やけに弁の立つ法律考証会議

やけに弁の立つ法律考証会議

「やけ弁」の法律考証を担当する弁護士たちによる解説コラム。その名も「やけに弁の立つ法律考証会議」。今回は関西を中心にスクールロイヤーを務める弁護士・峯本耕治さんによる、教師の長時間労働、そして部活の問題についてのお話です。

「教師の長時間労働と部活動について」

…弁護士 峯本耕治

2018年4月28日公開

法律考証を担当しています峯本です。よろしくお願いします。私は大阪の弁護士ですが、大阪では、府の教育委員会が2013年からスクールロイヤー制度を開始していて、私も8名の弁護士仲間と共に、これまで様々な学校問題に関わってきました。今回、大阪の取り組みの紹介が、スクールロイヤーを主人公とする本ドラマ「やけ弁」の制作につながったことを大変嬉しく感じています。

やけに弁の立つ法律考証会議

第2回のドラマでは、「教師の長時間労働と部活の問題」が主たるテーマとして取り上げられました。望月先生と田口スクールロイヤーとのやりとりの中で、「授業が終わって、部活動の指導が終わってから本来の業務が始まるんです」「小テストの採点に、明日の授業の準備、書類の作成、成績の処理、それに保護者からの相談があったり」という望月先生の発言がありましたが、まさにそのとおりです。私もしばしば学校を訪問するのですが、子どもへの対応や保護者対応、書類作りに追われている先生方に声を掛けて話を聞くこと自体が簡単ではありません。ましてや、複数の先生に集まってもらうケース会議の開催については、その提案をすること自体がはばかられるような状況で、学校訪問のたびに教師の忙しさを実感しています。

教師の厳しい労働実態が指摘されるようになって既にかなりの年数が経ちますが、その間にも、保護者対応の困難化、学校行事の増加、登下校を含めた子どもの安全確保のための業務の増加など、学校への期待や依存の高まりと共に、教師はますます忙しくなってきています。そして、それに拍車をかけているのが、三浦先生が指摘している正規教員の減少と非正規教員の増加です。

ドラマでは、田口は南果歩さんが演じる法律事務所のボス弁とのやりとりの中で、「週平均60時間もの長時間労働、しかも残業代なし。自主的活動という名目の強制的な部活動地獄。・・」などと、田口らしい強烈な表現で、教師の労働環境の過酷さを指摘していました。実際に、公立学校では残業が常態化し、小学校で3割、中学校で6割の教師が「過労死ライン」である月80時間以上の時間外労働を行っているとの調査結果が報告されています(文部科学省による2016年「教員勤務実態調査」)。

「教師に残業代がない」という点について不思議に感じられた方がいらっしゃるかもしれませんが、実は法律で定められているのです。公立学校の教師については、時間外勤務や休日勤務について割増賃金の支払いを義務づけた労働基準法第37条の適用がなく、1960年代に制定された特別の法律(「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」)によって、給与月額の4%分を一律に支給する代わりに、「時間外手当及び休日勤務手当は支給しない」(第3条1項)と定められているのです。教師の仕事は多様で勤務時間を厳密に計算することが難しいため、給与の4%を調整金として一律に支給するという方法がとられたのですが、長時間の残業が常態化している現状では4%の調整金は対価として著しく不足しており、上記の特別法の定めは現在の労働実態から乖離したものとなっています。残業代がないため、逆に抑止力が働かず、それが教師の長時間労働の原因の一つになっていると言っても良いと思います。

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また、田口が指摘しているように、教師の長時間労働の大きな原因となっているのが部活動です。部活動は、学習指導要領の対象ではない教育課程外の活動ですので、本来、子どもにとっても、教師にとっても義務的なものではありませんが、日本の学校教育においてはたいへん重要なものとして位置づけられているため、多くの教師が事実上、部活顧問への就任を求められています。日々の練習・活動への指導や立会いに加え、休日の試合や大会参加など、教師の負担は本当に大きく、長時間労働の大きな原因となっています。また、専門性がない中でのスポーツ指導や事故防止の責任など、精神的な負担感にも相当なものがあります。日本の部活動自体が、教師の熱意と献身に全面的に依存する形で成り立っていると言っても良いと思います。ドラマの中で、田口は、そのような状況を「自主的活動という名目の強制的な部活動地獄」という極端な表現をしているわけです。

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しかし、他方で、部活動は、多くの子どもにとって重要な「居場所」となり、人格形成や友人関係づくりにおいても、大切な役割を果たしてきました。教師にとっても、負担には思いながらも、そのような教育的意義を感じ、学級活動とは異なる子どもたちとのつながりの中で、やり甲斐を感じることができる場所となってきたことも事実だと思います。地域コミュニティーが崩壊し、子どもの集団遊びの場や機会が失われていく中で、部活動の持つ教育的意義はむしろ高まっているかも知れません。40年以上前の話になりますが、私自身も部活一辺倒の学校生活を過ごし、本当に部活動の中で育てられてきたと感じています。

日本の部活動が置かれている、もう一つの特殊な状況は、教師の事実上の負担で成立している運動部活動が日本の青少年スポーツの中心的な場になってきたという点です。諸外国では地域クラブなど地域社会を拠点とする青少年スポーツが中心で、日本のように学校の部活動が中心となっているのは本当に特殊です。このままでは、部活動の衰退はイコール、青少年スポーツの衰退を招きかねない状況なのです。

部活動に対する評価(その意義と問題点)については、各人の経験や立場によって、本当に様々な意見があると思います。ドラマの中での田口と三浦先生、宇野先生との議論ややりとりも、まさに、それを反映したものになっています。

やけに弁の立つ法律考証会議

ただ、いずれにしても、教師のおかれている厳しい労働環境からすると、これまでのように、教師の熱意や献身に全面的に依存した形で部活動を維持していくことが困難になってきていることは確かです。

昨年の12月に文部科学大臣から発表された「学校における働き方改革に関する緊急対策」においても、「部活動の適切な運営のための体制整備や休養日についての明確な基準の設定」「学校職員として部活動の実技指導等を行う部活動指導員や外部人材の積極的な参画」等の対策案が提案されています。

私にとっては少し残念なのですが、部活動を守るためには、部活動のあり方も確実に変化させていかなければならない時が近づいているようです。田口のような激しい問題提起がそのきっかけになるのかも知れません。

峯本耕治(みねもと こうじ)

1990年 弁護士登録。関西を中心にスクールロイヤー、スクールソーシャルワーカーのスーパーバイザーを務める。著書に「子どもを虐待から守る制度と介入手法~イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題」(明石書店)、「スクールソーシャルワークの可能性~学校と福祉の協働・大阪からの発信」(共編著 ミネルヴァ書房)など。

 

やけに弁の立つ法律考証会議 一覧

「再び利益相反と田口の選択」(5月26日)
「重大ないじめ事案への学校の対応とスクールロイヤーの役割」(5月19日)
「校則と不登校~日本の教育制度の不合理さと『現場不在』の議論」(5月12日)
「利益相反とは?」(5月5日)
「教師の長時間労働と部活動について」(4月28日)
「教師が生徒にできること~体罰と指導のはざまで」(4月21日)
「スクールロイヤーについて」(4月14日)

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