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取材ウラ日記
「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」のロケはディレクターとカメラマンの2人きり。耳寄りな情報があれば、砂漠やジャングル、極寒のツンドラ、世界中どこへでも出かけていきます。このコーナーでは、ディレクターの撮影裏話をのせていくことにしました。これを読むと、一味違った番組の楽しみ方ができるかもしれません。
この先はディレクターの個人的見解と誇大な表現が満載です。マユにツバをつけてお読みください。
ブラジル ぼあ・ビスタ編 →取材の成果:第34回「大発見!道具を使うサル」
取材ウラ日記のバックナンバー
「世紀の大発見」道具を使うサル
2004年12月、アメリカの著名な科学雑誌「サイエンス」に「南米に棲むフサオマキザルで石を道具として使う行動を確認」と言う記事が載りました。「サイエンス」に生き物の行動がこれほど大きく掲載されることは珍しいと思います。それほど大発見なんです。

なぜ、フサオマキザルは道具を使うようになったのか? 番組では、その謎を解き明かしていきます。
人里離れた森での発見
ボアビスタの風景
ボアビスタの風景
岩山
岩山
地主のマウロサン
地主のマウロさん
今回、私たちが道具を使うサルを撮影した、ボア・ビスタ(ポルトガル語で良い眺めの意味)は、ブラジルの北東部に広がる乾燥した高原地帯にあるんですが、とんでもない田舎なんです。
日本から24時間かけてブラジルの空の玄関口サンパウロに着いてから、サルが道具を使う現場があるピアウイ州の州都、テレジーナまで飛行機で6時間。そのテレジーナから南に700キロ下った小さな町で一泊。そしてその町から、日本では考えられないぐらい、ひどいガタガタ道を四輪駆動車で揺られること数時間かけてようやく到着します。
こんな人里離れた場所だからこそ「世紀の大発見」は21世紀になるまで、世界に知られていなかったんです。
サルが棲む森は個人の土地で、地主はマウロ・オリベイラさん39歳。地主というと、日本の感覚では大金持ちのイメージですが、ブラジルではそんなことはありません。
正直言って、極端に乾燥した土地が多く、価格的な意味での価値はほとんど無いと言っていいでしょう。マウロさんも、ほとんど自給自足で質素な生活をしています。
マウロさんは、地元の村で学校の先生をしているんです。と言っても給料があるわけではありません。「自分もこの場所で生まれ育ち、先生に色々教えてもらい、読み書き計算が出来るようになった。だから、今度は私が子供達に教えてあげる番なんだ」と語るマウロさんは、私より年下とは思えないぐらいしっかりとした人物でした。

実はマウロさん、子供の頃からサルが石を使ってヤシの実を割っているのを見ていたそうです。
でも、研究者達が来るまでは、それが特に珍しいことだとは思っていなかったとのこと。世界中を驚かせた「世紀の大発見」も真相はこんなもんなんですねえ。
岩山で暮らす珍しいフサオマキザル
岩を渡るフサオマキザル
岩を渡るフサオマキザル
岩山に棲むサル
岩山に棲むサル
ボアビスタでフサオマキザルが生活の場としているのは、岩山です。
南米に広く分布しているフサオマキザルは、普通、アマゾンなど森の中に棲み、果物を食べて暮らしています。岩山を住処にしているのは珍しいんです。

サル達の家は、岩山にあいている無数の穴の中。ここの岩は、長年の風化でかなりもろくなっているんです。
サルは岩山に沿ってロッククライミングの様に身軽に移動していくのですが、撮影の為に追いかけている私たちが岩に体重をかけると簡単に崩れてしまいます。撮影中は、移動するときは足下に気を配りながら、止まっている時はいつか崩れてくるんじゃないかと上ばかり見ていました。
結構怖い、フサオマキザル
牙をむくサル
牙をむくサル
石を落とすサル
石を落とすサル
フサオマキザルは、体重3キロほどの小さなサルですが、怒らせると結構怖いんです。
まず第1に、撮影の為にしつこく追いかけるとやはりイヤなのか、威嚇の為に牙をむきます。噛みついてくることはないのですが、犬歯が鋭く怖い顔をしています。

