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『薔薇の名前』第4回 愛を語り 愛を科学する

(※ネタバレ注意! ドラマのストーリーに関する内容となっていますので、ドラマ本編をご覧になられてから、お読みいただくようお勧めいたします。)

ベレンガーの修道服からレンズ(眼鏡)が見つかりました。
これで、写字室から本とレンズを奪ったのはベレンガーだとわかりましたね。

■ 異端審問官がやって来る!
第4回では、教皇が派遣した一団が修道院に到着。フランシスコ会の面々が到着次第、いよいよ討議が始まるかと思いきや、修道院長と、教皇が派遣した一団のひとりであるロベルト卿が意外なことを言い出します。

修道院長 「それはできません」
ウィリアム 「どうしてですか」
ロベルト卿 「旅の間にアビニョンから通達がありました 教皇様がベルナール・ギーの派遣を 武装した護衛をつけて」
ウィリアム 「なぜです なぜよりにもよってベルナール・ギーが護衛兵を従えて」

ベルナール・ギー。ご存知の方も多いと思いますが、実在した人物です。
ドミニコ会士で、1307年、異端審問官に任命されています。「魔女狩り」(森島恒雄 著)によれば、南フランスのトゥールーズ地方の異端審問官として熱狂的な活動をし、異端のアルビ派を撲滅、異端審問官として、900人以上に判決を下したといいます。
教皇ヨハネ二十二世に重く用いられ、ギー自身の経験と、先輩たちの経験をまとめた「異端審問の実務」(1323年頃)は審問官用の体系的な教科書となっていたそうです。

ギーを演じた俳優ルパート・エヴェレットは公式インタビューで、この異端審問官について、こんなふうに語っています。
「彼(ギー)は多くの人を火あぶりの刑にしました。彼は自分が信じる、教会が向かうべき正しい方向について、強い情熱を持っていた人物だと思います。彼が正しいと考えることは、現代の我々にはとても想像もできないものです。なぜなら、人間の命に対する価値観が、我々とは違うからです」

そんな異端撲滅に並々ならぬ熱意を燃やす人物が、兵を従えやって来ることに、ウィリアムは警戒感を隠しません。

ロベルト卿 「修道院周辺に異端が再び広がり始めているという警告が教皇様のもとに」
ウィリアム 「兵士たちの存在は友好的な討議のさまたげになるばかりか 中立性も 損なわれます」

ギーの修道院到着後、ウィリアムとアドソ、修道士たちの運命はどうなってゆくのでしょうか・・・。

■ 「知」が集まる禁断の書庫
名探偵ウィリアムの大切な武器「眼鏡」が戻ってきました。アドソとふたたび一連の事件のカギを握る図書館に侵入します。その一番奥「アフリカの果て」にあったのは、貴重な書物の数々でした。

ウィリアム 「セビリアのイシドールスの「語源論」原本だ 素晴らしい あらゆる文化の基盤が ここにある」

セビリアのイシドールスは、西暦560年頃に生まれたスペインの聖人で、「教会博士」ともされる博学です。彼の表した「語源論」は、百科全書的書物で、実に全20巻からなります。文法から数学・幾何学・音楽・天文学・医学に法律・キリスト教の知識・言語・動物・農業・建築・鉱物・・・等々。当時のありとあらゆる知識を集めた、まさに「文化の基盤」です。
ウィリアムが発見したのは、なんと、その原本!図書館の秘密を探る、というミッションがなければ、知識欲旺盛なウィリアムのこと、さぞかしゆっくりと読んでみたかったのではないでしょうか。

そして、アドソが見つけたのは「医学典範」
著者は、イブン・シーナー(ラテン名 アヴィケンナ、アヴィセンナとも)。980年、今のウズベキスタンで生まれ、イスラム社会で活躍した医学者・哲学者です。

実は、2016年、このイブン・シーナーが登場する映画が日本でも全国公開されたので、世界史を学んだ方でなくとも、名前ぐらいは聞いた方もいるかもしれません。
「千年医師物語 ~ペルシアの彼方へ~」。
11世紀のイングランド。少年時代に母を急病で亡くした青年が、医学を志し、当時科学の先進地だったペルシア・イスファハンに向かい、当時最高峰の医師と言われたイブン・シーナーに弟子入りする、というものです。ひとりの命も失いたくないという情熱を持つ「イブン・シーナー」を、名優ベン・キングズレーが存在感たっぷりに演じました。この物語を見ても、当時はヨーロッパに比べ、イスラム社会のほうが医学も格段に進歩していたことがわかります。
また、原作小説はアメリカ人のノア・ゴードン、映画を制作したのはドイツと、イブン・シーナーは、今でも欧米で尊敬されている人物なんですね。

