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取材ウラ日記
「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」のロケはディレクターとカメラマンの2人きり。耳寄りな情報があれば、砂漠やジャングル、極寒のツンドラ、世界中どこへでも出かけていきます。このコーナーでは、ディレクターの撮影裏話をのせていくことにしました。これを読むと、一味違った番組の楽しみ方ができるかもしれません。
この先はディレクターの個人的見解と誇大な表現が満載です。マユにツバをつけてお読みください。
アメリカ・シカゴ編 →取材の成果:第65回 夏休み昆虫シリーズ(2)「17年に一度! セミが街を襲う」 ←取材ウラ日記のバックナンバー
世界で一番長生きの昆虫
突然ですがここでクイズ!
Q:世界で一番長生きの昆虫とはいったいなんでしょうか?
17年ぶりに地上に現れた瞬間
17年ぶりに地上に現れた瞬間
17年ゼミ
17年ゼミ
・・・おわかりになった方はかなりスゴイです。実はこの答えこそが、今回番組で取材した『17年ゼミ』なんです。そもそも昆虫は地球上でもっとも繁栄しているだけあって世代交代のサイクルが非常に早いものが多いそうです。昔からその一生は『朝に生まれ、夕べに死す』なんてたとえられるほど、虫ははかない生命の代表。ですから17年なんていうのは昆虫の中では信じられないほどズバ抜けて長い寿命です。今回取材をするまで、そんな昆虫がいるなんて考えたこともありませんでした。

いやそもそも、きっかり17年に一度、何十億匹もが一斉に姿を現す昆虫なんて他にはまったく聞いたことがありません。いったいどうしてこんな不思議なセミが存在するのか?そんな疑問が取材を思い立ったきっかけでした。
セミ発生の前兆を探せ!
全米第三の大都市シカゴ
全米第三の大都市シカゴ
民家にお邪魔して撮影
民家にお邪魔して撮影
出たァア!
出たァア!
セミだらけです
セミだらけです
今年17年ゼミの大発生が予想されるアメリカ・シカゴの街を訪れたのは5月の下旬。初夏の緑あふれるとても気持ちのいい季節です。訪れた周辺は昔から映画で見るようなアメリカの典型的な住宅街。手入れの行き届いた広い芝生の庭に、可愛いらしい家が建ち並んでいます。特にシカゴ周辺は住宅地といっても樹齢100年を超すような大木がたくさん生えており、「閑静な」という表現がぴったりくる感じです。こんな場所がセミだらけになるなんて、なかなかにわかに信じがたい話でした。

今回、事前に現地の研究者からシカゴ周辺の『ブルード]V』と呼ばれる区域で17年ゼミの発生があることを聞いていたのですが、実際にどの場所でカメラを構えていれば出てくるかは行ってみないと分かりません。大発生を捉えるチャンスは一度きりだというし、なにせ17年に一度しかない機会を空振りするわけには絶対にいきません。しかも、場所は住宅街ですから他人の家の敷地内です。いざその瞬間になって勝手に入って撮影するワケにもいきません。そこで前もってシカゴの住宅街をあちこち回りながら、
「条件1:17年前にセミがたくさん出てきた確証がある」
「条件2:夜中に庭に入って撮影することに協力してもらえる」
以上の条件を満たすお宅を探すことになったのです。でも、17年も経っていると結構住人が入れ替わっていることもあり、確実に撮影できるかどうかはなかなか自信が持てませんでした。

そんな中、決め手となったのはある地区の子供たちでした。『お庭に穴を掘ると、虫さんがたくさん出てくるよ!』という情報があったのです。その子の家の庭に行ってみると、おままごとの皿の上にセミの幼虫がてんこ盛り(!)になっています。よく聞くと他にも、庭に異変(番組に出てくるセミの塔)を見つけたという情報がたくさん寄せられました。こうした皆さんの協力によってしっかりと準備ができ、結果的に大迫力の映像を撮影することに成功しました。
大地が蠢く!?大発生 
スタッフも機材もセミだらけ
スタッフも機材もセミだらけ
カメラにも羽根が!
カメラにも羽根が!
撮影中です
撮影中です
羽化した17年ゼミ
羽化した17年ゼミ
セミたちの発生は本当に突然でした。夕方、芝生の中にゴソゴソ動く幼虫を見つけたあと、ものの1時間もしないうちにそこら中の地面からセミの幼虫が這いだし、あっという間に幼虫だらけになりました。番組をご覧になって頂ければ分かると思いますが、その様子は、地面が動いているかのような錯覚に陥ってしまうほどです。

さらに夜がふけると次々に幼虫の羽化が始まります。そこら中の木は殻を脱ぎ捨てて、金色に輝く羽根を広げたセミだらけ。まるで満開の桜のような幻想的な景色です。しかしこんな美しい光景のウラでは、実は大変な事になっていました。撮影していた我々スタッフやカメラ機材も同じ状態になっていたのです。夢中で撮影していてまったく気がついていなかったのですが、カメラマンの背中や私の足からも、ニョキニョキ羽根が生えていたのです。羽化が落ち着くまでその場から動くに動けず、明け方まで立ちつくすハメになりました。