第2に(こちらの方が現実に怖いのですが)頭が良いフサオマキザルは、私たちが近づきすぎると、群れのボスが崖の上にある石をこちらに向けて落とすんです。
一度、崖の近くにいた私の1m横を10キロ以上はある大きな石が転がり落ちていきました。カメラマンから「そんなところにいたら死ぬよ」と言われ、あわてて逃げた次第です。あと少し転がってくるコースがずれていたら・・・。相当痛かったことは間違いありません。
岩をも削るヤシの実割り
サルが削った岩
サルが削った岩
道具に使う丸い石
道具に使う丸い石
そんなサルが石を使ってヤシの実を割る場所は、森の中にあるテニスコートぐらいの広場です。広場には、まるでテーブルの様に平らで背の低い岩がいくつかあり、天板に当たる部分には、お皿のようにくぼみができています。台の横には、1キロ程度の丸い石が落ちています。サルは、このテーブルの様な岩の上にヤシの実を置いて、丸い石をたたきつけて実を割るんです。

そのサルが割って食べるというヤシの実は、地面近くになる大きさ10センチ程の小さなものなんですが、これが本当に堅いんです。ヤシの実同士をぶつけるとカーン、カーンと高い音がします。 おそらく人間がカナヅチで叩いてもそう簡単には割れないと思います。そんな堅いヤシの実を割り続けてきたので、台になる岩が削れてお皿のようにくぼんでいるんです。
さらにマウロさんによると、35年前に50センチぐらいの高さがあった岩が今はもう無くなってしまったとのこと。大昔からサルがヤシ割りを続けてきたことが解ります。
ついに見た!サルのヤシ割り
ヤシの実を割るサル
ヤシの実を割るサル
ヤシを割るボスザル
ヤシを割るボスザル
写真では見ていたフサオマキザルのヤシの実割り。でも、実際に目の前でヤシの実を割っている姿は、想像していた以上に興味深いものでした。

自分の体重の3分の1もある大きな石をしっかりとつかみ、2本足ですくっと立ち上がって石を振り上げ堅いヤシの実にぶつけて割る姿は、とてもサルには見えません。小さな人間がそこにいる様な錯覚を起こします。やはり、写真と実物は大違い。いくら見ていても見飽きることはありませんでした。皆さんも是非番組で確かめて下さいね!

しばらく見ていると、ヤシの実を割るのが上手いサルと下手なサルがいる事が解りました。

上手いのは、なんと言ってもボスザル。持ってきた実を確実に割ります。
下手なサルは、何度やってもヤシの実が割れないんです。同じように石を振り下ろしているのに、なぜ割れるサルと割れないサルがいるのか? それを文章で説明することはかなり難しいので、詳しくは番組をごらんください。見れば見るほど、サルの知恵に感心すること請け合いです。
技は見て盗むもの
個性豊かな割り方「お巻き流」
個性豊かな割り方「お巻き流」
個性豊かな割り方「ジャンプ」
個性豊かな割り方「ジャンプ」
ボスを見る子ザル
ボスを見る子ザル
 いつまで見ていても飽きないヤシの実割り。そのうちに、実の割り方にもサルによっていろいろな個性があることに気がつきました。

木に尾を巻き付けて体を安定させて石を振り上げるサル。台の上に実を置くとき必ず2回、コンコンとたたくサル。助走をつけ、ジャンプして石を実にたたきつけるサル。それぞれ自分のスタイルを持っているんです。

フサオマキザル達は、ヤシの実割りの技を誰にも教わることなく、上手いサルが割っている姿を見て覚えるんだそうです。当然、サルですから言葉が出来るわけでもなく、手取り足取りのレッスンがあるわけでもありません。その為、これぞ決定番という決まった割り方があるわけではなくそれぞれの個性が出るんです。ヤシの実割りの技は、教わるものではなく見て盗むもの。職人や芸人の世界と同じですね。

