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第215回  
タイトル
クリエイターズ・ルームズ vol.1
2005年 03月 05日放送
イントロ 作品レビュー ベストセレクション ピックアップ クリエーターズカフェ
 
■ 映画監督・樋口真嗣 
    〜映像の新しい可能性〜
ピックアップ
 
▼ 樋口真嗣のこだわり 1 :リアリティ
樋口真嗣監督は日本の特撮映画の第一人者であり、多くのアニメーション作品にも携わってきたユニークな経歴の持ち主。樋口監督が目指した映像表現とはいかなるものか。今回は映像表現の持つ新しい可能性について探っていく。

■ リアリティの追求

映画『ガメラ』の特撮監督として一躍脚光を浴びた樋口真嗣。渋谷の街を破壊し尽くし、現実にはありえない光景をリアルに再現する、その圧倒的な映像表現で注目を集めた。

今回、長編映画に初挑戦した最新作『ローレライ』は、終戦間際の太平洋を舞台に祖国を守るため一艇の潜水艦が戦うドラマ。特撮技術が全編にわたって使用され、見たことのない深海世界が見事に映像化されている。今までにない壮大なスケールを持ち、まさにハリウッド級エンタテインメントとも言えるこの超大作には、特撮出身の樋口監督ならではのこだわりが随所に盛り込まれている。

例えば、スタジオに組み込まれた潜水艦のセットは、なんと実物大。当時実在した大型潜水艦をモデルに、部屋の配置から細かい部品に至るまで忠実に再現したものだという。狭い船内では監督の居場所もなく、セットの隙間に潜り込んで撮影は続けられた。さらにこのセットは可動式になっており、セットそのものを揺さぶることで攻撃を受けて揺れる潜水艦内部のシーンがリアルに再現されている。

■ 特撮へのこだわり

樋口監督の本物へのこだわりはセットだけに留まらない。海底を進む潜水艦のシーンでは、なんと6mを超す精巧な模型を撮影した映像をもとにCGで忠実に再現している。ミニチュアが持つスケール感をCG映像で再現することで、移動する潜水艦の様子を本物に限りなく近づけているわけだ。樋口監督は‘リアリティー’にこだわることで臨場感のある映像世界を作り出している。

:::TALK:::::

中谷: 樋口監督といえば、やはり誰でも特撮のカットがどうしても気になると思うのですが、特撮で一番こだわった部分は?

樋口:この10年ぐらいの間にいろんなことが変わってきてしまって、CGで何でも出来るような時代になっちゃったんですよね。それによって自由度が増して、今までの表現の可能性がガンとして広がったんだけども、その代わり、現実との接点がどんどん離れていく怖さがあったんです。だから説得力のある足がかりみたいなものを絶えず残しておきたい、と。ミニチュアを実際に作って撮影し、それを元にデジタルで加工していくというのを第一の前提としたのですが、そのミニチュアもかなり大きなスケールのものを作らせてもらってるんです。

中谷:ミニチュアで 一番効果的だったところはどの辺なんですか?

樋口:大きなものを作った時に、“へぇ、こう見えるんだ”ってみんな口々に言うわけですよ。3Dの空間の中で、カメラを決めて、オブジェクトを決めて、ということだけじゃどうしても出てこない距離関係みたいなものはみんなそれぞれが思っていたことなので、撮影とは別に、そういう作業を進めるうえで、すごく良かったと思います。
 
▼ 樋口真嗣のこだわり 2 :音
 
■ 音の原点

特撮シーンにおいて、その迫力や臨場感を表現する上で欠かせないものに「音」がある。今回の作品で樋口監督は何も聞こえない深海の恐怖を、「音」を駆使して見事に表現している。そういった音へのこだわりは、少年時代に出会った一本の特撮映画にあった。その映画『日本沈没』は、公開当時、空前のSFブームを巻き起こしたが、樋口少年にとってセリフすべてを暗記してしまったほど脳裏に深く焼き付いた作品だという。

