働く女性のリアル

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マミートラック
〜働くママ1300人の声から〜

産休・育休、短時間勤務といった制度の整備が進み、子育てと仕事を両立する女性も増えてきました。その一方で、こうした女性たちの中には、意思に反して、昇進に縁のないキャリアコースに固定されたり、仕事の内容が限定されたりするケースもみられます。
一般的な昇進の階段を上がることができず、陸上のトラックを走るように同じ場所をぐるぐると回っている状況から『マミートラック』と呼ばれ、新たな課題として注目されています。
働くママたちは、何を悩み、今後のキャリアをどう描いているのか。
NHKのアンケートに寄せられた1300人の声から、働き方を考えます。

調査概要
調査地域 全国(42都道府県、海外在住者から回答)
調査対象 産休・育休から復職した経験を持つ女性
調査方法 セルフアンケート(オープン型)ウェブ調査
実施時期 2016(平成28)年11月(14日間)
回収数 1322(有効回答数1301)
調査主体 NHK
調査協力

・はたらくママの声を届けようプロジェクト

・育休後コンサルタント.com

・特定非営利活動法人サービスグラント

回答者の年代

回答者の住んでいる地域

子どもの人数

一番下の子どもの年齢

働く部署や仕事内容の変化

回答数:1299

■ 働く部署や仕事の内容が「出産前と同じ」という人は半数でした。

■ 25.1%、4人に1人が「職場も仕事の内容も違う」と答えています。

仕事への意欲の変化

回答数:1297

■ 「上がった」「下がった」「変わらない」いずれも回答はほぼ同数でした。

■ 意欲が上がったという人からは“子育てを経験したことで視野が広がり、仕事の幅も広がった”という声が、意欲が下がったという人からは“残業ができないことで評価や報酬が下がった”といった声などが寄せられています。

寄せられた声
  • バリバリ働きたいので、過剰に配慮して業務を減らされるとモチベーションが下がります。(30代後半・東京都)

  • やりがいのある仕事を追求してしまうと、家庭や子育てがうまくいかくなってしまうので仕事を妥協する、という考え方にならざるを得ない。(30代前半・宮城県)

  • 子どもを預けて働く、そこに対して協力してくれる家族、そして職場の皆さんに恩返しができるようにもう思いっきり頑張りたい、という気持ちがあります。(30代前半・東京都)

  • 復職後は、やはり今までと同じように仕事ができず、やりがいもなかったので、自分からどんどん新しい仕事に飛び込んで行きました。その結果、仕事への意欲は以前より上がっています。(30代後半・埼玉県)

  • 残業などができないため、報酬は以前の2/3程度。育児の両立で大変なわりに満足感を得られず、辞めたい気持ちが募る毎日です。(30代後半・東京都)

  • ただ残業ができない。それだけで物凄く下手に出て頭を下げてやっていかないといけない。子供のことで申し訳ありませんが、と頭を下げるたびになにか少しずつ自分がすり減っていっている気がする。(30代後半・東京)

  • 業務効率が良くなったり、会社や上司によくしてもらっている分、恩返しがしたい、期待してもらっている分、頑張りたいと意欲は上がったと感じています。(30代後半・神奈川県)

意欲が「上がった」または「下がった」と回答した人のみ、その理由
意欲が「上がった」または「下がった」と回答した人のみ、その理由

給与

回答数:855
意欲が「上がった」または「下がった」と回答した人のみ、その理由

職場での立場

回答数:854
意欲が「上がった」または「下がった」と回答した人のみ、その理由

やりがいのある仕事

回答数:856
意欲が「上がった」または「下がった」と回答した人のみ、その理由

キャリアアップの道筋

回答数:856

マミートラックの経験

回答数:1296

■ 「経験した」と回答した人は27.8%と4人に1人でした。

■ 自由記述などからは“自分の経験がマミートラックかどうかわからない”という人も多くいる状況がうかがえました。

寄せられた声
  • 前部署とは専門性の繋がりのないスタッフ部署へ復職と同時に異動になった。時短解除しない限りは昇格やマネージャー職は諦めろ、とはっきり言われた。(40代前半・東京都)

  • 休日を利用して参加する研修にも関わらず、育児短時間中の人には受ける権利なしと希望した研修に参加させてもらえなかった。(40代後半・東京都)

  • 時短で働いているが、勤務時間が短い=能力やスキルが欠落していると思われているようで、仕事を振って貰えなかったりする。(30代後半・東京都)

  • サポート業務となり評価もされずに8年経ちます。結局頑張ってもフルの方と同じ土俵には上がれず評価されません。マミートラック塩漬けと言うのはこう言う事を言うのだな、と痛感しています。(30代後半・東京都)

  • 急に休む、早く帰るなどの理由で責任ある仕事を任せて頂くことは無くなりました。妊娠中も含め10年ほど同じ部署での勤務となるため、復帰後は仕事への意欲はありません。(30代後半・愛知県)

「マミートラック」を防ぐために
最も必要なことは?

