NHKマンガ部

「マンガビト」つけペン職人編(第1回)
一人前になるまで10年以上! 職人の技術に迫る!

『マンガビト』のコーナーではマンガを心から愛するNHKマンガ部のN記者が、様々なマンガの現場を訪れ、そこで活躍する人々にズキュンと迫ります!

今回訪ねたのは、三重県伊賀市にあるつけペンの工場。なんと、80年以上もつけペンを製造しているそうなんです! ここで作られたペン先から数えきれないほどの名作マンガが誕生したと思うとワクワクしますね。

【つけペンとは?】
つけペンとは、古くからマンガ家がマンガの原稿を描くときに愛用されているペンの1つ。金属製のペンをペン軸に挿し、インクに浸けて使うペンで、手描きならではの味わい深い線が描けることから、現在でも多くのマンガ家に使用されています。

それでは、工場長の森井さんと製造責任者の藤原さんにお話を伺っていきましょう! 今回のテーマは、ペン先の製造工程と職人の技です。

つけペン製造は、経験がモノをいう世界!


左:つけペン製造責任者の藤原さん 右:工場長の森井さん

——つけペン製造に携わって何年くらいになりますか?

藤原:もう30年近くになります。

——藤原さんが一人前のつけペン職人になるまでどれくらいかかりましたか?

藤原:技術を一とおり身に付けるまでに5年ほどかかりました。どんなトラブルにも対応できるようになるまでには、10年以上かかりましたね。とにかく経験がモノをいう世界です。

——この工場で作られたつけペンから、多くのマンガが生まれています。どのような感想を持たれていますか?

藤原:実は私がペン先部門に異動した30年ほど前、ウチの工場ではペン先の製造をやめようかという議論がありました。つけペンの需要は減少する一方でしたが、次第にマンガ業界で使用されるようになり、現在に至っています。マンガ家さんの存在がなければ、この仕事は今やっていなかったかもしれませんね。うれしいことです。

6人で月間20万本製造! “先切”は経験が命!


先切の作業をしている藤原さん

——ひと月にどれくらいのペン先を製造しているんですか?

森井:つけペンは6人体制で1月に15万本くらい製造しています。それに、新ペン先というインク一体型のものを合わせると、だいたい20万本くらいになります。

——たった6人で20万本とは、熟練の職人集団がなせる技ですね! それでは、つけペンの製造工程を教えてください。

森井:はじめに、金属の板をペン先の形状に“打ち抜き”ます。その後、“焼入・焼戻し”という工程で硬さを調整します。研磨してバリを落としたペン先に切り込みを入れていきます。この作業を“先切”と呼んでいます。「日本字ペン」、「さじペン」(いずれもペン先の1種)は、先を微妙に曲げて滑りを良くします。最後に“メッキ”加工を施し、“検査”を経て“包装”、“出荷”という流れになります。

<ペン先の製造工程>
刻印・打ち抜き・絞り・先摺(ペン先の形状にする)

焼入・焼戻し(硬さを調整する)

研磨(突起部分を取る)

先切(ペン先に切り込みを入れる)

先曲げ(さじペン・日本字ペンはペン先を曲げる工程が加わる)

メッキ

検査

包装

出荷

——丸い穴が空いた木枠がありますが、何に使うものなんですか?

藤原:この木枠は“揺すり”というもので、戦前から使われています。研磨を終えたペン先をこの木枠に入れて、揺すると丸い穴にペン先が綺麗に収まります。そうすることでペン先を取り出しやすくなって、その後の並べる作業がスムーズに出来ます。


揺すりに収まったペン先

——先切の作業では、刃を研ぐ経験が必要だとお聞きしました。

藤原:先切に使う刃のセッティングが上手く出来ていないと、ペン先に隙間が空いたり、段違いになったり、真ん中で切れなかったりします。刃はすぐに磨耗してしまうので毎日、セッティングし直さなければなりません。うまく刃を研げるようになるには5年ほど経験を要します。新人には基本的な指導はしますが、ある程度経験を積んだ後は自分で考えてセッティングさせています。

森井:マニュアル化出来ない作業ですので、体で覚えるしかないんですよ。若い従業員が、何度調整しても上手くいかず、調整すればするほど状況が悪くなり、10日間くらい作業が止まってしまったこともあります。そんなことを何度も乗り越えて、やっと一人前になれます。

※刃のセッティングについて
“先切”で使用される刃は、その刃を研ぐ角度にわずかにズレがあっても、先端に欠陥が発生してしまう大変繊細な作業。
この技術は経験を経て体得するしかないという。


常にペン先の状態をチェックしながら先切を行う

刃のセッティングは何よりも経験が重要

まさにミクロの世界

——検査の作業も繊細な作業ですね。

藤原:1時間に1000本ほどチェックしていますが、大変な集中力を要する作業ですので、1日に4時間くらいしか出来ません。まずはメッキの光具合や刻印、穴の位置など、外観を細かくチェックし、次に先端をチェックします。肉眼での判別が難しい場合は、ルーペやマイクロスコープで拡大して検査します。


検査技術も職人の目が不可欠

——機械で大量生産されているのかと思っていましたが、一つ一つの工程に職人の経験と技が生かされていました。
つけペンで描かれる魅力的な線は、こうした熟練の技術に支えられているんですね。
次回は、つけペン文化の歴史と継承に迫ります!

取材協力:株式会社立川ピン製作所

つけペン職人編(第2回)はこちら

つけペン職人編(第3回)はこちら