樋口「自分の中で好きだった映画がなぜ好きなのかというと、気持ちのいい音楽だけじゃなくて、台詞のリズムだったり効果音が入るリズムだったり…。そういったものが自分の頭の中でだんだん固まってきて、それを未だにひきずってますね」

■ ハリウッドが可能にした新しい音の世界

音にこだわる樋口監督が今回、作品の音付け作業を行ったのはハリウッドの「スカイウォーカー・サウンド」。あのジョージ・ルーカスが指揮する世界有数の音響効果スタジオだ。これまで『スターウォーズ』や『ジュラシック・パーク』など数々の特撮大作を手がけ、現実にはありえない音の世界を膨大な効果音と最新の技術を駆使して生み出している。世界屈指のサウンド工房で作業に臨んだ樋口監督、そこにはある一つの狙いがあった。

樋口「この潜水艦を生き物に例えたかった。潜水艦は鉄のかたまりだけど、なるべくキャラクターとして音をつけていってもらえないだろうか、と。魚雷を避けるために慌てて舵を切って曲がる時の音も、骨が軋んで、船が泣いているかのような音をつけたい。そういう恐怖感を煽るような音の作り方を、生き物とか全く別の素材を組み合わせることで驚かしてくれないか。そういう話をしたんですが、出来上がった音をみるとほんとに驚くような音の組み合わせの連続で、“ここにこの音持ってくるか、このオッサンめ!”みたいな(笑)、“やられた!”っていう喜びが…。ほんとに彼らとやれて良かったと思いますね」
 
▼ 樋口真嗣の表現世界の原点 1 :東宝スタジオと特撮
 
■ 思い出の東宝スタジオ

樋口監督が初めて特撮監督を務めたのは、19歳の時。ミニチュアセットから爆破シーンまで、プロ顔負けの特撮技術がふんだんに盛り込まれており、自主制作とは思えない迫力を持った特撮作品だった。

幼い頃から日本の特撮映画が大好きだった樋口監督が、特撮を志すきっかけとなった場所が「東宝スタジオ」。70年以上に渡って日本の特撮映画を支えてきた、伝統ある撮影所だ。中学時代から樋口少年は足繁くこのスタジオに通い(忍び込み?)、次第に特撮の世界に足を踏み入れていったという。

撮影所の中には特撮に馴染み深い品で溢れているが、スタジオの片隅にある小さなプールもその一つ。水中シーンの撮影が行われる場所で、水中を覗ける窓から、深さ3mのプールの中を撮影することも出来る。

樋口「昔はこの中に火薬を落として爆発させたり、ミニチュアを沈めてそれを撮ったり、そういうことまでしてたんです」

現在新しいスタジオが建設中の場所には、以前、撮影用の巨大なプールがあった。ここが、樋口監督が生まれて初めて特撮の現場を見学した所なのだ。当時のアルバムには、その時夢中でシャッターを切った写真が残っている。

樋口「このプールに6mぐらいの戦艦大和があって、それを爆破する撮影をやってたんです。真冬なのにみんなプールの中に入って。50過ぎた年寄りでもみんなジーパンはいてたんですよ。そういうのを見て、こういう格好いい年寄りがいっぱいいるんだと。こういう年寄りになりたいもんだなぁと思って。映画を作りたいじゃなく、映画のスタッフになりたかったんです」
 
■ 中野昭慶監督との出会い

さらにこの場所で樋口監督は生涯忘れられないある人物と出会う。特技監督・中野昭慶(ナカノ・アキヨシ)さんだ。『ゴジラ』映画も手がけた日本を代表する特撮監督で、樋口少年の脳裏に刻まれた映画『日本沈没』も、この中野監督の手によるもの。憧れの監督との出会いが樋口少年に特撮を志すきっかけを作ったのだ。