回答数:1273

■ 子育てしながらキャリアアップできる仕組みが必要だという回答が、48.5%とほぼ半数を占め、キャリアをどう積み重ねるのか悩んでいる様子がうかがえました。

■ 長時間労働を前提とした働き方を変えなければならないという声も数多く寄せられました。

寄せられた声
  • 男性社会の仕組みのまま、それに適応できる女性だけが「輝ける」ようだと、皆が疲弊するだけ。(30代後半・千葉県)

  • 長時間労働、滅私奉公は根強く残っている。これを前提とした働き方が日本全体で変わらないと、女性の働き方は何も変わらないと思う。(30代後半・埼玉県)

  • 今焦らなくても3年後に再びキャリアに復帰できるように、一度レールを外れても何度でもレールに戻れるような仕組みが定着することが重要だと考えます。(40代前半・栃木県)

  • 共働きが主流となり、復職者に対する体制を整えることが急務な企業も多いと思う。復職者も育児を言い訳にしない覚悟が必要。まだまだ、女性が出産後も働き続けることに関する様々なことが過渡期であると感じる。(30代前半・東京都)

  • 成果に対する効果で評価されない限り、時間に制約ある社員はいつまでたっても評価されない。(30代後半・東京都)

  • スーパーウーマンでなくても働き続けられること。その中で、有能でやる気のある人は昇進できれば良いと思います。(40代前半・東京都)

マミートラック経験者

マミートラックから抜け出せない

マミートラックを走っているという女性が取材に応じてくれました。都内のIT企業で働く鈴木友子さん(仮名・43)です。鈴木さんはシステムエンジニアとして入社し、企業向けのシステム開発に携わってきました。

残業は当たり前という忙しい毎日でしたが、開発を手がけた情報管理のシステムが大手企業にも採用されたり、海外での研修派遣に抜てきされたりと、仕事にやりがいを感じ、昇進も順調だったといいます。鈴木さんは「他の人からも『期待されているんだね』と言われていたし、自分もそれに応えたいと思っていました。きちんと結果を出し、評価されているという自負もあり、課長や部長を目指して頑張ろうと考えていました」と当時を振り返っていました。

鈴木さんは37歳で結婚、4年前、39歳で長女を出産しました。会社には、3歳までの育児休業や短時間勤務の仕組みなど、充実した子育て支援の制度がありました。制度を利用すれば、やりがいがあるこの仕事を続けられる。そう思っていた鈴木さんは、長女を0歳で保育園に預け、同じ職場に復職しました。しかし、短時間勤務で働くようになると、出産前の実績とはほど遠い、資料やデータの整理といった仕事しか任されなくなってしまったのです。

徐々に鈴木さんは「自分が会社にとって必要ない存在のように思えてきてしまった」といいます。さらに上司からは、「フルタイムで働けなければ評価も下がり、昇進も難しい」と告げられたといいます。「フルタイムで働くこと」、それが会社でキャリアを伸ばしていく前提という言い方に感じました。鈴木さんの夫は育児に協力的で休日などはしっかり面倒をみてくれます。しかし平日は残業もあるため、ふだんは鈴木さんが1人で家事と育児をこなしていて、フルタイムに戻すのは厳しいのが現実です。

鈴木さんは、会社の研修で同期と撮影した写真を見ながら、「今のままでは、簡単な仕事ばかりで経験も積めず、将来、子どもが大きくなって、フルタイムに戻した時にどれだけ仕事ができるのか不安です。同期の多くは課長になっていますが、もう追いつくことはないと思います」と切なそうに話していました。そして「短時間勤務の制度などがあることは、子育て中の社員にとってありがたいと思います。しかし今の状況では仕事のやりがいも働き続けるモチベーションもなくなってきてしまいました」と複雑な胸のうちを聞かせてくれました。

報道局 飯田暁子 記者

企業の取り組み

短時間勤務でも管理職に

子育て中で勤務時間に制限がある女性でも、やりがいを持って働いてもらうおうと、マミートラックの対策に取り組み始めた企業もあります。そのひとつ、大手菓子メーカー、カルビーを取材しました。 この会社では6年前から働き方改革を進め、短時間勤務の女性にも公平にチャンスを与え、きちんと成果を出せば、キャリアアップにつながる仕組みを導入しました。

改革のもと、新たに管理職になった北村恵美子さん(40・写真右)は、10歳と4歳の子どもを育てながら、短時間勤務をしています。部下は4人、主力商品のポテトチップスを担当し、週に1度のペースで新商品の開発を手がけていますが、夕方は保育園の迎えに間に合うよう、午後5時半には退社しています。限られた時間で成果を出すため、職場ではデスクワークをできるだけ少なくし、部下のアイデアを引き出すミーティングやほかの部署との打ち合わせに重点を置いています。

