やけに弁の立つ法律考証会議

やけに弁の立つ法律考証会議

「やけ弁」の法律考証を担当する弁護士たちによる解説コラム。その名も「やけに弁の立つ法律考証会議」。今回は、劇中で起きてしまったいじめによる生徒の自殺未遂事件について、関西を中心にスクールロイヤーを務める弁護士・峯本耕治さんのお話です。

「重大ないじめ事案への学校の対応とスクールロイヤーの役割」

…弁護士 峯本耕治

2018年5月19日公開

第5話では、いじめによる生徒の自殺未遂事件が取り上げられました。
田口(スクールロイヤー)と三浦先生が被害生徒のロッカーから発見したスマホSNS画面から明らかになったいじめは、「同じクラスの女子生徒4人からのいじめで、クラスの男子生徒に強制的に告白させて、それを隠し撮りしながら、スマホで細かく行動を指示して、面白がっていた」「いわゆるウソ告が計5回で、次第に指示がエスカレートして、脅迫や性的強要にまで及んでいた。」というものです。犯罪にも該当する重大ないじめ事案で、被害生徒の精神的傷つき(屈辱感や羞恥心、自尊心の低下、信頼感の喪失、いじめが続くことの不安感、絶望感など)の大きさは容易に想像できて、自殺企図につながっても不思議ではない事案です。
ドラマでは、加害生徒4名と被害生徒のこれまでの関係については詳しくは描かれていませんが、本件のような深刻ないじめが、一見すると、同じグループ内の親しい友人関係の中で発生することが珍しくありません。親しい友人関係においては、そこに自分の「居場所」を積極的に求めているため、「居場所」を失いたくない、自分がいじめられているということを認めたくないという心理が働いて、その関係から離脱できず、いじめが継続し、エスカレートしやすいのです。しかも、周りから見ると、一見仲が良さそうに映りますので、いじめに気づかず、また、多少気になることがあっても積極的な関わりができないまま、深刻化してしまうということが起こりやすいのです。
また、深刻ないじめが、遊び感覚や集団心理が働くことによって安易に行われてしまうことも珍しくありません。メディアの影響、素朴な正義感や共感能力の育ちにくさに加え、スマホやSNSの存在がその安易さに拍車をかけていることは否定できないと思います。

やけに弁の立つ法律考証会議

被害生徒の自殺企図について「私は彼女のサインを見逃したかも知れない」との、三浦先生の重たい発言がありました。自殺を図ったその日に、廃部になった囲碁将棋部の前に佇んでいた被害生徒の姿に気づきながら、突っ込んで被害生徒の話を聞くことができなかったことへの後悔を表現したものです。
確かに、田口が指摘しているように、唯一の安心できる「居場所」であった囲碁将棋部がいきなり廃部になったことは、自殺企図の最後のきっかけになってしまった可能性は否定できず、この時に声を掛けて話を聴くことができていればとの三浦先生の思いは理解できるものです。
本件のように、特に心配していない生徒が普通に登校している状況の中で、いじめのサインに気づくことは簡単ではありません。しかし、本件が、教室内で継続的に行われていた深刻ないじめ事案で、4人の加害生徒に加えクラスの相当数の男子生徒も関わっていること、被害生徒の精神的な傷つきは本当に大きかったはずで、登校状況の変化を含め、それが学校生活の色々な場面で様々な症状として表現されていた可能性が高いと思われることなどを考えると、自殺企図に至るまで、いじめのサインに全く気づくことができず、苦しんでいる生徒に積極的な声掛けや支援ができなかったというのは、教師にとって、やはり辛い事実、悔いが残る事実であると思います。ただ、これは三浦先生個人の問題ではありません。

