戦跡 薄れる記憶殺された動物たち(2016/9/6 放送)

太平洋戦争中、動物園から逃げ出すおそれがあるとして殺された動物たちは、全国の16の動物園などで、クマやトラ、ワニなど少なくとも156頭に上ったことが、研究者の調査で初めてわかりました。

“ライオンが処分される様子を見た”

三上右近さんは、10年近く、全国の動物園や関係者を訪ね歩いて、資料を探し出し、これまで明らかになっていなかった戦時中の猛獣処分の実態を調べてきました。
「飼育員が言葉で残したとか書いて残したっていうのが、なかなか見つからないんですよね、そう考えるとやはりもう話したくないというのが1番の思いじゃないんですかね」(三上さん)

戦時下の動物園で何が起きていたのか。取材を進めると、猛獣処分の瞬間を目撃した人が高松市にいることがわかりました。香川一水さんです。祖父が園長を務める動物園にある家で育った香川さんは、12歳のときに見たライオンの処分の様子を初めて語りました。

昭和5年に祖父が四国で最初に作った動物園で、シンボルのライオンは一番の人気者でした。しかし、状況が一変したのは、本土への空襲が激しさを増した昭和20年のことでした。上野動物園から始まった動物の処分が高松にも及んできたのです。
3月のある晴れた日。1頭のライオンが殺されました。 「死亡した動物の匂いが一番鼻に残りましたね。ダーンダンという鉄砲の音はなかなか忘れられるもんじゃありませんね」(香川さん)
当時、周囲に多くを語らなかったという祖父が戦後つづった手記には、「戦争の為、飼育の猛獣は全部処分した」と、たった1行記されていただけでした。 「自分の判断でこういう情けないことをやらなければいけない。切なかっただろうなと思います」(香川さん)

動物園の悲劇を語り継ぐ

動物園で起きた悲劇を、忘れてはならないと、次の世代に伝える取り組みが始まっています。三上さんの調査で明らかになった事実をもとに、絵本が作られたのです。題材となったのは、京都の動物園で殺されたクマの親子、二コーとリコー。銃に不慣れな飼育員に撃たれたために翌日まで死ねず、首を絞められ殺された最期が印象的な物語です。
「もっとこういうものもあったよということを知らせていきたいなとは思っているので、ちゃんとしたものを残したいと思って」(三上さん)

この夏、全国2000以上の小学校に配られたこの絵本には、大阪や高松などで犠牲になった動物たちのリストも載せられました。そして、図書館で子どもたちへの読み聞かせが初めて行われました。歴史に埋もれていた動物園の悲劇。身近な命を奪い去る戦争の現実を、次の世代に訴えかけています。