時には、夕方になって、急きょ、対応しなければならない案件が発生することもありますが、北村さんは部下などに必要な指示を伝え、職場を出ることにしています。そして、自宅に戻ってから、家事や子どもの寝かしつけを終えた後、パソコンやスマートフォンを使って部下からの報告のメールや、やり残した仕事がないかを確認。

必要があれば、自宅から指示を送ったり、翌日に向けた書類の準備をしたりするといいます。北村さんは、「私の場合、限られた時間の中で仕事をしているので、パソコンやスマートフォンというツールを使って、家での時間も有効に活用できるのはありがたいと思っています」と話していました。働く時間に制約はあっても、会社は、北村さんのチームが次々と新商品を開発し、売り上げに貢献しているという成果を評価し、北村さんの管理職としての役割に期待を寄せているのです。



子育て中の女性を積極活用 ~それが企業の生き残る道~

こうした改革を推し進めたのは、外資系企業から招かれた松本晃会長です。7年前、就任した当初の社内には、子育てしながら、短時間で働く女性が第一線で活躍するという雰囲気はなく、管理職も男性ばかり。会議はスーツ姿の男性で「黒一色」の光景だったといいます。残業も当たり前で、遅い時間までオフィスの明かりがともっていました。

松本会長は、「かつては働いた時間に対して成果が比例していたが、1990年代を境に急速にグローバル化が進み、労働時間ではなく、成果で評価される時代に変わった。会社が求めているのは成果なのだから、長時間労働は全く何の意味もない」として、働き方改革に着手したのです。6年がたった今、社内の女性管理職の数は4倍近くに増え、全体の22%に達しています。子育て中の女性社員が手がけた新商品などが次々とヒットしたこともあり、会社の売り上げも70%アップしています。

「働く時間ではなく、仕事の成果で評価する」。こうした働き方改革は、女性だけでなく、会社全体の意識も変えつつあり、社員の残業時間も確実に減っているといいます。

松本会長は、「私はフェミニストでもなんでもない。働き方改革は女性活用という側面だけでなく、すべては成果を求めてやっている。それは会社が生き残るため、成長するために必要なもので、人を大事にしない限り、会社は絶対にうまくいくはずがない」と話していました。

マミートラックの問題を根本的に解決するためには、子育て中の女性の働き方だけでなく、父親である男性の働き方、ひいては会社全体の“長時間労働が当たり前”の働き方を見直す必要があります。人口が減少し、働き手の確保がますます難しくなるなか、働く時間に関わらず、すべての社員が高いモチベーションを持って最大限の成果を発揮できるようにする。そのための工夫と努力が、今、企業にも求められているのだと思います。

報道局 戸田有紀 記者

専門家の声

女性の働き方に詳しい法政大学キャリアデザイン学部の武石恵美子教授に話を聞きました。

マミートラックはなぜ起きる?

「子どもがいる女性=戦力外」というステレオタイプの見方が背景にあります。 子どもの病気で呼び出されるなど、急な休みがいつ発生するかわからないため、非常に不安定な労働力と見られてしまい、責任のない仕事や外部との調整の必要がない仕事など、出産前と業務の内容が変わってしまうことがあるのです。

出産前には高い能力を発揮して働いていたのに、お母さんになったとたん、いわば戦力外通告されてしまう。能力や資質は高いはずなのに、働き方が変わっただけで仕事の内容まで変わってしまうというのは、人材をムダづかいしていることになります。女性が活躍するうえで重要なのは、「やりがい」と「働きやすさ」です。出産後も仕事を続けられる支援策は充実してきたけれども、やりがいにつながる仕事が与えられているかというと、必ずしもそうではない。

本当は両輪として同じように回って前に進まなければいけないのですが、今は片方の車輪だけが回って、もう片方は止まってしまい、ぎくしゃくしている状況なのだと思います。

マミートラックを防ぐには

日本では、"長時間労働があたり前"といった働き方になっているので、育児の時期に短時間勤務で働くと、キャリアを積むことが難しくなります。これまでは、育児や介護といった特別な事情がある人を制度で守ろうという方向だけに進んできましたが、本当は育児や介護をしながらでも、制度を使わずに普通に働ける環境に変えていくべきなのです。そうでないと、スタンダードな働き方でない人がどんどんこぼれ落ちてしまいます。

子育ての期間、一時的にペースダウンして、フルスピードでは走れなくても、またいつかスピードのある働き方に戻すなど、長期的なキャリアの中で支援制度を使いながらどう働いていくのか、ひとりひとりのニーズをしっかり把握することが大事です。

ダイバーシティというのは、多様な人材がいろいろなアイデアを出していくことが組織の力になるというポジティブな考え方です。企業が成長していくため、企業のトップが意識をもって変えていかないといけない、そういう時期にきていると思います。