1月5日(金)21:00〜22:50 BS1 (再放送 1月6日(土)12:00〜13:50 BS1)
「デジタルの未来はチェコにあり。」
デジスタ新春特番の取材で、チェコはプラハに取材に行ってきました。
海外の最新デジタルアート事情 が売りのはずなのに、MITメディアラボでもフランスISEAでもなく「チェコ」。中世の錬金術的匂いがプンプン残るプラハにて、一体何を見てきたのか?いぶかしがられないよう、レポートさせていただきます。
*「Maly Milos」
そもそもチェコが気になり出したのは、9月に取材したメディアアートの祭典「アルス・エレクトロニカ2000」のコンピューターアニメーション部門にて、グランプリを受賞した作品「Maly Milos」がはじまりでした。作者のヤコブ・ピステッキ−さんはチェコ出身。一目見ただけで「チェコっぽい」と観客を唸らせるその作品は、一緒に取材をしてくださった大塚寧々さんも大のお気に入りで、心奪われた人続出。
普段見慣れているハリウッド系CGとは明らかに一線を画す表現に、無性に引っ掛かりを覚えたYディレクターは、「21世紀」「デジタル」というお題に対し、真っ先にチェコ行きを提案したのでした・・・。
*人形を見て育つ子供たち
クリスマスシーズンのプラハといえば、世界で一番本気じゃないかというくらい、完璧に理想の空間です。
街の中心、旧市街広場には大きなもみの木が一本と、移動式の子供用乗馬スペースと、木製の売店小屋がいくつも、所狭しと並んでいます。
焼き栗やホットワインのとなりで一緒に売られているのが操り人形。みやげ物とあなどるなかれ。かなり精巧に作られており、店頭で手に取る子供達も、馴れた様子で操っています。チェコの子供達にとっては、人形劇の人形はごく自然な遊び道具なのです。
そもそも、チェコの人形劇は、ハプスブルク家によってドイツ語を強制されていた時代にも唯一チェコ語の使用を許されていた、という背景もあり、笑いと皮肉としたたかさを表現する非常に成熟した文化となっています。子供達は毎週のように人形劇場に通っていますし、大学の人形劇学科といえばエリートなのです(かのヤン・シュヴァンクマイエル氏も人形劇学科出身だとか)。
「シュペイブルとフルヴィーネク」という人気キャラクターの頭文字をとった「S+H劇場」や、チェコで一番古い「人形王国劇場」などを訪ねると、両親や祖父母につれられた、就学前の子供達でいっぱいです。
印象としては、チェコの子供達にとっての人形劇は、TVアニメやゲームと同じかそれ以上に人気があって、ひとつの原体験となっている気がしました。チェコ人は子供の頃から、人形という立体と、その独特な動きを見て育つ。そんなところにいわゆる「チェコっぽさ」の生まれるゆえんを見た気がしました。
*イジートルンカ
そんな人形劇をもとに、「人形アニメーション」という表現を切り開いたのが巨匠イジー・トルンカ(1912〜1969)です。人形や粘土をすこしづつずらして一コマづつ撮影し、あたかもそれらが生きて動いているかのような世界を作り出します。1950年代〜60年代前半にかけて、「草原の歌」「善良な兵士シュヴェイク」「電子頭脳おばあさん」など、魅力的な作品を数多く残しました。
取材を通じて、何度「トルンカ」の名前を聞いたかわかりません。とにかくチェコ人、特に表現をしている人々にとって、トルンカの存在は圧倒的なもののようです。
彼の名をもつ「トルンカ・スタジオ」では、今も昔ながらの方法で人形アニメーションが制作されています。色気のない一つの建物の中に、さまざまな制作現場が同居しています。コマ撮りをする撮影スタジオはもちろん、人形の骨格を作る金工所、手・足型用のラテックス工房、小道具を一から作るための木工所、金属細工工房、衣装やかつらを一つ一つ縫製するアトリエ、セットの塗装所etc...。
元国営の敷地内は、どこか時間が止まったかのように浮世離れしつつ、こつこつと物を作る音だけが響き渡っていました。そして、ここで働く人々はみんな、人形アニメーションという小さな架空の世界を映像に焼き付けるために、一人一人が毎日自分の仕事に思いを込めているのかと思うと、人形アニメーションの映像が、さらに何層もの厚みを持って見えてくるから不思議です。
そして、このスタジオに10年前に単身で乗り込み、日本とチェコの文化をつなぐような作品を作っているのが、人形アニメーターの幸重善爾(ゆきしげ ぜんに)さん。
上田秋成の『雨月物語』の世界を人形アニメでよみがえらせた「KOTLIK」(釜)は、なんとも味わい深い映像になっています。(番組内でも紹介しています)「人形が、何らかの個性を持って、動いている、それだけでもう、いいなぁ〜と思ってしまうんです」と顔をほころばせた幸重さんが、とても印象的でした。
おそらく、トルンカがここまで大きな影響を与える存在となった理由は、「アニメーター=生気を与える・止まっているものに命を吹き込む人」といった語源そのもののことをしたからではないでしょうか?番組内で、トークゲストの八谷和彦さんもおっしゃっていたように、ただ「動かす」だけではなくて、「生きているように動かす」ためには、人形のキャラクター設定や背景をどれだけ深く想像できるかが鍵なのです。そんなトルンカの精神が、チェコのクリエーターたちには完璧に伝わっている、というところが素晴らしいと思いました。
*イジー・バルタと教え子たち
