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インタビュー・地域づくりへの提言

日本をリードする知の巨人たち。社会が大きく転換しつつあるいま、時代を拓くカギは地域にあると指摘します。持続可能な未来へのビジョンを語っていただきます。

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2021年09月13日 (月)

競争する社会から 「共創」する社会へ  経済思想家・斎藤幸平さんインタビュー【後編】

saitokohei.jpgのサムネイル画像のサムネイル画像のサムネイル画像地域の「共創」が社会を変えていく (後編)

 『人新世の「資本論」』が大きな話題となっている経済思想家で大阪市立大学准教授の斎藤幸平さんに、これからの地域社会が持つ新たな可能性について語っていただきます。

 

 ヨーロッパで広がるミニュシュパリズム(自治体主義)の動き

 ——国など大きな単位から下りてくる政策ではなく、地域の市民たちが自分たちのコミュニティを動かしていく。ヨーロッパでの新しい動きについてもう少し教えてください。

 新自由主義のもとで行われてきた、民営化、行きすぎた規制緩和、民営化の中で、水とか電気や住居や医療など、人間の生活に欠かせない基本的な部分すら、お金がなければ利用できない状況になり、経済だけではなく、命の格差と貧困は広がるばかりです。ヨーロッパを中心として今起こっているのは、社会がここまで脆弱になってしまった状況を、市民の力で逆転させていこうという動きです。今、その動きの中心になっているスペイン・バルセロナ市政などの動きは、「ミニュシュパリズム(自治体主義)」と呼ばれています。

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新たな「自治体主義」が生まれているスペイン・バルセロナ

バルセロナでは、リーマンショックで打撃を受け、その後、観光業依存による物価上昇もあって、市民は長く疲弊してきました。そんな中で、大企業に地域の富を吸い取られるだけの社会を変えたいという市民運動が巻き起こっています。

 バルセロナでは、景気回復を狙った観光業依存によるオーバーツーリズムで、市民向けの賃貸住宅が民泊に切り替えられ、その結果住宅が不足して家賃が高騰し、住まいを失う人が急増してしまいました。そうした状況を改善するために、公営住宅を増やしていこうという動きが起きています。また、誰にでもモビリティ(移動手段)を保障するために、バスやカーシェアカーなどを増やしていくなど動きが起こっています。当然、それらを動かす電力はできるだけ再生可能エネルギーにし、電気自動車やバスを増やして、“環境と平等”に配慮した地域改革が行われています。

 まさにコモンを市民たちの手に取り戻すという動きが、明確な意志を持って、かつ住民たちの自立的な参画を促すような形で進んでいるんですね。市民たち自らが、そのような動きを望んでリーダーを選ぶようになっている。この動きは、たとえばパリ、そしてオランダのアムステルダムなど、ヨーロッパのさまざまな地域に広がり、影響を与えています。

 「競争」から「共創」する社会へ

 これまでの新自由主義の競争型の社会は、私たち自身がそれをもっとも「効率的」なものとして追い求めてきたわけですが、そうやって成功した裕福な人たちが、車を何台も持ち、飛行機でたくさん移動して、限りある資源を浪費し、環境に大きな負荷を与える社会になってしまった。水や電気や食べ物など、自分たちが生きていくに必要不可欠なものを、何でもかんでも大企業に任せてしまってきた社会。そのひずみが目に見えて起こっている今、私たちはもう少し経済活動を、スローダウンさせていかなければいけない。

 環境という観点からも、持続可能性という観点からも、安定した雇用を作り出して平等にしていくっていう観点からも、その流れを創っていくことが重要だと思っています。「競争」ではなく、共にコモンを創っていく、「共創」する社会へ。最近はそんな言葉を使っています。

 ——「共創」といった観点から、「NHK地域づくりアーカイブス」で印象に残った動画はありますか?