やけに弁の立つ法律考証会議

いじめのアンケートに関して、望月先生と駒井先生との間で、「アンケートに本当のことなんて書かないと思います。」「学校が調査したというアリバイ作りだからね。」という本音の会話が行われていました。
現在、ほとんどの学校で、定期的ないじめに関するアンケート調査が実施されていますが、この会話にあるように、子どもたちはなかなか本当のことを書いてくれず、アンケート調査の形骸化が指摘されています。
しかし、その一方で、学校現場では、質問方法の工夫、匿名の回答、持ち帰った上での回答、生徒向けのいじめ防止教育とセットのアンケート調査の実施、アンケート調査直後の全生徒との個別面談の実施、複数教員による調査結果の検討、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー等の専門職による調査結果の検討など、様々な工夫により、アンケート調査の実効性を高める取り組みも始まっています。実際に、積極的な工夫をすることにより、アンケートによるいじめの発見率が高まることも明らかになっています。

また、いじめの事実調査を巡って、次のような会話が行われていました。

三浦先生
「いじめの可能性があると、教育委員会に報告してください。」

倉守校長
「わかりました、その上で、まずは学校主体で調査を」

田口
「僕が洗いざらい調べ上げますよ。」「いじめに対処するのは、スクールロイヤーの役目ですから」

この会話の意味をもう少し詳しく御説明します。
学校におけるいじめ対応については、2013年に、「いじめ防止対策推進法」とそのガイドラインにあたる「いじめの防止等のための基本的な方針(文部科学大臣決定、平成29年3月に改定されています)」が制定されました。
この法律および基本方針によって、いじめが疑われる事案への学校の対応と手続が具体的に定められました。たとえば、いじめのシグナルを発見したときは、学校・教員は、直ちにいじめ防止等対策組織(いじめ対策委員会等)において情報を共有(チーム対応を開始)し、事実の調査と認定を行い、その上で、被害生徒の保護と支援、加害生徒への指導等と共に、認定した事実と指導支援方針等について保護者への説明を行うことなどが義務づけられました。
また、いじめを原因とする重大事態(「生命・心身・財産への重大な被害が生じたと疑われる事案」や「いじめにより相当の期間(30日が目安)学校を欠席することを余儀なくされたと疑われる事案」)が発生した場合には、速やかに、学校の設置者(公立学校の場合は教育委員会)又は学校の下に組織を設けて、特別な調査を実施し、事実関係を明確にするための調査を行わなければならないと定められています(法28条1項)。
ドラマで描かれたいじめ事案は、犯罪にもあたるような深刻ないじめにより、被害生徒が自殺企図に至った事案ですので、明らかに上記の「いじめの重大事態」に該当します。従って、学校は直ちに教育委員会に報告して、学校主体による特別な調査を行うか、教育委員会主体による調査(通常は第三者委員会による調査が行われます)のいずれを行うかを決定しなければなりません。
上記の倉守校長の発言は、法的には少し正確性に欠けますが、「教育委員会に報告」を行ない、「いじめの重大事態と認定」した上で、「学校主体の調査を選択する」ということを宣言したものということになります。

いじめ防止対策推進法及び基本方針の定め自体は単純明解ですが、実際に、学校現場で発生するいじめ事案は多種多様です。そのため個別事案の対応においては、事実の調査方法やいじめ事実の認定方法、被害生徒・加害生徒に対する支援や指導方法等を巡って、双方の保護者対応の困難さも合わさって、学校や教育委員会が判断に迷う問題が多数発生しています。このような場合に、法的・紛争解決の専門家としてのスクールロイヤーの存在は、学校にとって役立つ存在になると思います。上記の田口の「僕が洗いざらい調べ上げますよ。」「いじめに対処するのは、スクールロイヤーの役目ですから」という発言は、少し力が入りすぎた表現ですが、いじめ対応におけるスクールロイヤーの役割の大切さと決意を示したものです。

