FMシアター「世界から猫が消えたなら」
放送日時:5月30日(土)22時〜22時50分
NHK-FMにて(ネット同時配信&聴き逃し配信あり)
出演:妻夫木聡・貫地谷しほり・國村隼・大沢逸美・木戸衣吹・達淳一
原作:川村元気 脚色:原田裕文 音楽:世武裕子
FMシアター「世界から猫が消えたなら」演出の倉崎憲です。今は連続テレビ小説「エール」を担当しています。
2013年に初回放送された「世界から猫が消えたなら」のアンコール放送がいよいよ明日に迫りました。
新型コロナウイルスの影響で、皆さんにとってこれまでは当たり前にあった様々な大切なものが、世界からなくなったと思います。卒業式、各スポーツ大会など、数えるとキリがありません。でも、世界から何かを失ったからこそ気付くこと、得たものもそれぞれにきっとあるはずです。こんな時だからこそ、改めてこの物語を聴いていただければと思います。
せっかくのアンコール放送なので、少しだけ制作の舞台裏を思い出しながら書いてみます。
今からちょうど7年ほど前。
脚本家の原田さんとシナリオハンティングのため、物語の舞台と想定する函館を訪れ、主人公が生きている日常を、きっとこれまで見てきた景色を、聴こえてくる様々な音を、主人公の身になって確かめていました。
日和坂、八幡坂、大三坂、二十間坂などの坂道。異国ムードが漂う教会の数々。
街に鳴り響く鐘の音。古き良き時代を感じさせる路面電車。ベイエリア付近の港。
街の一角にある小さな時計店。
主人公はこの街で何を思い、どのように過ごしたのだろう。
この坂道を自転車で全速力で駆け抜ける郵便局員の“僕“。
路面電車を追い越し電車道のそばを駆けていく僕。
大学時代に出会った彼女。いつもこの街で何をしてどんな時間を共に過ごしていたのだろう。
聴こえてくる教会の鐘の音。
母が亡くなる前に、最後に家族で行った温泉旅行。
浜辺で撮った家族写真。
背中を丸めて時計を直す、小さな時計店を営む父の姿。
大好きだった小さな映画館。
現場に行かないとわからないことがたくさんあります。むしろ、現場で初めて知ることばかり。
テレビドラマと違って、オーディオドラマは音と台詞の世界。
現場で感じる音、空気、匂い、人、景色、全てがストーリーラインに彩りを加えてくれます。
主人公は、何を想い、どう生きたのだろう。
そんなことを想像しながら、ひたすら歩きまわり、地元の方々にも話をたくさん聞かせていただきました。
猫のキャベツ役として出演していただいた木戸衣吹さんと初めてお会いした時、「原作読んでみてどう感じた?」と聞くと、泣きながら自分が感じたこと、家族のことを話してくれました。
出演者・スタッフの顔合わせも兼ねて、台本読み合わせの日。
妻夫木さんの台本には自分の台詞箇所にピンクの蛍光ペンが。
1人二役を演じるのでかなりの台詞量なのに、その全てにペンがひいてあったことに驚きました。この作品を愛してくれているんだと嬉しく思ったのを今でも覚えています。
読み合わせが始まり、最も重要な場面でもある母親からの手紙のシーン。
妻夫木さんが途中で無言に。見ると、嗚咽をこらえて泣いておられました。
「ごめんなさい、自分の母親と重ね合わせてしまって」と。
そんな妻夫木さんを見て、他の出演者ももらい泣きしていました。
ドラマを作るのに大切なことの一つは、いかにその物語を愛しているかだと感じました。
僕はこの原作が大好きで、自分が惚れた物語でもあります。
そして出演者の皆さんは、僕と同じくこの原作を愛している人たちです。
これはドラマでもドキュメンタリーでも同じなのですが、何かを生み出すときに、自分の惚れた気持ちに正直になることが大事だと学ばせてくれた作品でもあります。
そして原作の「世界から猫が消えたなら」は、なんとハリウッド映画化も決まったそうです。今からとても楽しみですね!
明日の夜のひと時、「世界から猫が消えたなら」を聴いて皆さんにとって大切なものに想いを馳せていただけるような、優しい時間になれば幸いです。
投稿者:スタッフ | 投稿時間:14:00 | カテゴリ:オーディオドラマ