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『刑事フォイル』解説コラム <パレスチナ問題の悲劇>

ナチス・ドイツの手で強制収容所に送られ、見るも無残な死を余儀なくされた多くのユダヤ人たち。連合軍の勝利によって、こうしたユダヤ人の悲劇は終わったかと思えたものの、終戦後には新たな火種が生まれつつあった。今日まで続いている「パレスチナ問題」、すなわちパレスチナの帰属権はユダヤ人、つまりイスラエルという国家にあるのか、それともアラブ人の手にあるのかという問題である。
ユダヤ人の国家であるイスラエル建国は1948年5月、折しもイギリスのパレスチナ委任統治が終わりを告げたときである。だが、この頃のパレスチナにはすでにアラブ人が住んでいた。これによって、ユダヤ人国家イスラエルとアラブ人たちの激しい対立が起こって、以後この戦いは収まることがないままに今日に至っている。

本作においては、このパレスチナ紛争の始まりが描かれているが、それに加えてイギリス国内における反ユダヤ主義のうねりも取り込まれている。戦勝国でありながら戦後は物資の不足に苦しめられ、戦争を利用して財を蓄えた人間がいる一方で、日々の暮らしに汲々(きゅうきゅう)とする庶民たちの姿。イギリスは本当に戦争に勝利したのか、イギリス人の大変な労力によって勝利を得たのに、勝利の手ごたえを感じられない人々に向って、反ユダヤ主義を声高に訴え、移民を追い出して真のイギリスを取り戻そうとする過激なアジテーター。それはやがて、人種差別などの悲劇的な事態へ移り変わっていくのだが、考えてみれば戦時中のイギリスにはこれほど大がかりで悲劇的出来事は起きていなかった。

だが、すでに触れた1948年の第一次中東戦争は、イギリスにげたを預けられた国連が示したパレスチナ分割案が、アラブ側に不利であったために生じたものだった。もちろんこれによりユダヤ人の長年の夢であったイスラエル国家が誕生したのだが、それがまたイスラエルとアラブ国家の戦いを引き起こす結果となった。こうしてみると、パレスチナ問題の要所要所にはイギリスの姿が見え隠れしているのである。

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帝京大学外国語学部 教授 小林章夫

投稿者:スタッフ | 投稿時間:12:05 | カテゴリ:海外ドラマ

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