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地域づくりナビ

ていねいな合意形成は地域づくりの基盤

ていねいな合意形成は地域づくりの基盤

2020年6月12日更新

住民が主体となって進めるまちづくりは、どの地域にとっても重要ですが、そこで大きな壁となるのが、合意形成の難しさです。 どんなにすばらしいまちづくりの計画ができあがったとしても、合意形成の過程で多くの不満が残ると、決して成果は上がりません。みんなが「わがまち」と思えるようなまちづくりのためには、計画づくりの段階から、できるだけ多様な人びとが関わり、遠慮なく意見を言えるようなしくみを考えることが不可欠です。
マンションの建て替えから、景観の保護、そして災害後の大規模な復興計画まで。大小さまざまなまちづくり計画の中から、住民の合意形成がうまくいった事例をとりあげて、何が成功の秘訣なのかを考えてみることにしましょう。

時間をかけて、楽しんで

住民が減り、老朽化も進んでいた団地。修繕に向けた合意形成も容易ではありませんでした。そこで自治会長が最初に取り組んだのは、楽しみの場づくり。互いに顔が見える関係を20年かけて築くという、一見、遠回りなやり方をとることで、移り住む人も増え、修繕しながら住み続けるという結論を、全員一致で導き出すことができました。

老朽マンション修理・建て替えの合意づくり(埼玉県狭山市)

老朽マンションの建て替えを促すため、国は法律を改正し多数決のハードルを引き下げました。しかし時間をかけて合意に至った例もあります。老朽化し住民も減っていた埼玉県狭山市の団地では、共に楽しめる場作りから始め、修繕しながらここに住み続けていくことを決めました。住民同士で助け合う関係に魅力を感じ、引っ越してくる住民も増えています。

クローズアップ現代+
どうするマンショントラブル “新ルール”で住民激震!?
(2016年8月31日放送)

地域インフラ整備も住民参加で

限られた財源や条件の中で、公共施設などの地域インフラをどのように整備していくのか。住民から様々な意見が出る問題だけに、ていねいな合意形成が重要です。 次の事例は、「迷惑施設」とみなされやすい火葬場の建設と、誰もが自分の地区を優先してほしい水道管の補修。意思決定が難しい問題でも、多様な住民が話し合いに参加することで、公平な解決策をみつけることが可能になりました。

住民参加で火葬場を地域の大切な場に(広島県三次市)

火葬場が不足し、お葬式を挙げるまでに1週間以上も待たされる例が増えています。しかし迷惑施設とみなされる火葬場には周辺住民の抵抗感も強く、自治体の建設計画は多くが難航しています。広島県三次市では、周辺一帯を公園として整備することを条件に、火葬場の建設地を公募。さらに市民が参加して計画を検討しました。四季折々の樹木に囲まれた斎場は、親しい人を見送るための大切な場として、地域に溶け込んでいます。

クローズアップ現代
お葬式が出せない~どうする“葬送の場”
(2012年12月5日放送)

住民の話し合いで地域の水道管を守る(岩手県矢巾町)

高度経済成長期に作られた全国の水道管が一斉に耐用年数を迎えています。しかし人口減少や財源不足、合意形成の困難に悩む多くの自治体では、老朽化に更新のスピードが追い付いていないのが実態です。そうした中、岩手県矢巾町では、住民の意見を更新計画に反映させています。病院など重要施設の有無や高齢者・子ども人口など、優先順位の高さを5つの基準で決定。さらに水道料金のあり方についても、住民参加で議論をしています。

クローズアップ現代
押し寄せる老朽化 水道クライシス
(2014年10月1日放送)

地域にあったやりかたで、合意形成と景観保護

住民参加による合意形成のやりかたは、地域の状況に応じたさまざまなやり方が可能です。住民たちが伝統の家並みを守り続けてきた京都などの地域と、多様な価値観をもつ人々が隣り合って暮らす東京のような都市では、「景観保護」という同じ目標を達成するために、違うやりかたで住民による合意形成を図っています。

住民参加で景観を保護(石川県加賀市)

各地で議論になっている景観保護のための建築物規制。成功の鍵は住民との合意形成です。赤瓦と杉板の家並みが特徴的な石川県加賀市大聖寺地区では、町内会が協力して基準を決定。新築家屋の審査も住民が行います。価値観が多様で意見をまとめにくい大都市の東京・世田谷区では、住民自身が「守りたい風景」を提案し、自主的に景観保護に取り組んでいます。京都市でも住民の提案を取り入れながら、地域に合った基準を作ろうとしています。

クローズアップ現代
京都発 “景観づくり”が始まった
(2007年11月26日放送)

災害復興時こそ合意形成を

大きな災害時には、一刻も早い復旧・復興が求められ、スピードが強調されることが多くあります。しかし、復興していくにあたって誰も取り残されず、将来の災害に強い地域を作るためには、復興計画に多様な住民の意見を反映することは不可欠です。

