マニアック水族館探訪記 あくありうむぎゃらりー

特別展で公開されたマッコウクジラとダイオウイカの実物大模型。日本近海を含む西部北太平洋には10万頭前後のマッコウクジラが生息しているとされ、年間3650万トンの餌を必要とする。その多くがダイオウイカをはじめ、深海にすむイカということになる。裏返せば、それだけ多くのイカが生息しているのだ。マッコウクジラの体表には、ダイオウイカとの格闘による傷跡が複数残っている。国立科学博物館では、常設展示にダイオウイカの液浸標本がある。

vol. 9 国立科学博物館海の魔王-ダイオウイカ

2004年の撮影成功に引き続き、2006年には窪寺博士がついに生きたダイオウイカを捕獲し、海面で暴れ回る様子を動画に撮影した。生きているときのダイオウイカの姿は、打ち上げられたものとはまったく異なり、とても美しい色彩を放っていたという。 ダイオウイカと窪寺博士(身長約176cm)。能登半島で定置網に入り、水揚げされたもの。人と比較するとその大きさがよく分かる。

2004年、日本発のニュースが世界中を駆け巡った。日本の国立科学博物館の窪寺恒己博士がついにやり遂げた!ジュール・ヴェルヌの小説にも登場した魔物がついにとらえられた!海の魔王、姿を現す!
反響はむしろ海外の方が大きかった。全長およそ18mともいわれる伝説の巨大なイカ、生きているダイオウイカの撮影に、ついに成功したのだ。

伝説とはいっても、ダイオウイカが存在していること自体は、以前から知られていた。世界中の海で、底引き網にかかったり、死にそうな個体が海岸に打ち上げられたりして、これまでにも600体近くが目撃報告されている。しかし、生きている姿が映像でとらえられ、科学の目で確かめられたのはこれが初めてだった。水深約500~1000mの中深層に生息していると考えられるダイオウイカの生きている姿をとらえるのはそう簡単なことではない。イカは感覚器が優れ、また警戒心も強い。巨大イカを追い求めている世界中の研究者から、驚きと賞賛の声が寄せられた。

このとき撮影されたダイオウイカは、体と腕を合わせておよそ4.7m、2本の長い触腕を含む全長は8mを超えると推定された。これまでの記録では、北大西洋の全長18mが最大と考えられる。撮影されるまで、深海の巨大なイカは比較的ゆったりと行動しているのではないかと考えられていた。映像には、餌のスルメイカを捕ろうと触腕で抱え込み、巻き付いている様子や、その後逃げるために必死で泳ぐダイオウイカの様子がとらえられた。その姿は、考えられていたよりも、はるかに俊敏で激しいものだった。

研究のきっかけは、マッコウクジラの胃内容物の調査だった。マッコウクジラの胃内容物の97~98%は深海性のイカで占められている。40種類ほども見つかるそうしたイカの1つに、ダイオウイカも含まれていた。マッコウクジラが潜行する中深層に巨大なイカ類が、莫大な生物量を持って潜んでいるのだ。マッコウクジラの胃を調べれば、人間にはなかなか手の届かない深海の生きものと出会うことができる。マッコウクジラの胃は、つまりは深海の窓だ。この窓を通して、海の生きもののつながりを知りたい。それが研究テーマだ。しかし、残念なことにこの窓には致命的な点がある。胃内容物の多くは消化されてしまい、真実の別の側面である生きている姿を見ることができない。

だから、また映像を撮るために海へと出る。生きものの本当の姿を見定めるために。

(取材・執筆:坂元 志歩 取材協力:窪寺 恒己/国立科学博物館 標本資料センター コレクションディレクター)

国立科学博物館 〒110-8718 東京都台東区上野公園 7-20
03-5777-8600

これからのいちおし! 2013年7月6日から10月6日まで、特別展「深海」を国立科学博物館で行います。生きものから地形、探査まで深海の魅力をあますところなく紹介。実物の標本を系統分類学的に並べた深海動物図鑑のコーナーは圧巻。NHK、JAMSTECの全面協力のもと、不思議な深海生物たちの姿も映像で紹介します! 漆黒の深海に繰り広げられる生きものたちの姿を是非見に来てね。

この記事は、独立行政法人 海洋研究開発機構 (JAMSTEC)とNHKとの共同企画として、JAMSTECの広報誌であるBlue Earth 2010 108号の記事を一部改編して紹介しています。