イブン・シーナーは官吏の子として生まれたとされています。当時、イスラム社会の有力者の家では、子供には、コーランを暗誦させ、大きくなって、イスラム法や神学に加え、ギリシャ哲学や医学、数学、天文学も学ばせたといいますが、イブン・シーナーは子供の頃から天才として知られ、哲学、数学、邦楽、天文学に加え、10代半ばで医学を学んだといいます。君主の診療も行ったことで王室の図書室への出入りを許され、18歳までにほとんどの蔵書を読破したという逸話も残ります。プラトンやアリストテレスの哲学を神学に融合させたともいわれます。

彼が書き上げた「医学典範」は、ギリシャの医学理論を整理し、臨床的な知識も加えた5巻からなる総合的な医学書です。実際の人体解剖を元にした、臓器や血管が描かれた詳細な人体図も掲載されています。
ラテン語に翻訳され、ヨーロッパ各地に広まり、400年に渡って医学校で教科書として使われていたといいますから、ヨーロッパの医学発展に、いかに大きな影響を与えた書であるかがわかります。

■ 愛を診断する?
アドソ 「イブン・シーナーは 見分け方も 教えているんだ 愛の病にかかっているかどうかの 相手の手首をつかんで 脈を 取るんだ 鼓動、心臓の そして異性の名前を 手あたり次第 次々と言っていき どの名前で脈が速くなるか分かるまで 続ける アントニウス バルトロメウス ガブリエル アドソ アドソ」
    
12世紀にまとめられたという偉人伝「四つの講話」の中で、イブン・シーナーはまさに、アドソがやった方法で、恋の診断も行ったことが記されています。気分がすぐれないという王の近親の貴公子の脈を取りながら、質問をしていき、この若者は「恋煩い」で、どこの誰と恋に落ちているかを言い当てた、という逸話が語られているといいます。(「東方の医と知 イブン・スィーナー研究」(五十嵐一 著)による)

アドソ君、イブン・シーナーの「恋の診断」方法を知って、少女の脈を取って、自分に気があるのかどうなのか・・・、どうしても試してみたくなったんですね~。

アドソ イブン・ハズムは『愛』をこう定義した 『反抗的な病だ』と 患者が回復を望まないからだ

もうひとりの「イブン」、イブン・ハズムは994年、今のスペイン・コルドバ、後ウマイヤ朝の宰相の家に生まれました。法学や神学等、400近くもの著述物を残したとされます。
そんな中で彼の手になる「鳩の首飾り」は優雅な恋愛論です。
「愛の本質」「一目ぼれ」「夢の中での愛」「うわさで始まる愛」「裏切り」「別れ」「死別」など、30章からなる愛のさまざまな形についての論考と、詩からなります。

日本のイスラム学発展に貢献した前嶋信次さんによると、中世のイスラムの世界では恋愛論が盛んに書かれたり、宮廷で論じられたりしたそうです。(「生活の世界歴史 7 イスラムの蔭に」)
また、9世紀中頃のコルドバのキリスト教徒の知識人は、キリスト教徒はアラブ人の詩歌や恋愛話をとても愛している、と書き残しています(「寛容の文化 ムスリム、ユダヤ人、キリスト教徒の中世スペイン
マリア・ロサ・メノカル 著 足立孝 訳)

アドソは、言葉が通じず、また、戦争の悲惨な経験から心を閉ざしてしまいがちな、初恋の相手である少女に向かって、異教徒たちの「恋愛論」を引用しながら、一途に自分の思いを語ります。

イブン・シーナーは哲学者だけど『愛は病気ではあり得ない』と そう考えていた
『ただ妄想に取りつかれた時に病に転じるのだ』と
僕は妄想に取りつかれたままでいたい 会うたびに君が よく見えるようになる

純粋な青年らしい、ロマンティックな告白ですね。

2001年9月11日以来、世界情勢を表すために、「文明の衝突」という言葉が語られるようになりましたが、異なる文明は「衝突」するよりも、融合したり、影響し合ったりするほうが、人類の発展にも、また、個々の心を豊かにするうえでも、良いことがあると、このドラマは教えてくれているように感じましたが、みなさんはいかがでしょう。

『薔薇の名前』
BS4K 毎週(日)午後0時00分[正午]/〈再放送〉翌週(土)午後11時10分
※放送予定は変更になる場合があります

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投稿者:スタッフ | 投稿時間:11:00 | カテゴリ:海外ドラマ

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