地震で液状化が起きたこの地区では、異なる事情を抱えた住民たちが、再発防止工事の計画について合意を図ろうと、専門的な計画内容をきめ細かく情報共有するなど、さまざまな努力を行いました。

住民合意を形成し防災対策を実現(千葉県千葉市)

東日本大震災で深刻な液状化被害があった千葉市美浜区の磯辺4丁目。住民組織は行政に再発防止対策工事を求めましたが、最大のハードルは住民合意でした。被害の有無や経済力の差によってバラバラな意見をまとめるために、住民組織が最も力を入れたのは、専門的内容に関する正確な情報をきめ細かく共有しながら対話を進めること。20回におよぶ住民説明会や実証実験を通して、8割を超える同意を得て、再発防止工事を実現しました。

北海道クローズアップ
液状化から地域を守れ~札幌 里塚地区からの報告~
(2018年11月16日放送)

過去の例が示すように、大規模災害からの復興は、やりかたによっては、高齢者などの孤立をいっそう深めることになりかねません。2011年の東日本大震災で津波被害を受けた宮城県岩沼市玉浦地区では、専門家のサポートを受けながら、住民たちが主体となって集団移転計画を話し合い、ていねいな合意形成がいかに重要かを示しました。

住民が議論を重ねて集団移転・まちづくり(宮城県岩沼市玉浦地区)

東日本大震災の津波で大きな被害を受けた宮城県岩沼市玉浦地区では、集団移転先のまちづくりを住民主体で進め、専門家のサポートを受けながら徹底的に議論を重ねてきました。行政が描く青写真を住民に差し出すのではなく、住民が白紙から議論を始めるという独自手法。震災直後、市の指示で集落ごとに避難所へ入り、仮設住宅にも集落単位で移ったことで意見集約がスムーズに。コミュニティの団結力が住民合意の大きな力となりました。

NHKスペシャル
東日本大震災「私たちの町が生まれた~集団移転・3年半の記録~」
(2014年9月27日放送)

2016年の熊本地震で被害を受けた益子町東無田集落の人々も、自ら率先して集落の未来を思い描き、行政と交渉しながらその実現に取り組んでいます。

ふるさとの復興プランを住民の手で【1/3】集落の未来像を描く(熊本県益城町)

2016年4月の熊本地震で、住宅の7割が全半壊となった益城町東無田集落。このままでは集落の未来が危ういと考える住民たちが、都市計画の専門家を招き、集落の未来について話し合いました。高齢者をみんなで見守りながら、町の中心に活気を生み出したい…たどり着いたのは、集落の真ん中に、公園や集会所とあわせて災害公営住宅を建てるというプランでした。みんなの希望が形をとりはじめていきます。

明日へ つなげよう
ふるさとで一緒に暮らしたい ~熊本・益城町 東無田集落~
(2018年3月18日放送)

ふるさとの復興プランを住民の手で【2/3】町との交渉(熊本県益城町)

集落を活性化し、ずっと暮らし続けられるようにしたいと、集落の真ん中に災害公営住宅を建てようと考えた益城町東無田集落の住民たち。しかし町役場は、すでに集落周辺の農地に用地を確保しようと動きだしていました。住民たちは集落の全員の意向を尋ねる調査を実施し、署名を集めて、町と交渉を続けます。その後、町全体での災害公営住宅の必要戸数が増え、住民たちと町との話し合いは大きく動き始めました。

明日へ つなげよう
ふるさとで一緒に暮らしたい ~熊本・益城町 東無田集落~
(2018年3月18日放送)

ふるさとの復興プランを住民の手で【3/3】町との交渉(熊本県益城町)

災害公営住宅の建設場所について町役場と議論を続ける一方、住民たちは、地域を元気にしようと動き始めていました。震災後に始めたツアーにやってくる人たちとつながり、集落の魅力を発信して、子育て世代が移住したいと思うような魅力ある集落にしようとしています。集落内の空き地を活用して災害公営住宅を作り、コミュニティを守ろうという住民たちの提案は、専門家からも高く評価されています。

明日へ つなげよう
ふるさとで一緒に暮らしたい ~熊本・益城町 東無田集落~
(2018年3月18日放送)

おわりに

利害も考え方も異なる多様な人たちが長い時間をかけてすすめる話し合いは、例えば、すぐに多数決を取ることに比べれば、時間やエネルギーのかかる「面倒くさい」やりかたです。それでも、ていねいに行われた合意形成は、長い目で見れば、問答無用の素早い決定よりも、はるかに大きな住民の納得や復興後の地域づくりへの積極的な参加などの成果を生み出すことがわかってきました。それは何よりも、ひとりひとりが大切にされる、安心して暮らせる地域の基盤となるといえるでしょう。