そして、ちゃんと割れるようになるまでには、なんと4年もかかるんだそうです。

番組のプロデューサーいわく、誰からも教わらず自己流でゴルフをしている人もボールがまっすぐ飛ばなくてなかなか上手くならないとか。サルも人間も同じなんですね。
石はどこから持ってきたの?
石を運ぶサル
石を運ぶサル
サルがヤシの実を割っている場所の周りの石は、長年サルがヤシを割る台にしている岩が削れて無くなってしまう事からも解るように、もろく崩れやすいものばかり。サルがヤシの実割りに使う道具にしている丸くて硬い石などどこにもありません。
では、どこから持ってきたのでしょうか?石が丸いと言うことは、川に流されて転がることで角が取れるなどの水の作用があったと言うことです。現在、乾燥地帯であるこの森に川などありません。
実は、近くの山の上にサルが使っているのと同じ丸い石が落ちている場所があるそうです。おそらく川底だった場所が長い年月の内に地殻変動で山になったと考えられているんです。
来年には、研究者によって、現在道具として使っている石を一旦取り上げて、本当にサル達が山の上から石を持ってくるか、持ってくるのにどれぐらいの時間がかかるのかなどの実験が行われると言うことです。
道具を奪われるサルにとっては、はなはだ迷惑な話ですが、エッチラ、オッチラ山の上から石を運んでくる姿はちょっと見てみたい気がします。
「南米の類人猿」フサオマキザル
ボアビスタの風景
アマゾンで卵を取るサル
ストロー挿す介護ザル
ストロー挿す介護ザル
顔拭く介護ザル
顔拭く介護ザル
石を使ってヤシの実を割るフサオマキザル。 でも頭が良いのはこの森に棲むフサオマキザルだけではないんです。
実は、フサオマキザルは「南米の類人猿」と呼ばれるぐらい頭が良い事で知られているんです。どれぐらい頭が良いかって?
アマゾンの森では、竹の筒の中に棲むカエルを探し当て捕ったり、鳥の巣から盗んだ卵をきれいに割って食べたりするんです。頭が良いだけではなく、手先も器用なんです。

そのフサオマキザルを人間に役立てる活動が行われています。
アメリカで体の不自由な人の生活を助ける「介助ザル」として訓練されているんです。冷蔵庫を開けて中のものを取ったり、容器のフタを開けてストローを入れたり、人間の表情や視線などで何をするべきかを判断出来るようになるんだそうです。
通常3〜4年の訓練を受けた後、体が不自由な人の家庭に派遣されます。これまで100匹以上のフサオマキザルが派遣されているそうです。
世界遺産・カピバラ山脈国立公園
カピバラ山脈国立公園
カピバラ山脈国立公園
カピバラ山脈国立公園の壁画
カピバラ山脈国立公園の壁画
カピバラの壁画
カピバラの壁画
サル達が暮らすブラジル北東部の乾燥した高原地帯には、今から2万年以上前に人類が生活していた南米最古の遺跡があります。その中で最も遺跡が集中している場所は「カピバラ山脈国立公園」として世界遺産にも指定されています。

岩山にポッカリとあいた洞窟には、人々の生活の様子や生き物の壁画が描かれています。オマキザルやシカ、ジャガーなどに混じって、水辺にしか棲まないカピバラも描かれています。この辺りには、数万年前まで水辺があった証拠です。

洞窟の周りからは、当時の人たちが使っていた石器も出土しています。つまり、2万年前の人類はこの場所で岩穴に住み、石器を道具に使って生活していたわけです。これって、石を道具に使ってヤシの実を割るフサオマキザルと同じですよねえ。人類がかつて歩んできたのと同じような道を今フサオマキザルが歩んでいるのではと想像するのは、私だけではないはずです。

数万年後、いや数百万年後かもしれませんが、この場所にフサオマキザルが文明を築いているかもしれないと考えると、ちょっと面白い気がします。

こんな不思議なサルの生態がこれまで発見されていなかったとは。まだまだ地球には、人間の知らない自然の営みがあるんだなあと実感しました。
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