やけに弁の立つ法律考証会議

やけに弁の立つ法律考証会議

「やけ弁」の法律考証を担当する弁護士たちによる解説コラム。その名も「やけに弁の立つ法律考証会議」。最終回は、番組法律考証の弁護士・梅田康宏さんによる、田口の行動と弁護士の「利益相反」についてのお話です。

「再び利益相反と田口の選択」

…弁護士 梅田康宏

2018年5月26日公開

みなさんこんばんは。「やけ弁」最終回いかがでしたか?田口の選択について、みなさんはどんな感想をもたれましたか。さて、リレーコラムも今回で最後です。 第3回に続いて、最終回でも弁護士の利益相反と田口の選択についてお話したいと思います。

第5回の最後のほうで、田口が自殺未遂をした未希の病室を訪れ、「生まれながらに、とっておきの武器を君はもっているんだ!」と励ますシーンがありました。第3回で、宇野先生の自宅を訪れて、「大切な夢なら手放しちゃダメだ!全力で戦うべきだ!」と励ますシーンと似ていますね。

ただ、宇野先生は、逡巡した結果、自ら学校を辞めることを選択しましたが、未希は、学校や加害者と戦う決意をし、訴訟委任状に署名をしました。

やけに弁の立つ法律考証会議

ここで、「あれ、田口が学校を訴えたら利益相反なんじゃないの?」「田口こんなことして大丈夫?」と思った視聴者の方は多かったのではないでしょうか。

最終話では、この訴訟委任状は、田口ではなく、小柴弁護士を選任するものだったことが分かります。病室のシーンで弁護士の名前が見えないようになっていたのはこのためだったのですね。

さて、こうして小柴弁護士が原告代理人として、裁判を提起することになるわけですが、すぐに裁判が開始するわけではなく、まず、話し合いでの解決が出来ないかどうか、双方の代理人弁護士同士で和解交渉が開始されます。

学校側の代理人を勤めるのは英子。田口は、あくまでスクールロイヤーとしてその場に立ち会います。しかし、どうも小柴弁護士の肩を持っているようにも見える田口。校長の倉守はたまらず、「こんなのアリですか?自分は原告代理人になれないから、別の人間を立てるって!」と激怒します。

田口は「心外だなあ。僕が裏で手を回しているみたいな言い方」と涼しい顔。英子も「名目上、弁護士職務基本規程違反には当たらない」と、校長を諌めます。

確かに、田口は代理人として学校を訴えているわけではありませんし、特にスクールロイヤーの職務上知った秘密を原告側に開示している訳でもなさそうですので、形式的に「利益相反」や「守秘義務違反」といった、弁護士の基本的な規則に違反している訳ではなさそうです。

そうだとしも、田口の行動は、どのように評価されるべきなのでしょうか?スクールロイヤーとしての職責を果たしたといえるのでしょうか?

もし校長の倉守が、いじめの実態調査を行わないとか、いじめの事実を隠蔽するとか、虚偽の説明をするとかいった、明らかな違法行為を行おうとしているのであれば、スクールロイヤーである田口は、可能な限りの手段を講じて倉守を説得しなくてはなりません。

ただ、今回のケースで倉守は、調査をしないとか、事実を隠蔽するとか、そこまでのことをしようとした訳ではありません。法令に則った調査はきちんと行い、いじめの事実も認定しています。あくまで、いじめ自殺未遂への対処方法としては、被害生徒ともよく話し合った上で、被害生徒が望むのであれば転校を支援するというのが良いだろうという判断を下しているに過ぎません。このような校長の判断を、「違法である」とまでいうのは難しいところでしょう。

そう考えると、加害児童の転校に固執し、訴訟手続きやマスコミまで巻き込んだ田口の一連の行動は、スクールロイヤーとして少しやり過ぎだといわれても仕方の無いものだったのかも知れません。

やけに弁の立つ法律考証会議

学校において、校長の判断と、教師や生徒の主張とが食い違うことは十分想定されます。「学校の利益」を保護すべきスクールロイヤーは、真の「学校の利益」がどこにあるかを見極め、そのために可能な最善の方法を選択するという、難しい判断を迫られているのです。

田口は全校生徒への説明会で「今回、被害者生徒が訴えを起こしたことに、僕は全面的に賛成の立場です」「学校の膿を出す。それは学校の利益につながる。僕はそう信じている」と話しています。自身の立場については一定のリスクを背負ってでも、最後まで生徒に寄り添う。それが、スクールロイヤーとしての田口が出した答えだったのでしょう。

いじめ防止対策推進法第1条は、「児童等の尊厳を保持する」ことこそが、いじめ対策を講ずる理由だとしています。やり方はどうであれ、最後までいじめ被害者に寄り添い、その尊厳を守ろうとした田口の姿勢は、正にこの法律の精神に合致したものだったのだと思います。

学校に対する複雑な思いを抱えながらも、スクールロイヤーという仕事の魅力に気付いた田口。幸いバッジも失わなかったようです。青葉台一中学校での経験を糧に、若葉中央高校のスクールロイヤーに転進した田口の更なる活躍に期待したいと思います。

やけに弁の立つ法律考証会議

梅田康宏(うめだ やすひろ)

NHK職員でありながら、弁護士資格も持つ「NHKロイヤー」。裁判や契約などの法務実務を取扱うほか、ドラマ、ニュース、ドキュメンタリー、情報バラエティーなどの法律考証も行っている。

 

やけに弁の立つ法律考証会議 一覧

「再び利益相反と田口の選択」(5月26日)
「重大ないじめ事案への学校の対応とスクールロイヤーの役割」(5月19日)
「校則と不登校~日本の教育制度の不合理さと『現場不在』の議論」(5月12日)
「利益相反とは?」(5月5日)
「教師の長時間労働と部活動について」(4月28日)
「教師が生徒にできること~体罰と指導のはざまで」(4月21日)
「スクールロイヤーについて」(4月14日)

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