やけに弁の立つ法律考証会議

やけに弁の立つ法律考証会議

「やけ弁」の法律考証を担当する弁護士たちによる解説コラム。その名も「やけに弁の立つ法律考証会議」。今回は番組のスクールロイヤー考証を担当する神内聡さんによる、教師の生徒に対する「体罰と指導」についてのコラムです。

「教師が生徒にできること~体罰と指導のはざまで」

…弁護士 神内聡

2018年4月21日公開

スクールロイヤー考証の神内です。
第1回の放送をご覧いただいた皆様はどのような感想をお持ちになったでしょうか?新人教師の望月先生が女生徒の体を強引に押さえつけ謝らせようとした行為に対し、「女生徒の望月先生に対する仕打ちを考えたらやむを得ない行動だ」「いや、それでもあれは体罰、絶対にダメ」など、きっと様々な感想を持たれたのではないかと思います。

やけに弁の立つ法律考証会議

法的なことをいえば、学校教育法第11条は、教師による体罰を禁止していますが、今回の望月先生の行為は、ここでいう体罰の域には達していないといえるでしょう。
それでも、番組をご覧の皆様のなかには、「あれは行き過ぎた指導であり、絶対にダメだ」「いや、真帆の行動を考えたらやむを得ない指導だ」など、きっと様々な感想を持たれたのではないかと思います。
今回のコラムでは、どのような行為が体罰に該当するか、といった法律の解釈の問題とは離れて、今回の女子生徒に対して、望月先生をはじめ学校や教師はどんな対応を採り得たか、といった点を考えてみたいと思います。

まず、日本の公立小中学校では学校や教師の判断で生徒を退学や停学にすることはできません。そのため、女子生徒に対しては退学はもちろんのこと、停学にすることもできません。また、出席停止という制度もありますが、これは教育委員会が判断して保護者に対して行う措置なので、学校や教師で判断できる対応手段ではありません。このように、公立小中学校において例外なく退学も停学も禁止されている日本の教育制度は、海外と比較すると非常に珍しい制度です。

とすると、残るは女子生徒に対する教育的な生徒指導としての懲戒をすることになりますが、この際に体罰は絶対に禁止されていますので、体罰以外の懲戒行為を生徒指導として選択することになります。今回の望月先生の行為はまさにこの点が問題になっています。

やけに弁の立つ法律考証会議

最近の教育論では、今回の女子生徒のような生徒に対しては「警察を呼ぶべきである」という意見も少なくありません。確かに、今回の女子生徒の行為は客観的にも望月先生に対する犯罪だと理解できるので、学校ではなく警察が対応する意見も一理あります。でも、そう考えてしまったら、女子生徒に対して教育の専門家である教師ができることは何もない、ということになりかねません。
また、そうした考え方とは真逆に、教師は最後まで手を出さずに、教育の専門家として「信頼と愛情」で生徒を諭すべきである、という意見もあるでしょう。しかし、普通の人が望月先生の立場に置かれたなら、泥水をかけられても、弁当をかけられても、挑発されても、それでも「信頼と愛情」を信じて相手を諭す自信があると言えるでしょうか。教育現場に身を置かない人たちが、自分たちができそうにないことを教師に押し付けるのであれば、教師や子どもたちからすれば無責任であると感じてしまうでしょう。

そもそも、生徒指導というのは何かしらの形で生徒の人権を制約する可能性を含む教育活動でもあります。教師でもある私が他の弁護士と決定的に違うこと、それは「生徒指導をする弁護士」だということです。「人権の専門家」である弁護士の立場としては、生徒の人権を制約する可能性を秘めた生徒指導は、教師と弁護士の思考が最も葛藤する場面でもあります。

やけに弁の立つ法律考証会議

体罰は絶対に禁止であり、許される行為ではありません。また、法律で禁止されている体罰の域に達していなくとも、有形力の行使は原則として控えるべきでしょう。しかし、日本の教育制度では教師が生徒を退学や停学にできる場合は非常に限られています。そのように考えた時、日本の教師は今回の女子生徒に対しては、どのように対応すべきでしょうか。
番組をご覧の皆様には、体罰と指導のはざまで、日本の教師が日常的に抱いている葛藤を感じ取っていただけると幸いです。

神内聡(じんない あきら)

都内私立高校に勤務する社会科教師でありながら、弁護士資格も持つ日本唯一の「学校内弁護士」。著書に「学校内弁護士―学校現場のための教育紛争対策ガイドブック」など。

 

やけに弁の立つ法律考証会議 一覧

「再び利益相反と田口の選択」(5月26日)
「重大ないじめ事案への学校の対応とスクールロイヤーの役割」(5月19日)
「校則と不登校~日本の教育制度の不合理さと『現場不在』の議論」(5月12日)
「利益相反とは?」(5月5日)
「教師の長時間労働と部活動について」(4月28日)
「教師が生徒にできること~体罰と指導のはざまで」(4月21日)
「スクールロイヤーについて」(4月14日)

ご感想掲示板

【投稿データの読み込み中】
投稿件数が多い場合、表示までに時間がかかります。データが表示されない場合は、再読み込み・キャッシュの削除をお試しください。
掲示板を読む