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仕事を続けたい 働く世代のがん患者

いわゆる働き盛りの世代は、がんと診断されても仕事を続けたいという人が多いといいます。「自分のいきがい」や「家族のため」、理由は様々です。 一方で、退職を迫られたり解雇されたりしてしまう現状も、患者への調査で浮かび上がっています。 厚生労働省の研究班が4年前に行った調査では、がんと診断された後、働いていた人の4人に1人が退職したというデータがあり、 さらに患者の声として「退職を勧告され生きている意味が分からなくなった」、「欠勤が多いからと有給休暇をとらせてもらえない」、 「体調不良を職務怠慢と見なされた」など職場で患者が追い詰められる実態も報告されています。



がんと診断されても働き続け、さらに同じ境遇の仲間を支えたいと活動する患者を取材しました。

働き盛りが突然・・・

東京都内に住む、西口洋平さん(37歳)は、15年間、会社の営業マンとして働き、妻と8歳の娘を支えてきました。ところがおととし、下痢が続いたため病院で検査したところ、胆管がんと診断されました。

進行の度合いは最も重いステージ4。がんは肝臓などにも広がり、すでに手術はできない状態でした。西口さんは「最初は、まさか自分がとか、嘘だろうとか、なんか悪いことしたかなとか、頭が真っ白になった状態でした」と当時のやるせない気持ちを振り返ります。

つらい抗がん剤治療を続ける日々の励ましとなったのは、家族の存在です。特に、当時小学校入学間近だった娘が「病気のことも治療のことも忘れられる」大きな支えになりました。完治は難しいとされながらも、抗がん剤治療が効果をみせ、西口さんは退院しました。西口さんは家族のためにも働きたいと、仕事に戻ろうと考えました。

人事担当者と
仕事継続の道を探す

西口さんは会社側と、どうすれば働くことが出来るか話し合うことにしました。担当した平原恒作さんは、1000人の従業員がいるこの会社の人事を担当していますが、がん患者に対応するのは初めてのケースでした。
平原さんは「仲間として一緒に何かやっていけないかという思いがあったので、何ができて何ができないのか、包み隠さず率直に話し合うことから始めるしかないと思いました」と話します。

西口さんが示した働ける条件は、①週1回は抗がん剤の投与で働くことが出来ない。②副作用などのため、休む日も確保したい。③いつでも相談できる、担当上司を決めてほしい。というものでした。
平原さんは何とか西口さんが働けるように調整しました。その結果、勤務は週4日で、外勤のある営業職から、社内でスタッフの管理などを担当する部署に配置換えをして職場復帰を受け入れました。西口さんは、給与は減りましたが、時間に余裕を持って働いています。

SNSは悩みと情報共有の場

西口さんは、自分と同じように子どもを持つ働く世代が、悩みや役立つ情報を共有できる場を作ろうと、SNSを立ち上げました。
「自分は会社の理解を得て仕事を続けられ、感謝していますが、同じ境遇でも仕事を継続できず苦しむ患者がいるという話を聞き、支援が必要だと思いました」と話しています。
立ち上げから半年、子どもを持つがん患者400人以上が登録していて、悩みやアドバイスを書き込み、支え合う動きも見られます。西口さんは、このSNSにさらに多くの人に参加してもらい、働く世代の患者の声を発信していきたいと考えています。


西口さんが立ち上げたサイト「キャンサーペアレンツ」は、子どもを持つがん患者であれば会員になることが出来ます。
サイトはこちら(NHKのサイトを離れます)

求められる企業の意識改革

医療の進歩で、がんになっても治療を受けながら働くことができる時代です。治療と仕事の両立は、企業側が意識を変えることがひとつのカギとなりそうです。 厚生労働省はことし、治療と仕事の両立についてのガイドラインを示しました。 その中には、①管理職などを対象に、病気や治療について研修を行うことや②患者のための相談窓口を明確にすること、 ③短時間の治療が繰り返される場合の対応として時間単位の休暇制度の導入などが盛り込まれています。 がんになっても仕事を続けたいという患者を支援する仕組みを、どれだけ広げられるか。がんと生きる時代の、課題になっています。