 大阪の豊中市社会福祉協議会の取り組みを動画で拝見しました。定年退職した男性たちが参加している、都会の共同農園「豊中あぐり」の話は、見ていてとても面白く、刺激を受けました。団塊世代の、これまで仕事一辺倒で猛烈に働いてきた世代が、定年されて、肩書きも仕事も失ったとき、孤独になりがちであると……。

 資本主義は、もともとあったはずの地域を含めたさまざまな共同体を破壊していって、そこに、商品経済社会を作り出していく。それはしがらみもないし、自由で気楽で、かつ何でも手に入るから便利でしょう? とみんなそれを享受してきましたね。もちろん、田舎のそういった共同体的な息苦しさから逃げたくて、都会に出て働いてきた人たちもたくさんいるわけですが、その結果どうなったかというと、私たちは、誰かを頼りたくても、隣人すら頼れないような社会で、必死で働くしかなかったわけですね。

 頼る人は家族しかいない。家のローンを払い、子どもたちを大学に行かせるために、趣味もなく週末も働き続けるような生活を送ってきた、そんな人たちが多くいる。これから高齢化が進む社会で、無縁で、孤立した生活をせざるを得ない人たちはこれからもどんどん増えていくでしょう。そんな中で、今のコロナ禍……。もはや、その人が生きているか死んでいるか、気にしてくれる人もいないような……。そんな状況はすでに現実のものになっています。

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 豊中あぐりの農園に集う人たち。この場で新しい「縁」が生まれている

「創縁」や「共創」が地域の新しい可能性を広げる

 だからこそ、豊中社協のように「農業」という、いわばそれまでの都市型の資本主義社会とは真逆の体験を、地域の人々で共有していこうという試みは、大変面白いですね。農業とは、自然と向き合うことでもあります。これまでの私たちの価値観では、自然というものはあくまでも人間が操る対象に過ぎなかった。そこからいかに効率的に原材料やエネルギーを取り出し、消費するか、という考え方です。

 しかし、農業をするということは、その野菜が、今何を求めているのか、水なのか、肥料なのか……そんなことを真剣に考えていかなくてはいけないし、思い通りにも全然ならないでしょう。思い通りにならない自然の中で、自分がどう生かされているのか。そのような体験を通して、今まで考えてもみなかった環境や、食べものについて、見つめ直すことになるのだと思います。

 「創縁」も「共創」も、どちらも、今までの価値観を自分で崩して、新しい共同体を創るという意味では、非常に近い考え方だと思いますし、それを、豊中市のような、ある程度の規模がある自治体で行っているということは、まさに、コモニングであり、地域再生の形です。非常に面白いなあと感じましたね。

 ——他には、印象に残った動画はありましたか?

 子ども食堂などの地域の取り組みに関する映像はとても興味深かったですね。京都大学の藤原辰史さんが『縁食論』という本を出されていますが、そこでも「共にごはんを食べる」という、地元にある緩やかなつながりが、いかに重要かということが書かれています。みんなが集まれる場所を地域の中に作れば、そこが共同性の基盤になるんです。ただ、場所を作るだけでは人はなかなか集まらないけれど、そこに「食」という誰もが必要とするものを置くことで、さまざまな人たちがそこに集まってくる。

 さらに、その「食」を地元の農家や自分たちが作った野菜でまかなっていくことで、さらに交流も広がります。地元の、顔が見える人たちが作った野菜ならば、安心して食べられる。僕は、図書館にそういう場所を作ったら良いのではないかと思います。食堂みたいなスペースを作って、みんながごはんを持ち寄って集まるような。そこで世代を超えた人たちが会話をしたり、悩みを相談できるような場所が生まれたりすれば面白いなあ、と。そんな思いで動画を見ていました。

 農業でも、子ども食堂でも、何かひとつ協働してできることがあれば、災害など、万が一のことが起こったときも、「あの子は大丈夫かな?」と、お互いを心配し、声をかけていくことができるし、助け合うことができる。そして他者に貢献できることが、新たな生きる力にも繋がっていく。

 これから災害が続いていく時代の一つの共助の基盤にもなるし、今、この競争社会で生きづらさを感じる人たちにとっても、多様な価値観のコミュニティが身近にあれば、自分の居場所が生まれて、生きがいも生まれ、人生が再び楽しくなるようなチャンスにもなるのではないかと思いますね。そしてそれこそが、地域の活性化につながるのかもしれません。

