします。そして残った遺灰を、大切に供養する。いつ、“この子たち”の家族が会いにやって来てもいいように。
滅多にないことだと、わかってはいる。でもおじさんは、待ちつづけています。
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ドラマ「透明なゆりかご」、残すところあと2回となりました。
来週は、第9回『透明な子』。
原作ファンの皆さんから「あのエピソードを是非やって欲しい」
「でもあれの映像化はムリだろう」と多くの声をいただいていた、あのお話。
私たちは、取り組みたいと思います。
9月14日(金)、夜10時です。
番組ホームぺージはこちら。
投稿者:スタッフ | 投稿時間:22:47 | カテゴリ:透明なゆりかご