2020年12月7日更新
新型コロナウイルスの脅威が続く日本。地域で集まることが難しくなり、うつや虐待、孤独死などが増えるのではないかと心配されています。こうした中で、どのようにしてつながりを作り、地域を元気にしていけばいいのでしょうか。「集まれないけどつながる」をテーマに、コロナ禍でも工夫をしながら続けられている全国の地域づくりの取り組みを見ていきましょう。
司会:新型コロナの感染拡大の中、どうすれば人と人とがつながり、地域活動を続けていけるのでしょうか。
りゅうちぇる:リモートでつながれるようにはなってきたと思うんですけど、そういう中で孤独になってる方は多いんじゃないかなって心配はありますね。
鎌田實さん:人はつながらないと生きていけないですよね。物理的にちょっと離れていた方がいい。だけど、心と心がつながることが今ほど大事な時はないんじゃないかなと思います。
司会:川崎市で住民が作るNPO法人「すずの会」では、地域の認知症の高齢者などを、住民同士のつながりで支える取り組みをしてきました。今、感染拡大の中でどんな対応を迫られているのか、ご覧ください。
気になる人を見守る住民ボランティア(神奈川県川崎市)
新型コロナの感染が広がる前の、川崎市宮前区野川地区です。ここに、空き家を活用した交流拠点、「すずの家」があります。利用者は、近所の介護が必要な高齢者や認知症の人など。週2回、朝9時から午後2時まで、30人ほどが、おしゃべりやトランプ、体操などで楽しく過ごしていました。
利用者の世話をし、食事をつくるのは、地域の住民ボランティア。入浴の介助もしてきました。
ここを運営する「すずの会」の代表、鈴木恵子さんです。
鈴木さん「みなさんここに来ると自分の役割もあるし、仲間意識もあるし、この雰囲気もまたいいのかもしれない」
鈴木さんは十数年前から住民に聞き取りをして、地域の気になる人を記したマップを作ってきました。黄色は介護の必要な人。緑はひとり暮らし、または高齢者だけの世帯。そうした人たちが孤立しないように、集まれる場所として自宅を開放できる人を、地域の中に見つけました。
そして、「気になる人を真ん中に」を合い言葉に、鈴木さんは近所の人達が集まるお茶会を開いてきました。名付けて、ダイヤモンドクラブ。ダイヤのように、地域のあちこちに輝く人の輪をつくり、困った時に助け合えるようにしたいと考えたのです。
鈴木さん「ひとりぼっちではないよという安心感を持てるような地域づくりができたらいいなと思っています。」
しかし今年3月から、新型コロナの感染が拡大。4月には緊急事態宣言が出されます。すずの家は閉鎖。会の活動はすべて休止となりました。
鈴木さんは毎日、電話で利用者の安否確認を続けました。すると、多くのお年寄りが家に閉じこもったままで、一日中誰とも会話をしない人もいました。中には、ひとりで入浴しようとして転倒し、大ケガをした人もいました。
鈴木さん「転倒して骨折してしまったという方もいたし、ご飯どうしてる?と聞いたら、ろくなもの食べてないというお年寄りがたくさんいらしたので」。
そこで鈴木さんはボランティアに声をかけ、週1回、食事をつくって配ることにしました。 その頃、鈴木さんが気づいたことがありました。すずの家の隣にある小さな畑の直売所。ここに、家にとじこもっていた人達が集まり、自然に会話が生まれていたのです。鈴木さんは、みんなが人と人のつながりを求めていると実感します。
鈴木さん「行き場所がなくなっちゃって、散歩だけで息継ぎをしている人たちの唯一の集まれる場所なんです。」
男性「こういうところは貴重ですよ。コロナになって、よけい貴重ですよ。元気もらってるんですよ。」
5月末、緊急事態宣言が解除されると、鈴木さんはまず、医師を招いて感染対策の学習会を開き、活動再開の準備を始めました。そして、近所の人たちが個人の家に集まるダイヤモンドクラブを再開。人数を減らし、換気や消毒、手洗いなど、感染対策も徹底しました。ずっと家に閉じこもっていた一人暮らしのお年寄りたちとも、久々に再会しました。
参加者「誰とも話しないで、一日中声出さないから、声も出なくなっちゃうんですよね。」
参加者「気になっててさ」
参加者「ありがとう。涙が出て。うれしい」
久しぶりに、お互いの無事を確かめあいました。そして、すずの家も再開。活動の場を失っていた住民ボランティアにも、笑顔が戻りました。
ボランティア「再開してよかった。ここに来て元気でいます。家にいたらこんなに元気ではたぶんいられないと思いますけど。」
鈴木恵子さん「ここだけが頼りという方はいますね。ここはできるだけがんばって継続させたい。工夫しだいで運営はできるのかなと思います。」
りゅうちぇる:なんかホントに、人と人のつながりが健康にいちばん大きい影響をあたえてくれるなって思えましたし、しっかりパワーを交換しあってる。それが地域の活性化につながっている感じがして、すごく素敵な雰囲気だなって思いました。
司会:全国の精神保健福祉センターに寄せられた新型コロナ関連の心の健康相談の件数が一か月に5000件近くになったり、今年8月には自殺者が前年同月より15パーセント増えたりしています。
鎌田さん:コロナとの闘いが長期戦になってきたので、コロナ鬱とかコロナ疲れが顕著になってきた。僕は内科外来をやってるんですけど、やはり自粛をしっかりやった高齢者ほど、フレイル(=虚弱・心身が衰えた状態)、立ち上がる時にふらふらするようになったり、認知機能が少し低下してきてるんじゃないかと感じます。とにかく閉じこもってればいいというだけでは、とんでもないことが一年後に起きてくるんじゃないかと思います。
司会:閉じこもってばかりいると、逆に危ないと。
鎌田さん:そうなんです。感染症の命のリスクと、孤立していることの命のリスクを、両方天秤にかけないといけない時期に来ている。アメリカのある大学の論文は、運動することが健康長寿につながるというデータを出しながら、最も健康長寿に影響を与えるのは何かというと、社会参加だと言っているんですね。
そういう意味で鈴木さんたちのグループがやっていることはとても素晴らしいことです。そして、お年寄りが「すずの家」に集まってくるのも大事なんだけど、ボランティアの方が「活動をして自分が元気になった」と言っていましたよね。それも社会参加で、お互いさまでそれぞれの健康寿命に影響をあたえるんじゃないかと思います。