やけに弁の立つ法律考証会議

ドラマでは、加害生徒への指導と被害者の支援方針を巡って、倉守校長と田口の意見が激しく対立しました。
学校のいじめ対策委員会において、倉守校長が「(被害生徒も)怪我が治り次第、安心して教育を受けられるよう、必要な措置を取りましょう。新しくやり直してもらうために。」と述べて「被害生徒の転校」の方針を示したところ、田口は、「なんでいじめられた側が転校しなきゃいけないんですか。転校するなら『いじめた側』でしょ。」「まずは加害生徒を転校させて、被害生徒が学校に戻って来られる環境を作るべきだ。」と、校長の方針に激しく反発しています。最終的には、両者が感情的に非難し合い、田口のスクールロイヤー解任問題にまで発展しています。
いじめ防止対策推進法及び基本方針は、「被害者の徹底した保護と支援」、「再発の防止」を基本的な目的としています。いじめ事案が発生した場合には、何よりもまず被害生徒の安全を確保して、被害生徒にしっかりと寄り添い(メンタル面での支援を行い)ながら、安心して教育を受けることができる環境を確保することが求められています。
しかし、本件のような性的な被害まで伴った重大ないじめ事案においては、被害生徒の精神的な傷つきが余りにも大きいため、加害生徒にどのような指導・支援を行ったとしても、被害生徒の安心感を回復することはできず、最終的に両者の関係・利益を調整することが不可能又は著しく困難であることが少なくありません。そのような事案が実際に発生しています。 そのような場合、被害生徒、加害生徒のいずれかが転校するしかないということになるわけですが、公立の小中学校には退学処分が認められていませんから、倉守校長がいうように、加害生徒らに対して転校を強制することはできません。そのため、どうすればよいのか、学校としては本当に苦しい状況に置かれることになります。特に、本件のように加害生徒の数が多い場合には特に難しい判断が求められます。
このような状況の中で、倉守校長は「被害者の転校」の方針を主張し、田口は「加害者側を転校させるべきだ」との方針を主張しているわけですが、上記のいじめ防止対策推進法の趣旨からすると、やはり、田口が述べている「被害生徒の保護を優先させて、加害生徒の転校」を基本的な方針とすることは正しい判断だと言えます。
上記のように、加害生徒らの転校を法的に強制することはできないわけですが、大切なことは、学校及び教育委員会が双方の生徒及び保護者に対し、調査によって「認定した事実」と「被害の深刻さ」と「加害側の責任」を明確に伝え、「両者の関係調整を図ることが困難であるため、被害者の支援・保護の観点から加害生徒側に転校という解決を求める」という方針をしっかりと示していくことです。 もちろん、それでも、加害生徒側が転校を拒否するというケースも出てきますが、その場合には、そのことを被害生徒側に率直に説明した上で、あらためて被害生徒の安心環境をどう確保していくかという観点から、最終的な解決策を模索していく(一緒に考えていくこと)になります。いずれにしても、学校・教育委員会が被害者の保護・支援という本来の原則に基づいて明確な方針を示して動いていくことが、最終的には、被害生徒側の納得や安心感につながり、むしろ、早期の解決につながります。
その意味で、田口の倉守校長への批判は間違っておらず、また、田口らしいストレートな表現でいいのですが、他方で、学校をサポートすべきスクールロイヤーの立場からすると、もう少し丁寧なアプローチで、校長の方針の変更を導いて欲しいところです。
校長にスクールロイヤーの解任権があるわけではありませんが、本当に解任されてしまったら、被害者の保護もできず、元も子もありません。

最終の第6話では、田口の解任問題や被害生徒の支援がどのように展開していくのでしょうか。

峯本耕治(みねもと こうじ)

1990年 弁護士登録。関西を中心にスクールロイヤー、スクールソーシャルワーカーのスーパーバイザーを務める。著書に「子どもを虐待から守る制度と介入手法~イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題」(明石書店)、「スクールソーシャルワークの可能性~学校と福祉の協働・大阪からの発信」(共編著 ミネルヴァ書房)など。

 

やけに弁の立つ法律考証会議 一覧

「再び利益相反と田口の選択」(5月26日)
「重大ないじめ事案への学校の対応とスクールロイヤーの役割」(5月19日)
「校則と不登校~日本の教育制度の不合理さと『現場不在』の議論」(5月12日)
「利益相反とは?」(5月5日)
「教師の長時間労働と部活動について」(4月28日)
「教師が生徒にできること~体罰と指導のはざまで」(4月21日)
「スクールロイヤーについて」(4月14日)

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