やけに弁の立つ法律考証会議

やけに弁の立つ法律考証会議

「やけ弁」の法律考証を担当する弁護士たちによる解説コラム。その名も「やけに弁の立つ法律考証会議」。
第3回で退職を迫られることになった宇野先生。田口はなぜ彼の代理人になれないのか。「利益相反」について、番組の法律考証を担当する弁護士・梅田康宏さんによる解説です。

「利益相反とは?」

…弁護士 梅田康宏

2018年5月5日公開

みなさんこんばんは。「やけ弁」の法律考証を担当しております弁護士の梅田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

今回の第3話では、田口が宇野先生の自宅を訪れ、「僕は実際には先生の代理人にはなれない。でも先生の先生としてアドバイスはできる」と宇野先生を励ますシーンがありました。

やけに弁の立つ法律考証会議

田口はなぜ宇野先生の代理人になれないのか。それは、「利益相反」の壁があるためです。

弁護士は、その職務の性質上、依頼人の利益を守ることを最大の使命にしています。このため、依頼人や顧問先と実質的に利害の対立する依頼を受けることが原則禁止されています。

「利益相反」を防ぐためのルールは実に多岐に渡っていて、「弁護士法」と「弁護士職務基本規程」にその詳細が定められています。

このうち、弁護士職務基本規程は、「受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供を約している者を相手方とする事件」(第28条第2号)について、「職務を行ってはならない」、つまり、裁判を起こしたりしてはならないと定めています。

スクールロイヤーである田口にとって、学校は正に「継続的な法律事務の提供を約している者」にあたるため、今回のバドミントン部の事故について学校から依頼を受けているかどうかに関わらず、宇野先生の代理人として学校を訴えることはできないのです。

では、田口が宇野先生に、「大切な夢なら手放しちゃダメだ!全力で戦うべきだ!」と伝えて背中を押すような行動をとることは、「利益相反」あるいは、依頼人である学校の利益を害することにならないのでしょうか?ここはなかなか難しいところなのですが、この時の状況からすれば、違反しないと考えることも可能なように思います。

スクールロイヤーの依頼人は、校長ではなく学校そのものです(より正確にいえば、学校を設置している自治体です。)。このため、スクールロイヤーは、校長や教員の利益ではなく、「学校」の利益を守らなくてはならない義務を負っています。ここがポイントです。

やけに弁の立つ法律考証会議

このドラマで、校長が宇野先生を解雇し、宇野先生が解雇の無効を争った場合、学校側が敗訴する可能性が高いように思われます。

正当な理由がないのに従業員を解雇したり、自主退職を強要したりすれば、解雇無効や損害賠償請求の対象になります。学校側は、裁判となるだけでも社会的な批判を浴びかねない上、訴訟を継続するには経費がかかりますし、敗訴すれば損害賠償を支払わなければならなくなります。学校の利益を護るという観点からは、訴訟はなんとしても避けたいところです。

従って、校長が、解雇や自主退職の強要といった法的に適切とは言い難い行動に出ようとしたときには、まずはそのことを校長自身に指摘して翻意を促し、それでも校長が強行しようとした場合には、教育委員会に相談するなど、適切な対策を講じてこれを未然に防ぎ、学校の利益を守ることが、スクールロイヤーには期待されているといえます。

田口が宇野先生の自宅を訪れたのは、校長が宇野先生の意思に反してでも自主退職を迫りかねないという状況の中でのことでした。田口は、宇野先生に毅然とした態度をさせることで、校長にそのような強硬措置を思いとどまらせようとしたものであり、学校の利益にかなっていたと評価することも可能なのではないでしょうか。

やけに弁の立つ法律考証会議

もちろん、宇野先生の代理人となって学校を訴えることまでしてしまえば、明らかな利益相反行為で、弁護士会からの懲戒処分もあり得るところです。田口は田口なりに判断して、その一線は越えないようにしているようです。弁護士資格を停止されてしまっては、スクールロイヤーとしての仕事もできません。田口の大胆な行動の裏には、こうした冷静な分析も垣間見られるのです。

梅田康宏(うめだ やすひろ)

NHK職員でありながら、弁護士資格も持つ「NHKロイヤー」。裁判や契約などの法務実務を取扱うほか、ドラマ、ニュース、ドキュメンタリー、情報バラエティーなどの法律考証も行っている。

 

やけに弁の立つ法律考証会議 一覧

「再び利益相反と田口の選択」(5月26日)
「重大ないじめ事案への学校の対応とスクールロイヤーの役割」(5月19日)
「校則と不登校~日本の教育制度の不合理さと『現場不在』の議論」(5月12日)
「利益相反とは?」(5月5日)
「教師の長時間労働と部活動について」(4月28日)
「教師が生徒にできること~体罰と指導のはざまで」(4月21日)
「スクールロイヤーについて」(4月14日)

ご感想掲示板

【投稿データの読み込み中】
投稿件数が多い場合、表示までに時間がかかります。データが表示されない場合は、再読み込み・キャッシュの削除をお試しください。
掲示板を読む