中野「(樋口監督の印象は)中学生ぐらいだったのかなぁ。とにかく、子供のわりには妙に喋り方が論理的で、“ちょっとこまっしゃくれてんな”っていうイメージがあったのね。“これが僕の戦艦大和のイメージです。僕が撮るならこういうカットを撮りたいと思ってます”。そういうはっきりした物言いをする子だなと」

樋口少年が憧れた特撮監督、中野さんにとっての特撮とはどんなものなのか。監督は葛飾北斎の「富嶽三十六景・神奈川沖裏」を見せて説明してくれた。この絵には磯波という、本来沖合には生まれない波が描かれている。

中野「磯波っていうのは磯にしか出来ない。つまり海岸の砂浜近くにしか出来ないんです。磯に立って見聞きする波は、実は波の中で一番きれいなんです。葛飾北斎は、この磯に出来る波を沖合いに作ってるわけで、あえて大嘘ついてる。この大嘘がなんともこの絵に価値を持たせている。これも映像なんですよね。そういう視覚効果を追求するのも特殊効果の一つだと思うんです」

映画『ローレライ』の艦隊シーンには、画家・小松崎茂(コマツザキ・シゲル)さんの箱絵の世界が影響を与えている。ここでもデフォルメをすることで作品の魅力が倍増している。

樋口「最終的に人の心に残る絵を作る商売だとするならば、やっぱりケレンみたいなものはどこかに残しておきたいなと。つまらないリアルよりは、面白いケレンの方が好きだな。今回も、実際に最後の戦いでは、船同士はあんなに近づかないらしいんですよ。でも一枚の絵の中に船が2隻ぐらいポツポツあるだけでそれが追いかけてるというのでは、絵になるかよ、と。意識してるのは、実際の軍事ドキュメンタリーの絵よりは、プラモデルの小松崎茂さんの描かれたような箱絵の世界。自分たちにとっての北斎というものは、小松崎さんのプラモデルの箱絵で、それが最初に持ったわくわくするものだった。つまらないリアルにするんだったら、ああいうものを着地点にして持っていこうと。それは最初の段階でみんなと話し合って決めたこと。でも言われてみればこれも北斎っぽいか…。北斎…(笑)。心の中にいるのかもしれないですけどね」

*画家・小松崎 茂:戦前から、挿絵画家として活躍していたが、戦後はプラモデルの箱絵に軍艦や戦闘機を大胆な構図で描き、当時の少年たちに多大な影響を与えた。
 
▼ 樋口真嗣の表現世界の原点 2 :アニメーションと特撮
 
■ 新しい表現世界との出会い

『ローレライ』には、実写映像にはないアニメーションを見るようなシーンがいくつも登場する。これは一体どうやって生みだされたのだろうか? 実は特撮以外にもこれまで数々のアニメーションの制作に関わってきた樋口監督。社会現象まで引き起こしたアニメーション『新世紀エヴァンゲリオン』には絵コンテとして参加し、その自由な発想と大胆な構図でアニメの世界でも新風を巻き起こした。20年来の親友という、この作品の監督・庵野秀明(アンノ・ヒデアキ)さんから見た樋口真嗣の表現世界は一体どんなものなのだろうか? 

庵野「やっぱりイメージの分量ですかね。持ってるイメージ、映像としてのイメージの数がすごい。それはかなわないなぁと思いますよ。シンちゃんって、シーンで撮れない男なんですよ。カット単位の組み立てなんですよね。カットでしかものを見れないので、一枚絵なんです。それが最後まで続くと、たまたま一本の映画になってる。これが彼の特徴ですね。だから僕の好きなカット集みたいな。あれが今基本なんだろうなぁと思います」

■ 特撮の中のアニメ的表現

今回の作品で最もアニメ的な表現が使われているのは、魚雷によって潜水艦が爆破されるシーンだ。鋼鉄でできた潜水艦を布に見立ててシュミレーションをし、それをもとに現実には起こりえない爆発の様子を表現している。イメージをそのまま写しとるアニメ表現を実写作品に持ち込むことで、今までにない魅力的な作品世界が誕生した。