 地域の活動が学び直しのきっかけになって、そこをベースにして自分たちが貢献できることを、1人1人が見いだして、みんなで新しいコミュニティを創っていく。とても素晴らしいですね。そうしたコモン的な価値観を自分たちで作り出していくことは、資本主義の現代社会においても、十分に可能だと思っています。

 何十年も都会で働いてきた人たちであっても、一度リセットして、小さな一歩から新しい価値観を創り出すことができる。豊中のみなさんのような地域の試みが、少しずつ広がっていけば、僕の言うコモン型社会、コミュニズムが実現されていくのではないかと思いますね。

 地域づくりこそがコモンを取り戻す最前線

 ——最後に、今、地域作りの現場で頑張っているみなさんにメッセージを。

 今、資本主義そのものが大きな行き詰まりを見せている状況にあるということは、多くの人が実感していることだと思います。ベルリンの壁が崩壊し、ソ連が崩壊してから30年。この社会は新自由主義的資本経済に覆われてしまったわけですが、この30年を評価するとき、やはり、あまりにも格差と貧困が広がり、大きな負担を与えた地球環境は、もう後戻りができない状況になっています。

 私たちは今、この行きすぎた社会のあり方を抜本的に見直し、システムチェンジをしなければいけない、時代的な転換点に立っています。このまま行けば、ますます格差は広がり、気候変動も進行していきます。地域作りアーカイブスのみなさんの活動は、そうした時代にあって、地域の共同性とコモンを取り戻すという、非常に重要で、かつ大きなスケールの運動だと僕は思うんですね。こうした活動が日本のあちこちで生まれてきているということは、世界的な動きから見ても、決して偶然ではないと思います。

 みんなが一つにまとまって、例えば政党を作って社会を変えなければならないとか、そういう話でもなくて、みんながそれぞれの地域の現場で、しっかりとしたエコロジーの形を作っていくことが重要だと思います。それらが連動し、ゆるやかに繋がっていくことが重要で、それはあたかも、私たちの体を成り立たせている血管を流れる血液のように機能していくはずです。それがもっと大きな生態系として成り立っていけば、社会がこれから直面するであろう大きな問題にも、きっと対抗し、対応していけるだけの力になると思います。

 そのようなレジリエンスの高い社会を創っていけるのではないかと僕は期待しています。それは、もはや経済成長は望めなくなった先進国社会の新しい未来、新しい豊かさを切り開いていくことでもある。だからこそ、この動きに、若い人たちにも多く参加して欲しいと思っています。

 コモニングや市民営化は、人々のネットワークや共同性、縁のようなものが絶対に必要になってきますし、僕はその「縁」をマルクス由来の「アソシエーション」と呼んでいます。そのようなアソシエーションを創っていくことはとても重要です。そこでは、企業社会資本主義社会のような、経済重視、男性中心の価値観とは違う、ジェンダー平等も含めた多様な価値観が必要で、そういうコミュニティを作り上げていくには、みんなで話合って、ルールや目的を作っていくことが重要です。

 地域の繋がりの中で、そのようなアソシエーションを構築していくこと。そのような関係性を増やしていくことがこれからの時代はより重要になってくることは間違いありませんし、その動きが広がってくれば、その発展を、自治体や政府がサポートすべきだという声も当然強まってくるでしょう。みなさんがやっていることは、一件小さな試みのように見えますが、ゆるやかなネットワークを繋いでいって、日本全国にそれが広がれば、きっと社会は変わるのではないか。そう期待しています。

 

 

 

 

 

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インタビュー・地域づくりへの提言

斎藤幸平

1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx’s Ecosocialism : Capital,Nature,and the Unfinished Critique of Political Economy (邦訳『大洪水の前に』)によって権威ある「ドイッチャー記念賞」を日本人初、歴代最年少で受賞。『人新世の「資本論」』(集英社新書)で新書大賞2021を受賞.

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