ちなみに今年の大発生は5月の22日。17年前は5月26日、34年前は5月の25日だったそうです。これは本当に驚くべき正確さです。時計もカレンダーも持たないセミたちが、これほど正確に出てくるのはまさに驚異としか言いようがありません。
世界一うるさい生物(?)の轟音 
そこら中セミだらけ
そこら中セミだらけ
なんと!顔の上まで
なんと!顔の上まで
今年、シカゴでの17年ゼミ大発生は、大きなニュースになり全米のマスコミを騒がせました。そのすさまじい鳴き声を実際に体感していただけないのが残念です。番組でご紹介しているように、1本の木に数万匹も集まったセミの鳴き声のうるささはジャンボジェットのエンジン音に匹敵するほど。脳髄に響き渡る轟(ごう)音です。

遠くからメスを呼ぶためにリズムをそろえて一斉に鳴く声はちょうど警報機のアラームのようで、耳栓をしないと難聴になりそうです。撮影の間は宿に帰ってからも一晩中耳鳴りがしていました。シカゴではこの鳴き声のため今年有名な野外クラシック・コンサートがやむを得ず屋内に変更になったりしたそうです。

さらに我々を悩ませたのがセミの「おしっこ」です。日本のセミも飛ぶときにおしっこを引っかけることがありますが、セミたちは体を軽くするために始終水分を放出しています。木の下で撮影していると当然シャワーのようにおしっこが降ってきます。カメラもスタッフもすぐにベタベタになってしまいました。
「魔法のセミ」の衝撃
セミで盛り上がるシカゴの街
セミで盛り上がるシカゴの街
はばたけ!セミ人間コンテスト?
はばたけ!セミ人間コンテスト?
セミ入りチョコレートが大人気
セミ入りチョコレートが大人気
クレーンで撮影中
クレーンで撮影中
17年ゼミは、一体なぜ「17年」に一度発生するのか?その答えを求めて取材する中で出会ったのが静岡大学の吉村仁さんでした。吉村さんの仮説によると、「17」という一見中途半端な数にはちゃんと理由があり、まさにその17という数そのものがセミたちが氷河期を生き残ることのできた鍵だというのです。

詳しくは番組でご紹介しますが、17または13という『素数』(1とその数自身でしか割り切れない数)の周期で発生する場合でないと、異なる種族が同時に発生し交尾に失敗するケースが頻発するため、結果的に素数の13年,17年のグループ以外は生き残る事が出来なかったというのがその仮説の要旨。

この話を聞いたとき、私は非常に大きな衝撃がありました。算数嫌いだった私にとって、「素数」といわれても、『あ〜、なんかそんなの習ったなあ』というくらいのものでしかなく、むしろ数学という学問自体について、えらく抽象的で誰かが考えた思考のためのツールだというような認識でした(実際はまったく違うのですが)。

でも、頭の中で考えられた単なる概念でしかないと思っていた「素数」という数が、目の前で生命として存在し、体現されているのを見ると、その不思議さに身震いするほどの感動を覚えてしまいました。

普段は気がつかないだけで、きっと私たちとすぐ隣り合わせに存在しているはずの世界の謎。その存在を、確かに感じとれたんです。もしかして数学が得意な人にとっては至極当たり前の話なのかもしれませんが、私にとっては大昔から人間が求めてやまない世界の真理が、その神秘のベールの隙間から垣間見えたような気すら覚えました。 ちなみに17年ゼミの学名には「Magicicada」(魔法のセミ)とついています。まさにその名の通り魔法のセミとしか思えません。
17年の長さ
街の中のセミ
街の中のセミ
宴の後
宴の後
ところで皆さん、17年前の夏にどんな事をしていたか、覚えていますか?若い視聴者の中には「まだ生まれてなかったよ〜!」なんて方もいらっしゃるかもしれません。

ちなみに私は部活動で毎日球拾いに精をを出していました。それからの歳月を思うと「17年」ってなんて長いんだろうと、改めて思います。特にいま活躍しているアイドルやスポーツ選手の多くが平成生まれであることを考えると、彼らより年上であったりする目の前のセミたちがとてもエライものに思えてきます。そんなセミたちが姿を現す瞬間に立ち会えたなんて、ちょっと感動です。

自分にとってこれから17年がどんな人生であるかなんて想像もつきませんが、次にセミに会えるのは2024年のこと。なんだかSFに出てくる遠い未来のような気さえしますが、実際は案外あっという間なのかも知れません。その時は是非、もう一度シカゴでセミたちに会ってみたいものです。
スウィート・ホーム・シカゴ
ネプチューン ネプチューン
お世話になったシカゴの皆さんと
子供からラブレター?を頂きました
子供からラブレター?を頂きました
シカゴ郊外にて
シカゴ郊外にて
『最初にセミたちを見たときは、私が結婚してシカゴに来た年だったわ。その次は息子がハイスクールに入った年。それで今年は、ほら!孫がいるのよ』

撮影中、あるご婦人が小さな孫を抱っこして、とても幸せそうにこんな事を言っておられました。その方ばかりでなく、街の人たちはみんな、セミが出た年の事をとてもよく覚えています。きっとセミたちの大合唱が、人生の節目の出来事や、家族と過ごした楽しかった夏の思い出を、鮮やかに記憶に焼き付けてくれるのでしょう。きっかり17年ごとに起こるセミとの巡り会いは、そんな懐かしい思い出と再会するきっかけとなってくれるのです。

今回シカゴの街で仲良くなったたくさんの子供たちにも、17年後、彼らが大人になったときに「ヘンな日本人が朝から晩までセミを撮っていたなあ」とか、「庭でその日本人とスモウをとって遊んだ」なんてことを楽しく思い出してくれればいいな、と思います。

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