:::TALK:::::

中谷:アニメでしか出来ないことはありますが、でもこういう実写になっても、大局的なところで言えば監督のイメージしかない。その辺のところは、何か突き抜けた一本通ったものがありますよね。

樋口:あまり自分の中で意識したことないんですよね。おかしなもので、自分としては同じことをやってるつもりなんだけど、特撮の方に行って自分はこういうことをやりたいと言うと、“アニメ的だね”と言われ、アニメの方に行くと“実写みたいなこと言うねぇ、やっぱ違うねぇ”と。ずっとおかしいなと抱いてたんです。自分の中ではほんと何ひとつ変わってない。

中谷:アニメと特撮の違いとは?

樋口:アニメーションの場合はなるべく動かすセル画の枚数を減らして、でも減らすと動きが作れないので、その代わりにカットを割って、カットの積み重ねでリズムを作っていくことで演出していく。一方で、特撮はカットごとのコスト意識が高いわけですよ。カットが増えれば増えるほど予算が上がっていくから、なるべくカット数を減らさなきゃいけない。何カット分にもあたる量をワンカットで説明することができるか、というところに集約されてくる。そういった意味の違いはあるかもしれないけど、でも両方とも現実にないものをでっちあげるっていうことでは何ら変わらない。

中谷:考えてみると、我々の頭の中にある‘潜水艦が爆発するシーン’というのも、映画やいろんな作られた世界で見てるわけで、実際には見たことないですもんね。ですから、この監督のシーンを見てもすごく自然にリアルに受け取ったんですよ。

樋口:最初は何が壊れるかという材質感であったり、実際何十メートルもあるものだから、それが壊れたらどう見えるかというスケール感から出発するんです。ただそれをやっていくと、実際に爆発が起きたとしても大したことは起きないってことが調べれば分る。じゃ、それを忠実にやるよりも、ケレン味であったり、物語の流れの中でどうやってそこで観客に “やった!”って思わせるか、どういう位置に持っていきたいかというのも含めたところで、爆発のフォルムや壊れ方を毎回考えていくんです。バラバラになっていくとか、そういったプロセスを細かく追っていきたい。それはある意味、生き物が引き裂かれるかのようにも見えるし、ちょっと残酷なようにも見えるぐらいの方が、実はいい。そういうところから徐々に膨らませていくというか、デフォルメをしていって、より目立たせたいところを誇張して、リアルを超えたところで納得させられるんじゃないかと。

中谷:なるほど。表現として成立するということですね。
 
▼ 樋口真嗣の今後の活動
 
中谷:『ローレライ』が終わって、今一番強く感じられてることは何でしょう?

樋口:特撮やCG、アニメーション…、今まで自分がやってきたことは農業みたいなものだと思ってます。モデリングから始まって、それが徐々にアニメーションをつけていって、質感をつけて、そういう積み上げて最終的なかたちに持っていくのが農業だとしたら、芝居を撮るというのは、狩猟みたい。

中谷:その瞬間を見逃さないと。

樋口:その瞬間にしか起きないことをどうやってつかまえていくかという瞬発力ですよね。それは今まで自分が作ってきたものと180度くらい違うものだった。それはもうほんと、魅惑的なものだったんで(笑)。

中谷:今後も監督はやり続けていかれるんですか?

樋口:一本終わって、大勢の人たちと一緒に仕事をして、この続きをもっとやりたい、監督をやりたいと、初めて思いましたね。こんなふうになるとは思わなかったんですけどね。もっとあっさりと生きていくつもりだったんですけど(笑)。

中谷:ぜひがんばってください。また楽しみにしております。ありがとうございました。

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中谷日出
「特撮、アニメ、そして長編映画へと活躍の場を広げるクリエイター樋口真嗣。彼が生み出す作品世界は様々な表現技法を樋口流に組み合わせ、作り上げるものでした。垣根にとらわれず拡大を続けるその表現世界これから映像の新たな可能性を感じることができました」■

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