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『刑事フォイル』解説コラム <諜報員の運命>

時中も、あるいは冷戦時代も諜報活動、情報収集活動は決してなくなることはなかった。イギリスの情報部も常に活動を続けて今日に至っている。まず優れた諜報員をリクルートして、その人物に徹底した訓練を行う。もちろん諜報活動に向いている人物、それも上層部がこれから行おうとする情報収集にふさわしい人間を探し出すには、徹底的な調査が必要となる。守秘義務をきちんと守れるかは言うまでもないが、送り出す国や地域に十分溶け込める人間となると、それほど多くの候補者がいるわけではない。現地の言葉が十二分に使えることは必須の条件だろうが、それ以外にもさまざまな条件を勘案しなければならない。

敵国も当然ながら情報収集に力を入れて、接触してきた相手に少しでも不審な点が見つかれば、徹底的に調査をするし、場合によっては美味しい餌をまいて罠におとしめることもする。スパイの世界はだまし、だまされるの繰り返しなのである。イギリス情報部の歴史において大きな汚点とされたのは、情報部の中に二重スパイがいて重要な情報を密かにソ連に送り続けてきたという点。しかもこの二重スパイが情報部の中核にいて、ようやくその人物の本性が分かったにもかかわらず、結局逮捕することに失敗して、ソ連に亡命してしまったのである。

その意味で諜報員を使いこなす上層部の人間には、うかつに人間を信用することのない、いわば「人の悪さ」が不可欠の素質となる。しかし、こうした上層部の人間とて生身の人間である。時として、自分がリクルートした諜報員に強い愛着を抱くこともあるし、ましてその諜報員が敵に捕らえられて殺害されたと聞くと、心の動揺は大きくなる。それでは諜報員を使いこなす「スパイ・マスター」として不適格だとしても、人間としては致し方のないことだろう。それが情報部を取り仕切る人間ではなく、諜報員を自らリクルートした人間であれば、冷酷な対応は難しいのである。
だからこそ、「刑事フォイル」という傑作シリーズの幕切れとなる本作は何とも切ない。

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帝京大学外国語学部 教授 小林章夫
今回で小林教授の解説コラムは終了です。ご愛読いただきありがとうございました。

投稿者:スタッフ | 投稿時間:12:05 | カテゴリ:海外ドラマ

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