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ダイオウイカ ふたたびダイオウイカ、大量出現の謎を追う! 前編

次々と発見されたダイオウイカ

2014年に入ってからというもの、日本海に面した各地でダイオウイカが次々と揚がっている。
「異常と言うしかない」
ダイオウイカ研究の第一人者であり、深海でダイオウイカと遭遇した初めての人類でもある国立科学博物館 標本資料センターコレクション ディレクターの窪寺恒己博士は、そう語る。2014年に入ってから発見されたり捕獲されたりしたダイオウイカの数は全部で18個体。一冬でこれほどの数というのは、20年以上ダイオウイカを追いかけてきた窪寺博士でさえ、驚かざるを得ない数字となった。

「不気味だ。4度目、いや、もう5度目…」。あるニュースでは、新潟県佐渡市の漁師がインタビューにそう応えていた。佐渡では一挙に5個体ものダイオウイカが2014年1月から3月にかけて発見された。

40年間でたった20匹

これまではいったいどのくらい発見されていたのか。沖山宗雄博士(1993)の論文によれば、日本海側だけの記録だが、1941〜1978年の37年間でたった20個体しか、ダイオウイカはあがっていない。約40年間で20個体。それがたった一冬、1〜5月のたった5か月間で、ほぼ40年分に匹敵するダイオウイカが日本海側に現れていたというのだ。

「例年でも2年に1個体、3年で2個体くらいかな。ダイオウイカが日本海で見つかるのは」。2014年冬の出来事は本当に希有なことだと窪寺博士は言う。
見つかったダイオウイカは、漂着が4個体、定置網が7個体、トロール漁が2個体、刺し網が2個体、生け捕りが3個体だった。期間は2014年1月4日から5月6日まで。この期間についても、窪寺博士はめったにないことなのだと言う。
ダイオウイカが通常、日本海の沿岸で見つかるのは、12月から1月にかけての真冬の間だ。それなのに、2014年は5月という春にまで、押し寄せている。

海の向こうでも仰天していた!

海外からも、早速問い合わせが来た。窪寺博士と同様、もう長いことダイオウイカを追っている、ダイオウイカ研究の世界的な権威であるスミソニアン国立自然史博物館のクライド・ローパー博士だ。
「ずいぶんたくさん見つかっているみたいじゃないか。日本はさぞかし大騒ぎだろう?」。ローパー博士は大興奮の様子で聞いてきた。
窪寺博士はこう答えたという。
「いや、それほどでもない。昨年のNHKのダイオウイカ番組以降、日本人にとってダイオウイカは身近な存在になってきたせいかもしれない」。ローパー博士は、日本の反応にはお構いなしに、さらにこう提案してきた。
「18個体は異常じゃないか。どういうことだ?今度の頭足類国際学会でセッションを設けるべきだよ。“どうしてダイオウイカはそれほどたくさん見つかったのか。いったい何が起きているのか?”」
もうかれこれ30年以上もダイオウイカを追いかけているローパー博士にとっても、居ても立ってもいられないくらい、この数字は強く心に訴えかけるものがあるのだ。

── いったい何が起きているのか? ──

何かが起きているのは……、ダイオウイカの方なのか?それとも日本海なのか?何かダイオウイカが日本海に集まる理由があるのだろうか?

オスは成熟個体が多い

ダイオウイカは沖縄の方から対馬海峡を通って日本海にやって来ると考えられている。対馬海峡は水深が最大でもたかだか135m。太平洋でダイオウイカが生息するのは、だいたい水深600~1000mであることが、窪寺博士らの研究からもわかっている。どうもダイオウイカは、沖縄付近から北上して、九州の南西で黒潮と分かれる対馬暖流に乗ってやって来るという。沖縄では樽流し漁が行われていて、そこにしばしばダイオウイカがかかることからも、南の方からダイオウイカはやって来ると考えられる。
では、何か目的があって日本海に入ってくるのだろうか。

「繁殖とか、そういうことはあり得ないと思いますよ。まず第一に、発見されているダイオウイカはサイズがバラバラなんだ。繁殖に関連しているならば、ある程度サイズがそろっているはずでしょう」と窪寺博士は言う。それでは、何か見つかっているダイオウイカに共通点はないのだろうか。
「うーん、ほとんどないね。強いて言えば、精莢をもったオスが多いかな」
精莢(せいきょう)とは、精子を入れたカプセルのことだ。イカは交接するときに、オスが精莢をメスに渡す。18個体のうち、窪寺博士の手元へ標本として送られてきたのは3個体。そのうち2個体がオスで、どちらも精莢をもった成熟したオスだった。しかし、これだけでは繁殖しているかどうかはわからない。第一に、もし繁殖していれば、交接後の個体や成熟したメスの個体が見つかってもおかしくない。
わからないことだらけだ。

すべてが同じ理由で説明できる?

「じつはね、これほど発見数は多くなかったけれど、2006〜2007年の冬にも6個体のダイオウイカが見つかっていたことがあるんだよ」。窪寺博士はうれしそうにいう。
それだけではない。
「リュウグウノツカイやサケガシラなど、深海魚も結構見つかっているでしょう。すべてが同じように考えられそうなんだ」
確かに、ダイオウイカだけではなく、今年の冬は珍しい深海魚の発見も相次いだ。
いったい日本海に何が起きているというのか?

その謎に迫ろうという展示が、2014年7月1日より東京・上野の国立科学博物館で開催される。次々と見つかる深海生物漂着の謎。窪寺博士は着々と展示の準備を進めているという。真相は明らかになるのだろうか?

国立科学博物館標本資料センター
コレクションディレクター
窪寺恒己(くぼでらつねみ)

1951年東京生まれ。北海道大学大学院修了。水産学博士。2004年、小笠原沖でダイオウイカの姿を世界で初めて撮影に成功。2012年にはNHKなどと共同でダイオウイカの生態映像の撮影に成功し、世界中の注目を集める。現在、国立科学博物館 標本資料センター コレクションディレクター、分子生物多様性研究資料センター長。

文中の図は、科博NEWS展示「“大王烏賊深海図”特別展示 ダイオウイカふたたび」より引用しました

文:坂元志歩 (サイエンスライター)
監修:国立科学博物館 窪寺恒己 (標本資料センター コレクションディレクター)