トルンカ・スタジオで働いていたこともある、アニメーション作家イジー・バルタさん。シュヴァンクマイエル氏と並んで、現代のチェコを代表する映像作家です。彼の新作『ゴーレム』では、実写とCGとアニメーションの合成に挑戦、見たことのない質感を表現しています。(番組内ではゴーレム・パイロット版を紹介) バルタさんはプラハ美術工芸大学のアニメーション学科で教鞭もとっています。といっても、アトリエを解放し、20人そこそこの学生達が作品作りをする上で、共に考え、アドバイスしていくというワークショップ形式のもの。19世紀の重厚な建築物の最上階がアトリエになっていて、天窓から光がふりそそぐ絶好の環境で、学生達は思い思いのスタイルでアニメーションをつくっています。
21人の学生中、CGを制作しているのは、22歳のオンドレイ君ただ1人でした。
子供の頃、母親に連れられて歩いて亡命した体験などをさらっと語る彼。作品のモチーフは、顔のつぶれた赤ちゃんや、夜のプラハを行くトラム(路面電車)など、一見暗いのですが、それだけで終わらない「雰囲気」というものがあります。
オンドレイ君をはじめ、若い学生達の作る作品を見ていてよく思い浮かぶ言葉が「グロテスク」でした。実際、バルタさんも、「チェコ人はグロテスクなものを表現したがる」と言っていたのですが、この「グロテスク」という言葉の持つニュアンスは、チェコ語と日本語ではあまりにも違うとコーディネーターに教わりました。
日本語で「グロテスク」といえば、気持ち悪いとか生々しいとか、比較的ネガティブな使い方をすると思うのですが、チェコ語ではそうではないのです。例えば、ものすごく暗くて、恐くて、偉大なものの前に突き出されたときに、どうしようもなくて一瞬くすっと笑ってしまう感覚、それが「グロテスク」だと。
つまり、どんなに暗くて恐ろしい状況に見えても、そこには必ずおかしさが潜んでいて、「暗闇」というのは決して悪い意味ではないというのが、彼らにとっては大前提としてあるようなのです。チェコ語で「グロテスカ」といえば喜劇のことですし、グロテスクさが、暗闇を軽くする、という共通認識が作品作りに流れているように思いました。これはチェコが大国の脅威にずっとさらされてきたという歴史的背景の中で身に付けてきたスタンスなのでしょうか。日本人にとっての侘びさびみたいなものでしょうか?
「暗さは常にある雰囲気を作り、そこから明るいものが出てくるという緊張感がある」。こういう感覚が、チェコのクリエーターには共通してあるのかもしれません。
*チェコ的CGプロダクション・「アルカイ」
「Maly Milos」のヤコブさんに教えてもらった、チェコのとっておきのCGプロダクションが「アルカイスタジオ」。
(
http://www.alkay.cz/
)。数ヶ月前に立ち上げたばかりで、今もオフィスとして、黄色い一軒家の中を改装中です。
そもそもチェコには、元国営の「フレーム」という大きなCGプロダクションが一つあるくらいで、それ以外にCG専門でやっている会社は数えるほどしかありません。チェコ全体でCGの需要量がまだ少なく、CGだけでは食べていけないそうです。
「アルカイスタジオ」も、もともと「フレーム」で働いていたアニメーター・イジーさん(52歳)と、プログラマーのペドロさん(25歳)が独立して作った会社です。親子ほども歳の離れた2人ですが、なんと社長は25歳のペドロさんのほうで、彼が他の若いスタッフと同じくイジーさんを雇っているという関係。日本の感覚だと考えられない状況ですが、アットホームな雰囲気のオフィスで、お互いの才能を尊敬しあっている様子がとてもよくわかりました。
彼らの目指すCGの方向性は、これまたチェコ的です。特に、アメリカで作られているCGキャラクターや映画の世界に非常に抵抗があるらしく、それらはとにかく表情をよく変え、常にキャラクターに動きを与えることで、観客に考える隙を与えず、乱暴だと批判しています。
センチメンタルな手法で観客の心に訴えるのではなく、比ゆや雰囲気によって、観客に想像の余地を与える作品を作りたい。例えばトルンカの人形アニメのように、人形の表情は全く変わらなくても、照明の当て方や、そのたたずまいを見せることで、観客の感情をよびさますようなことがしたい・・・erc.
「トルンカほど人形の立体感というものを理解した人はいない。いつかトルンカの人形アニメのようなCGを作りたい」と語る彼ら。確かに人形の持つ存在感をCGで表現するのは並大抵のことではないはずですが、その心意気には、リアルやノンフォトといったCGの技術的ジャンルを超えて、一つの新しいベクトルを感じました。
子供の頃から人形という3Dを見て育った彼らが、これからどんなCGを見せてくれるのか?
これは注目すべきでしょう!
*プラハ・マジック
ここまで、人形アニメーションの世界を中心にご紹介してきましたが、チェコにはもっと掘り下げるべきテーマがたくさんあります。ラテルナマジカ、キノアウトマーテン、コメニウスの絵本・・・・。まるで呪文のようですが、これらは、私たちが「バーチャルリアリティ」や「インタラクティブアート」や「メディア教育」などに注目し始めたもっとずっと前から、チェコにその原型があった、という証拠なのです。ルドルフ2世がプラハに錬金術師や芸術家を集めた時代の魔法は、テクノロジーの進歩と相まって、これからもっと面白くなるような予感がします。
21世紀のデジタルアートの行方をチェコをヒントに考える、というのはあながち間違ってないような気がしてきませんか?単にデジタルデジタルしてるのが21世紀だとはとても思えません。本当に豊かに「デジタル」と付き合う方法。私は21世紀を前にこのような取材をさせていただけたことをとても感謝しています。番組を通じて、少しでも皆さんにご関心を持っていただければ幸いです。どうもありがとうございました。
森田 菜絵(取材担当AD)