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『刑事フォイル』解説コラム <人種差別の悲劇>

終戦を迎えて大喜びする一方で、心痛むような出来事が起きた。その一つが人種差別である。連合軍が勝利を収めた大きな要因は、大戦当初からチャーチルが望んでいたアメリカ軍の参戦である。巨大な軍事力を有するアメリカの参戦が実現し、連合軍は大きな味方を得たのである。そのアメリカ軍の中には黒人兵も多く含まれていたのだが、終戦後、イギリスに残ったアメリカ兵の中に含まれた黒人兵を見るイギリス人の心は、必ずしも好意的とばかりは言えなかった。本作にはその一端が描かれている。

イギリス人がこのときまで人種問題と無縁で、耐性がなかったというわけではない。18世紀から黒人が召し使いとして雇われていた事実もあるし、西インド諸島の植民地には多くの黒人が働かされてきた。いや、それを言うならイギリスという国にはイングランド人以外に、スコットランド人、アイルランド人が多くいて、特にアイルランド人はしばしば差別の対象となることがあった。
しかし終戦後、自分たちを助けてくれたアメリカ兵の中にいる黒人に対しては、なぜか心を開かないイギリス人もいたのである。自分の娘がアメリカ黒人兵と親しくなり、ついには子供まで産んだことを認められない母親、あるいは戦場から帰還してみると、かつての恋人が黒人兵と愛を交わしている事実にぼう然として怒りを爆発させるイギリス人。さらにはアメリカ軍の中にあった差別的感情が、平和が取り戻されるといつしか表面化する事態。

本作には、以上のような差別の構図がくっきりと描き出されており、こうした事態は敵国ドイツが行ってきたユダヤ人差別に通じるものがあると言わなければならない。いや、それだけではない。第二次世界大戦が終結して70年以上が経過した今でも、同じような差別の構図が世界中にあることを思い出すと、慄然たる思いにとらわれる。
その意味で、本作の最後の場面で心が救われる姿が描かれるのを目にすると、いささかほっとするのである。

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帝京大学外国語学部 教授 小林章夫

投稿者:スタッフ | 投稿時間:11:00 | カテゴリ:海外ドラマ

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